第二話
それからの『神風』と魔物達の戦いは壮絶を極め、三日三晩にも渡った。
そして戦いが終わり五日ほど経った頃、南からの討伐隊より一足早く三人の男たちが王都の門前までやってきた。
「噂には聞いていたが、『神風』とはここまで強いのか。もはや人の域を越えているぞ」
その中の一人の男が驚き半分呆れ半分の声で言った。
男が呆れたのも無理はない。何故なら今、男たちの目の前にはこれまでに見たことがない程の多くの魔物の屍が転がっているからだ。
そして、その全てが王都にたどり着く前に何者かによって葬られている。どの死骸も傷の切り口が同じであるところを見ると、やはり『神風』が一人でこの数の魔物を片付けたのだろう。
「それで、こんな馬鹿げたことをやってのけた張本人はどこにいるんだ?」
この様子だと、全てが終わった後に力尽きていてもおかしくない。男がそこまで考えた時、門の近くまで行っていた別の男から声がかかった。
「おーい!こっちに人がいるぞー!」
なるべく魔物の屍を踏まないようにしながらそちらに向かうと、閉められた門に背を預けて静かに座っている少年の姿があった。返り血で全身が真っ赤に染まっており、どんな顔をしているのか区別もつかないが、どうやらこの少年が『無敗の五将』の一人『神風』の正体のようだ。
「こいつ、生きてるのか?」
男が疑わしげに問うと、発見した男は迷いなく頷いた。
「さっき確認したら息をしていたから、生きているよ」
「お前、よくこんなぼろ雑巾みたいな奴に顔を近づけられたな」
「まあな、魔物の血が臭くて鼻が曲がりそうだったぜ」
そう軽口を交わす男二人に一人の気弱そうな男がおずおずと口を開いた。
「あの、本当にやるんですか?この人は王都を魔物達から守ったんですよね?それを……」
気弱そうな男の発言に男は鼻を鳴らした。
「別に命を取る訳じゃねえんだからいいだろ。それに、たったこれだけの仕事で俺達みたいなゴロツキじゃ到底稼げない大金が手に入るんだぜ?」
「それは、そうですけど……」
「俺はお前が抜けたっていいんだぜ?そうしたらお前の分余計に金が貰えるからな」
男がニヤリと意地の悪い笑みを作って言うと、気弱そうな男はうっと言葉を詰まらせ、それ以上何も言わなかった。この男にも何かしらの金がいる理由があるのだろう。
「じゃあ、やるぜ?」
男が二人に確認とると、二人は同時に頷いた。
それに頷き返してから、男は見るからに頑丈そうな手錠を取り出すと躊躇いなく少年の手首にそれをはめ込んだ。
「悪いな。よく知らねえが、上からの命令なんだとよ」
ふと、少年の隣に目を向けるとそこには一振りの黒刀が地面に突き刺さっていた。持ち上げてみると、思いの外重かった。
この少年は、この刀を振り回しながら一体何を考えていたのだろうか。柄にもなく、男はそんな事を考えた。しかし、自分には何の関係もないことだ。
「『罪状は何でもいいから、神風を牢屋に放り込んでおけ』とはな……。本当ならお前さんはこの世界の英雄なのにな、本当に魔物と人間、俺にはどっちが恐ろしいのか分からねえや」