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第十三話

翌朝、ネネに見送られゼファーが村の森へ続く道を歩いていると横道から現れたバッカスに声を掛けられた。


「よう、ゼファー。もう狩りに行くのか?」


「はい、そのつもりです」


答えると、バッカスは不満げな顔になった。


「それなら、俺も誘えよな。別になれ合わなくてもいいからよ。二人の方が狩りの効率も上がるだろう?」


ゼファーは誰かと共に戦った経験が余りないため、断ってもいい所だ。しかし、今ゼファーは本来の力を出せないでいるのでバッカスの言うとおりにした方がいいかもしれない。


「そう、ですね」


「決まりだな。さあ行こうぜ相棒!」


バッカスは人の良さそうな笑みを作ると、ゼファーの肩を叩いてくる。が、ゼファーはそれをひょいっとかわした。


「別に、今だけですよ」


力さえ戻れば、この先にある森にいる魔物を狩り尽くす事だってできる。今は、我慢の時だ。

ゼファーはバッカスから目を離し、すたすたと歩いていった。



少し歩くと、果物屋の近くに村長トキの姿が見えた。どうやら買い物をしているようだ。

トキはゼファーとバッカスを見つけると、こちらに歩いてきた。


「お主等、もう狩りに行くのか?ちと早くないかのう?」


「少しでも多くの魔物を狩っておきたいんですよ」


ゼファーが言うと、トキは首を傾げた。


「この近くに、そんなに魔物がおるのか?」


バッカスがゼファーを指差して答える。


「ゼファーが言うには、な。でも、昨日いつもより奥に入ったら確かにうようよいたぜ」


バッカスの言葉から何かを感じたのか、キは表周りを見回すと情を引き締め、自分の屋敷を指し示した。


「ここじゃ人の目があるからの。あたしの家で話した方がよさそうじゃな」



トキに促され、屋敷に入るとバッカスは何度か来たことがあるようで勝手知ったる足取りで部屋に入り、向かい合わせに置かれている二人掛けのソファーにどかっと腰掛けた。ゼファーも何となくその隣に座る。


トキは後から部屋に入ってくると、ふんぞり返って座るバッカスを手に持った杖で小突いた。


「こんの馬鹿者が!」


「いてっ!なにすんだよトキ婆!」


「なにすんだじゃないわ!森に何か異変があったら逐一報告するように言っておいたじゃろうが!」


先程から怒りを堪えていたのだろう。怒鳴るトキにバッカスは首を傾げた。


「そうだっけ?」


「そうじゃ!」


どうやら、バッカスは昨日あったことをトキに報告していなかったようだ。

トキはゼファーにもじろりと目を向けてくる。


「ゼファー、お主もじゃぞ。何かあったら報告するのは当たり前のことじゃ」


「すみません」


ゼファーは普通の兵士とは少し立ち位置が異なっていたため、当たり前の事ではないのだが、素直に謝っておいた。


トキはふんと鼻を鳴らすと、ゼファー達の向かいに腰を下ろした。


「まあよい。それで?一体あの森はどうなっておるんじゃ?」




「第Ⅲ種じゃと!?」


説明を聞いて、トキの第一声はそれだった。

声を荒げるトキにゼファーは静かにうなずく。


「最初は半分の確率でいると思っていましたが、昨日比較的村に近い場所で第Ⅱ種の魔物と出くわしました」


ゼファーの言葉をトキが繋ぐ。


「そうなれば、それ以外にもⅡ種の魔物はいるじゃろうな。そして、それだけの数のⅡ種を従えられるのはⅢ種の魔物しかおらんわな」


「はい、僕もそう思います」


「俺達じゃⅢ種を倒せるか分からねえ。トキ婆、中央から人を呼べねえか?」


トキは目を閉じて暫く考え込んだ後、ゆっくと首を振った。


「それは無理じゃな。ゼファーを寄越して貰うのも大変じゃった。こんな辺境の村、普通は相手にされんのじゃよ」


「でもよ、一回頼んでみれば」


「そもそも、これ以上中央の者を呼べば、皆も黙っておらんじゃろう」


「そうだな」


バッカスが重々しく頷いているが、ゼファーには意味が分からなかった。この村の人達は中央の者と何か確執があるのだろうか。


「バッカスさんの言った通り、現時点では二人で第Ⅲ種を狩ることは難しいです」


ゼファーの言葉にトキの目の色が変わり、眼光が鋭くなる。先程まで果物屋で買い物をしていた老人とは雰囲気がまるで違っていた。


「お主の言い方じゃと、時期が来れば狩れるように聞こえるんじゃが?」


「はい、もう少し時が経てば何とかできるようになります」


「それ、信じていいんじゃな?」


トキの問いにゼファーは肩を竦めてみせた。


「まだ会って間もない人にほらを吹いても仕方ないでしょ」


ゼファーの答えにトキは頬を緩めた。


「それも、そうじゃな」


話が一段落着いたので、ゼファーは立ち上がって部屋を出ようとした。しかし、トキに止められてしまう。


「ちょっと待つんじゃ」


「なんですか?」


「悪いんじゃが、お主達から村の皆にも説明してもらえんか。ついでにゼファーの紹介もすればよい。」


「紹介なんていらないですよ。そんな事している暇があったら少しでも多くの魔物を狩っていた方がいい」


そう言って立ち去ろうとするが、今度はバッカスに止められてしまう。


「まあ、いいじゃねえかそれくらい。お前は早めにあいつ等と顔合わせしといた方がいいぜ」


「どういう意味ですか?」


最後の方が気になり聞くと、バッカスは困ったように苦笑した。


「まあ、行けば分かるはずだ」


いまいち要領を得ないが、バッカスの言い分だと直に分かるのだろう。それなら、今気にしても仕方ない。


「分かりました。やりますよ。そういえば、ネネの紹介はしたんですか?」


ゼファーの問いにバッカスは渋い顔をした。


「いや、してねえ。あの嬢ちゃんは奴隷だしな」


「じゃあ、別に僕もする必要ないんじゃないですか?僕も同じようなものですし」


ゼファーは元罪人だ。奴隷が主人の道具だとするなら、中央の騎士は王都の道具だ。そこに大した差はない。


「いや、でもよ……」


バッカスが言葉に詰まる。それを見かねてか、トキが口を開いた。


「そうじゃな。ゼファーがいいと言っておるんじゃし。一緒に紹介しても構わんじゃろ」


「まあ、そうだな。ゼファーの抑制剤にもなりそうだし。それなら、やってくれるんだな?」


二人の雰囲気から、ゼファーは一筋縄ではいかない何かを感じ取った。もしかしたら、この村の事情と関わりがあるのかもしれない。

そんな事を考えながら、ゼファーは無言で頷いた。





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