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第十一話

「魔物がこの森にぎょうさん居るのは分かったけどよ、じゃあどうすればいいんだ?」


ここアルムの村が危険な状況下にあることは分かった。それなら、そこから脱するために何らかの手段をとる必要があるはずだ。バッカスが問うと、ゼファーは顎に手を置いて答えた。


「そうですね。全ての魔物を狩り尽くすのが一番ですけど、現段階では難しそうなので先ずは村近くにいる第Ⅰ種の魔物から狩っていきましょう」


「それじゃあ今まで俺がしてきたことと変わらねえじゃねえか。それに何か意味があるのか?」


「意味はあるはずです。第一、僕とバッカスさん二人になったことで魔物を狩れる数が大きく増えます。そうすれば、向こうもそう簡単に村に近付けなくなるはずです」


「魔物がそんな事まで考えられるのか?」


バッカスは魔物に対して、動物より強い新種の動物というくらいの認識しかないため、そこまでの思考能力があるとは思えない。しかし、ゼファーは首を振った。


「確かに、第Ⅰ種程度の魔物なら不可能でしょう。でも、長い年月生きてきた魔物には人間を遥かに上回る頭脳を持ったやつもいます」


「そんなやつがいるのか?」


「第Ⅲ種の魔物なら、殆どが人間に匹敵あるいは上回る知能を持っています」


「第Ⅲ種だとっ!?」


バッカスは思わずんだでいた。第Ⅲ種の魔物とは通常なら小隊を組んで狩りにあたる程強力な魔物だ。もし、この森にそんなのがいるなら、絶望的だ。


「多くの魔物が集まっている場合、必然的にその中に群れを仕切っているボスがいます。この森にいる群れの規模だと、そのボスが第Ⅲ種である確率は五分といったところです」


ゼファーは淡々と答えるが、バッカスはとても冷静ではいられなかった。バッカスは何度も戦場を経験しているが、第Ⅲ種の魔物と戦った事があるのは一度だけだ。


「俺は……『聖戦』の時の一度しか第Ⅲ種の魔物と戦ったことがねえ。第Ⅱ種の魔物も五人のチームでしかやってねえ」


「それが普通ですよ」


あくまで冷静なゼファーにバッカスの体がカッと熱くなった。


「お前は何でそんなに冷てえんだよ!お前、自分がなに言ってるのか分かってるのか!?この森の向こうに俺達じゃあ手に負えない魔物がいるなら、この村があいつ等に滅茶苦茶にされるのを黙って見てるしかねえじゃねえか!?」


掴みかかるバッカスにゼファーはその冷たい光を宿す目をすっと細めた。


「誰が、手に負えないなんて言ったんですか?群のボスが第Ⅲ種の魔物かもしれないとは言いましたが、勝てないとは言ってないでしょ」


「勝てる……のか?」


バッカスの問いにゼファーはちらりと森に目を向けた後答えた。


「勝つんですよ。そのために、僕はここに寄越されたんでしょうから」


「でも、どうやって」


「それは、また追々話します。今は、さっき言ったように手近な魔物を狩っていきましょう」


そう言い終えると、ゼファーはバッカスが何か言う前に森へと歩いていった。


「お、おう」


確かに、今できそうな事はそれくらいだ。バッカスは慌てて後を追いかけた。




森に入って数時間経ち、バッカスとゼファーはバッカスが普段入らない奥の方に進み順調に魔物を狩っていた。特にゼファーは凄かった。バッカスが一体狩っている間に、ゼファーは三体は葬り去っていてしかも全て一撃で片付けていた。やはり、ゼファーはバッカスより確実に強い。


バッカスの額に汗が流れる。今の所第Ⅰ種の魔物としか遭遇していないが、それでも魔物なので一瞬の油断は命取りだ。軽い攻撃でもまともに食らえば一気に命を失うこともある。魔物との戦いは身体的には勿論、精神的にも消耗するのだ。


「あいつ、どんな神経してるんだよ」


それにも関わらず、先程からゼファーの動きに乱れはなく表情も変わらない。


「バッカスさん、後ろです」


ゼファーの声に振り向くと、狼形の魔物が大口を開けてこちらに接近してきていた。


「おらあっ!」


バッカスは手に持った大剣を横凪に振って魔物の頭を叩き斬った。何か固いものを潰した感触がバッカスの手に残る。


「サンキュー。助かったぜ」


バッカスの礼に答えることなく、ゼファーは森の先に目を向けた。


「そんな事より、次が来ましたよ。日が落ちてきましたし、今日はこれで最後にしましょう」


バッカスもそちらに目を向けると、狼形だが今まで相手をしていたものより一際大きい魔物が出て来た。


「でかいな。Ⅱ種か?」


「恐らく、そうでしょうね。予定外ですが、やるしかありません」


ゼファーはそう言うと、こちらに近付いてきた。


「こいつは二人で戦いましょう。算段はこうです」




☆☆☆




作戦会議を終えると、ゼファーは魔物と真正面から向き合った。赤い肌に同じく赤い目を持っているがこれまでとは異なり、バッカスより五十センチほど高い位置に頭がありどこか貫禄のようなものを感じる。間違いなく第Ⅱ種の魔物だろう。


「では、バッカスさん今言った通りにいきましょう」


まだ昔のような力が戻ってきていないが、この程度の魔物なら、一人でも狩ることができる。しかし、相手が第Ⅲ種になると難しいところだ。バッカスの力を借りることになるだろう。これはその時のための練習だ。


「おう!」


バッカスはそう応えると、両手で大剣を構えた。なかなか隙のない構えをしている。ゼファーは少なからずバッカスを認めていた。そうじゃないと、そもそも二人で戦おうなんて思わない。


「準備はいいですね。いきますっ」


ゼファーは黒刀を片手に持った状態で身を低くして、魔物に素早く正面から近付こうとした。

しかし、そうさせないように魔物が子供なら簡単に踏みつぶせそうな右前足をゼファーから見て左方向から繰り出してくる。

ゼファーは魔物の鋭い爪をギリギリまで引き付けて飛び上がりそれをかわすと、黒刀で魔物の右目を斬りつけた。


「ウガアアッ!」


相当痛んだのか、魔物が前足を無茶苦茶に振り回して暴れるがゼファーはそれをかわしながら後退して距離をとる。


「いくぜ!」


すると、魔物の後ろからバッカスの声がした。実を言うと、バッカスは魔物が暴れ始める前から魔物の後ろに待機していたのだ。

ゼファーの算段とは、先ず、ゼファーが魔物に接近して相手の右目を斬る。そして、バッカスが斬られて見えなくなった魔物の右側から回り込むことだった。


「っらあ!」


バッカスは大剣を振り上げると、未だに混乱している魔物の背中を深々と叩き斬った。


「ギャンッ!」


後方からの突然の攻撃に魔物が前のめりになる。そこには、待ってましたとばかりに刀を構えているゼファーがいた。


「しっ」


ゼファーが神速の横切りで魔物の首を切り裂き、魔物は声を上げることなく崩れ落ちていった。魔物が力尽きたことで、辺りを包んでいた殺伐とした雰囲気が霧散していく。


「よっしゃあっ!作戦通りだぜ!」


野太い声で雄叫びをあげるバッカスをよそにゼファーは予め持ってきておいた少し大きめの麻袋の中に、辺りに散らばっている魔物達の爪や牙を入れていった。


「お前、何やってんだ?報酬ならトキ婆がくれるんだから、そんなもん集めて売らなくても金は入ってくるんだぜ」


バッカスの言葉にゼファーは深い溜息を吐いた。


「僕の家には同居人がいるんでね、その分もいるんですよ」


「それでも金は余ると思うけどな……ってそうか!」


そこで首を傾げていたバッカスが納得したように手を打ち、その強面の顔を崩して笑った。


「お前、なんだかんだ言っていい奴だよな」


ゼファーはそれを無視して淡々と作業を続けた。

きっと帰りを待っているであろう優しそうな顔をした少女を思い出して、はあと溜め息を吐きながら。







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