プロローグ
2015年5月13日(水)午後6時
今日の俺の1日はすっかり暗くなった頃から始まった。
カーテンを閉め切り、つけっぱなしのデスクトップパソコンのファンが溜まった熱を放出しながら、わずかな音を出し続けている。
確か寝落ちたのが今日の午前4時頃だったので、たっぷり14時間ほど寝てしまっていた計算となる。
寝すぎてしまった時特有の倦怠感に苛まれながら、ベッドから這い出した俺はパソコンの前まで行き、マウスを素早く動かす。画面がスリープモードから解除され、見慣れたデスクトップ画面へと移行する。
昨夜はMMORPG「Strike fantasy」の大規模イベントがあり、7人のギルド仲間とともにレイドを組んでいた。無事攻略できたのが、午前4時だったというわけだ。
「Strike fantasy」内では、高レベルプレイヤーであることも有り、大きなイベントがあれば必ず参加している。特に「Strike fantasy」の世界が好きだとか、MMRPGが好きだとかではない。暇になり、なんとなく始めてみたMMORPGであったが、単調な作業で膨大な時間を消費する事は時間がある者にとっては楽なのだ。また、進めて行くうちに多くのプレイヤーから頼られ、尊敬されることが快感でもあり、その信頼や尊敬に答えなければという使命感にも似た何かが俺をこのゲームへと縛り付けていた。
1K 家賃4万5千円のこの部屋で今日も俺は外に出る事なく、ひたすらにゲームとアニメと漫画と掲示板をあさり、コンテンツを消費して行く。
無限にあるように感じる時間で考える事を放棄するかのごとく、覚醒時にはなんらかのコンテンツを消費しつづけて暮らして行く。
今日は一体、何年何月何日何曜日何時何分何秒なのか。パソコンやスマホを見れば一発でわかるが、自分に問おても判断できない。
そんな空虚で非社会的な生活を送り続けている。
何度「死んでもいいなー」と考えたか。
日を重ねるごとに多くなる独り言が、自己のこころの荒みの進行を表している。
やりたい事は「ない」
将来の夢は「ない」
成りたい者は「ない」
何度問われたかもわからない問いを思い返すたびに空虚な自分に絶望する。
日々減り続ける口座残高はまるで自分のHPのようで・・・
この数字が0になったとき、自分は死ぬんだという妄想は確信を持って俺をすり減らして行く。
これが現代社会の底辺なんだと。
俺はあの時まで思っていた。
どうしようもないぐらい自業自得で、救われるはずない生活を送りながら。
きっとなんとかなるのではないかという、どうしようもないぐらい甘ったれた自己肯定をしていた。
だけど、思い知らされる。
俺のパソコンに届いた1つのチャットから。
” コウキさんが貴方を「virtual society」に招待しています。http://www.virtualsociety.jp/ ”