かつて勇者の一人と呼ばれた者の話
-私は今、とある男性を訪ねてこの農村に来ている
大陸戦争の英雄の一人がこの村に居ると、突き止めたからだ-
この村に客とは珍しいな
わざわざ王都からか
何もないが、休養には良さそうなところだろう?
ここには休暇で来たのか?
-彼は私が休暇で来たのだと思ったようだが、彼への取材だと言うと珍しげに、だが暇だったのだろう、取材に応じてくれた-
俺への取材のために来た?
随分な物好きが居たもんだ
そう言うのは慣れてないんだが、たまにはいいか
ちょうど暇だったんだ
それで、俺に何が聞きたいんだ?
-私はかつてあった大陸戦争の話を、勇者の一人である彼に聞きたいと言うとかれは勇者の部分を否定して話そうとした-
ほう、大陸戦争について聞きたいのか
随分懐かしい事を
だがあいにくと俺は勇者とは関係ないぜ
-しかし私は勇者としての話が聞きたかったため、私が集めた彼が勇者である様々な証拠を見せ、問い詰める
すると、どうやら観念したようで、静かに大陸戦争について語り始めた-
俺の負けだよ
まぁ、たまには昔話も悪くない
当時この大陸は人族・獣人族・エルフ族・亜人族からなる人間種族と、魔人・魔獣などからなる魔種族の二大勢力に二分されていたんだ
もちろん大戦以前もちょっとした小競り合いはあったし、軍が派遣される規模の魔獣も出たりしたぜ
まぁ、魔獣は今でもそれなりに見かけるし、狩りにも行くしな
アイツら数だけは多いからな
-失礼、魔人はいまはどうしているので?-
ヤツらは元々少数の種族でね
しかも基本的には単独行動主義だから、後期に各個撃破されて、終戦間際に滅んだよ
それでも終戦間際まで持ったんだから相当に強かったぜ
-成る程、あぁどうぞ-
その魔種族は単独行動がほとんどだから対処はしやすかったんだが、あるとき魔種族を統べる魔王を名乗るものが現れ大陸の各国へ宣戦布告
けど大半の国は本気にはしていなかったんだ
魔獣は頭が残念だし、魔人はプライドが異様に高い
だからそんな魔種族を統べるなんて出来る訳がないと考えていたんだ
だが実際は違った
今思えば小手調べだったんだろう、魔獣を中心とした魔王軍が攻め込んできたんだ
油断していた各国は、開戦時にいくつか町を襲われ落とされたが、この頃はまだマシだったよ
いくら群れても魔獣の頭は残念だから、ちょっとした策と罠で十分対処できたのさ
-残念と言うと、どれくらいなのでしょう?-
-魔獣を見たことの無い私はふと疑問に思い尋ねると、少し面白そうな顔をして話してくれた-
そうだな…丸見えの罠に仲間が殺られるのを見ても突っ込むのを止めない
これを永遠繰り返す位には、まあ残念だったな
魔獣ってのはあんたも知ってるだろうが、森なんかの魔力溜まりに獣や虫が入り込んで変化したもので、体格や筋力が大幅に上がり知能は変わらないとされてるな
けど、実際はその変化の際に知能がかなり下がっているんだ
これは今も昔も都会じゃあまり知られていない
あんたは王都暮らしだろう?
ならそうそう出会わないだろうから、知らないのは仕方ないさ
まぁこの辺りや、他のいわゆる辺境では定期的に狩るし、元の獣がどんなのか知ってるから、大人なら誰でも知ってる
機会があったら魔獣狩りに連れて行ってやるよ
その方が解りやすいからな
遠慮すんなって、それともただの恐がりか?
-彼はそれとなく断る私を見てその真意をあっさり見抜き、意地の悪い顔をしていた-
ともあれ、魔獣なんてのはそんなもんだ
問題は魔人の方だ
魔人と言ってもあんたにはピンと来ないだろう?
ヤツらは大戦で絶滅してるし、資料もほとんど消失してるからな
魔人の特徴は、膨大な魔力に加え怪力を持っていたことだが、それ以上にエルフの様な容姿に捻れた角があるってのが、印象的だったな
今じゃあ公表されてないが、ヤツらはかつて黒魔法や魔獣の研究をしていたエルフだった、とする研究資料が大戦前にはあったくらいだからな
-これは驚いた
かの魔人が元はエルフである説など、どの学者も提唱していないからだ
もしかしたら資料だけではなく、研究者も亡くなってしまっのかも知れない-
本来ヤツらは魔種族の例に漏れず単独行動主体で、さらにプライドが異様に高く、基本的に自身以外を見下していた連中なんだが、あの戦争ではどういう訳か他の魔人と組み、多くの魔獣を率いていたんだ
魔人の能力に魔獣の物量
これまでは別々だったから容易に対処出来ていたが、この時はそうはいかなかったね
最初期以外殆どの戦場では、魔獣の兵士に魔人の将…
この組み合わせだ
魔獣ってのは数だけは居るから、それだけで戦力になる
どれだけ群れても使い捨てみたいだったけどな
だがソコに魔人の支援が入ると、これがなかなか厄介でね
魔獣の物量に手間取ってる内に、強力な魔法が飛んで来るモンだから厄介極まりなかったぜ
-圧倒的な物量で壁を作っての魔法発動は、数で劣る人間種族にはかなり厳しいものだったのだろう
それでも何とか戦えていたのは、やはり人間種族の頭脳のお陰か-
そんな訳で戦場はずいぶん荒れたぜ
俺が体験した中でも、戦争後期のアーディル砦防衛戦は特に酷かった
この戦い、結果だけ見れば人間側は勝利することが出来たんだが、その内実は散々なもんだった
この砦のある街は大戦中、人間種族の領域を維持してきた要所でな
それ以前は交易の場として栄えていたから、各国の主要都市に繋がる広い街道がある
故に軍隊や物資を大量に送り込めたから、各国は互いの支援や進撃をアディールを拠点として行っていたのさ
そんな重要な場所だ、生半可な軍勢じゃあ落とせない
だがこの時まではヤツらの本気の物量を、魔人の力を見誤っていたのさ
当時、人間種族全体の総戦力はだいたい5万
それに対してこの時現れた魔族の軍勢は、確か推定100万だったかな…
とにかくヤバかった
-各地の防衛もあるため、重要とは言え戦力全てを集める訳にはいかなかっただろう
それを考えると、まさに絶望的である-
俺もそのアディールで戦って何とか生き延びた一人でね
俺は当時ある王国の小隊長として様々な戦場を戦ってきたが、アディールでの戦いは他とは次元の違う何かに思えたね
そうだな、今までの戦場が小競り合いどころか、まるでピクニックに思えるほどトンでもなかったぜ
まるで死体で絨毯敷いたみたいに、辺りを見回して死体が無い場所が無いくらいには酷いもんだったさ
-そんな中だからこそ、勇者が選定されたのですね?-
あぁ、人間種族側の戦力はゴリゴリ削れていく中で、各種族の王たちは遂に各々の種族から勇者を出し、魔王を倒す事を決定した
俺や相棒にエルフのちっパイ、獣人のロリにオーガのマヌケ野郎
魔王討伐には心許ない人数だけど、勇者とは名ばかりの、言っちまえば魔王暗殺パーティだからこんなもんで良かった
支給されたのはそこそこマシな武器防具に、変装用のマジックアイテム
そして幾ばくかの路銀だけさ
馬車は見つかり易いってんで用意されていなかった
実際は馬が宝石並みに貴重に成ってたってのが理由だろうがな
出発地はアディールの下水道
勇者一行の存在は味方にも知らされていない、極秘のものだっのさ
出発した勇者一行は、時には各地方に残ってる魔人を暗殺しながら、魔王の居城を目指して旅を続けたよ
道中焦ったばかりに魔人にバレたこともあった
すぐに始末したから大丈夫だったけど、取り逃がして魔王に知らされたらと思うとゾッとするね
-彼は仲間達の事をなかなか酷い呼び方をしていたが、どうやら嫌っている訳では無いようだ
しかし暗殺者として派遣されたとは意外であった
街の劇場だけでなく、王立図書館の重要文献でさえ、始めから勇者として集められたとされているからだ-
かくして魔王の居城に着いた勇者一行は遂に魔王との決戦に挑む訳だが、相手は正面から挑んで勝てる様なヤツじゃない
そう思っていた
-そう思っていた?-
あぁ、幻惑の魔法で姿を変えていたんだ
だから、俺達は魔王が直接戦闘が出来ないヤツだとは知らずに作戦を練り、実行した
まずはオーガが暴れて城の魔人を誘い出し獣人が撹乱、その隙にエルフの魔法で壁を壊して、囮の俺が魔王に正面から挑んで、最後は変装した相棒が背後から毒濡れの剣で心臓を一突き
あまりにも上手く行きすぎてスケープゴートだと疑ったんだが、城を調べるとどうやら元は洗脳系の研究者だったらしいくてな
出てきた研究資料のサインから判った。
その資料によると、ギアスの大規模儀式魔法化に成功していたようでな
後は実験だけだと書いてあった
-詰まりは、あの戦争は研究の実験だったと?-
迷惑なことにな
ともあれ、魔王が倒れたことで魔王の洗脳は解け、各地の魔人は散らばり魔王軍は統率を失い、散り散りに成ったところを殲滅・各個撃破され滅んでいった
-随分とあっさり終わったのですね-
確かにあれほど危機的だった戦争の幕切れにしては、随分あっさりだけど、現実にはこんなもんさ
俺達は帰還してからはそれはもう盛大に歓迎されたよ
何処に行ってもそうだった
-存在自体が極秘だったに、何故歓迎されたのでしょう?-
-いくら終戦の立役者とは言え、何処からか情報が漏れていたのだろうか-
何でも、しばらく後のアディールで魔王軍の攻勢に兵の殆どが諦めていた時に、勇者の存在を表に出ことにしたみたいだ
それで、士気を維持してたそうだぜ
-成る程、それほどまでに絶望的過ぎたのだろう-
さらに有力者たちは俺達を救世の英雄、偶像に仕立て挙げ、戦後の希望とした
何もすがるものが無くなっていた当時には必要な事だとは解ってたが、どうにも一人のアホを除いて俺達には合わなくてね
一通り式典が終わってからは皆好き勝手どっか行ったよ
俺もこの村で隠居生活だしな
-他の勇者達は今のどうしているのか知っていますか?-
-尋ねてみると隠すつもりは無いのだろう、すぐに答えてくれた-
他の連中はどうしたって?
あぁそうだな、オーガのバカ野郎以外は一応行方不明だからな
最も、俺はアンタにバレちまったけどな
さて、まずちっパイエルフのヤツは王都の教会で神官やってるぜ
例のアイテムを改造したヤツで変装してるから殆どの人には判らんだろうが、同じアイテムを貰った俺達には判るのさ
ロリ獣人は今じゃなかなかのセクシーレディでな
変化が一番大きくて変装の必要もないくらいだぜ
ロリの印象が強くて皆気づいて無いみたいだが、獣人領のとある宿の女将はアイツだ
マヌケ野郎はアンタも知っての通り、王都のど真中で拝まれてる
恐らくアイツは回りの態度をイマイチ理解してない
けどそのお陰で、今の王都はなかなかの活気が有るのかもな
そして相棒は……
あいにく俺達の誰も行方を知らないんだ
ある朝ふらっと出掛けたきり、音沙汰無し
かと思えば、ふらっとやって来る
そして数日後には、行き先も告げずに旅立っちまう
まぁ相棒の事だ、どっかで元気にやってるだろうぜ
-かつての仲間達に対して散々な言い様であるが、それが彼なりの信頼なのだろう
仲間達の話をしている時の顔はとてもいい表情だった
-
これで思い出話はお仕舞いだ
どうする、今日は泊まっていくか?
-これからこの話を纏めるため、すぐに帰る事を伝えると、彼も解っていたのだろう引き留めはしなかった-
そうか、まぁ何も無いだろうが気をつけて帰れよ
じゃあな
-後日この話を纏めた雑誌は禁書に指定されてしまった
どうやら勇者の真実や魔人の説を国は隠して起きたいようだ-
-また、再編集して勇者の人柄や、居場所などを書いたものは、あまり評価されず大して話題に成らなかった
もしかしたら街の人達は彼等勇者について、既に知っているのだろう
そして彼等が平穏に暮らせる様に協力しているのかも、知れない-
誤字等有りましたら教えてください。
紗人香様にイラストを描いて頂けました。是非一度ご覧下さい。
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