最終章 魔来たり、鬼来たり
天が晴れたのを見て、逃げ出したお品に妙蓮坊、村人たちが戻ってきた。
「鬼どもは……」
いなくなっている。
「楓太郎!」
お品は倒れる楓太郎のもとまで駆け寄った。同時に妙蓮坊に村人たちも駆け寄った。
村人たちから、ありがとう、よくやった、という言葉が出るものとお品は思っていたが……。
「こやつ、鬼を、魔物を殺しよったぞ!」
「そんなことが出来るのは、同じ鬼や魔物に決まっている。楓太郎は鬼じゃ、魔物じゃ!」
「殺せ! 楓太郎を殺せ! 鬼を、魔物を殺せ!」
村人たちはそう一斉に叫ぶ。
「そんな、馬鹿な!」
お品は楓太郎をかばうものの。
「お品、ぬしゃあこやつをかばうのか」
「鬼に取り憑かれたのじゃ! 殺せ! お品も殺せ!」
と、いつの間にか手にしている鋤や鍬を振りかざして、お品に襲い掛かった。同時に、倒れて身動きの出来なくなった風太郎にも、鋤や鍬が振り下ろされた。その中には斧を持っている者もあった。
「なんということじゃ!」
妙蓮坊は顔を苦しげにゆがませて、お品の腕を掴んで村人から逃げ出す。
「楓太郎! 楓太郎!」
お品は叫んだ。妙蓮坊に引かれながら。
「どうして。どうしてこんなことに……」
出来れば村人を止めたかったが、もう皆取り憑かれたように楓太郎を殺すことにやっきになってしまっている。
妙蓮坊とお品だけでは、もう、止められなかった。
ふと振り向けば、村人は楓太郎の首を掲げていた。楓太郎は、殺されてしまったのだ。
「悲しいことじゃが。万人の心に仏あらば、逆もまた真なり、万人の心に魔ありじゃ」
村人たちは覇偉栖の出現させた魔物たちのため恐怖に取り憑かれて。魔物をたおした楓太郎にすら、恐怖を覚えてしまった。
そう、妙蓮坊の言うとおり、心に魔を生じさせて。
「魔来たり、鬼来たりなば。心にも魔来たり、鬼来たり……」
妙蓮坊は悲しそうにつぶやいた。
もうどこまで走っただろう。村人の追撃はやんだようだ。
空には月が浮かんでいる。
お品は地に伏して泣き。
妙蓮坊は月に向かって手を合わせて、
「せめて楓太郎の魂が救われんことを」
と、南無……、と唱えていた。
完




