人魔決戦 六
もとより人外の魔物である。友情などというものなど存在しない。戦えなくなれば邪魔なだけであり、始末するのは阿修羅にとって当然のことであった。
顔面を踏み潰された赤鬼はぴくりとも動かず、死んだ。
「ううむ。青鬼はおろか、赤鬼までも」
覇偉栖はうめいた。あの、臆病風に吹かれて逃げ出した楓太郎が、なぜあんなにまで強くなったのだろうか。
「妙蓮坊め、楓太郎になんぞ術でもかけたか」
楓太郎の原動力、それは、改心させてくれた妙蓮坊への感謝であり、罪を償うという意識であり、お品をはじめとする村人を守りたい、という気持ちであるなど、覇偉栖には想像の外のことであった。
「万人に仏あり」
楓太郎は妙蓮坊のその言葉に打たれて、己の中の仏を現出させようと必死だった。
「楓太郎よ、心の固きによりて神仏の守りすなわち強しじゃ。心を強く持て!」
阿修羅と対峙する楓太郎に妙蓮坊はそう叫んで。言われたとおり、楓太郎は強い心を持とうとさらに必死になったものの。阿修羅の一撃はそうとうこたえたようで、痛みはあとになってひどくなり、息も肩でしている。
だが、双眸の光に帝釈天の独鈷杵の光は衰えることはなかった。
「お、鬼を二匹もたおしよったぞ……」
村人たちはごくりと唾を飲み込んだ。まさか人が鬼に勝つなど思いもしなかったことである。そのつぶやきには、心なしか恐怖も入り交じっていた。
(帝釈天よ、我に力を!)
楓太郎はそう強く念じた。この独鈷杵は帝釈天が修羅、阿修羅を斬った独鈷杵であるという。ならば、今目の前にいる阿修羅に敗れることがあろうか。
青鬼に赤鬼をたおしたことによって、さらに手ごたえを感じ。心も強くなってゆく。すると、赤い光はその輝きを増した。
「?!」
独鈷杵がぶるぶると震えだす。何事だ、と楓太郎が不思議がる間もない。なんということであろう、独鈷杵は楓太郎の手を放れて。まるで意志ある者のように、自在に宙を舞い、阿修羅に迫るではないか。
「な、なんだ?!」
これには楓太郎も驚きを禁じえない。
もっと驚いたのは阿修羅に黒鬼に、佐久璃覇偉栖であり。お品に妙蓮坊である。
「独鈷杵が飛んでるわ……」
「うむ。楓太郎の心に帝釈天が呼応したのであろうか。よもやかようなことがあるなぞ、わしも知らなんだぞ」




