表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の門  作者: 赤城康彦
25/31

人魔決戦 四

「ふふ。お師匠さまこそ、現実を見ずに理想ばかり見られる。……や?」

 独鈷杵を手にする男、見覚えがある。そうだ、あの、楓山の赤葉楓太郎! なぜあの男がこの村にいて、妙蓮坊のものであった帝釈天の独鈷杵を持っているのだ。

「お師匠さまよ、この男、山賊であることをご存知か!」

「知っておる! 改心したゆえに、独鈷杵を託したのじゃ!」

「なんと。それがしには託さず、山賊風情に……」

 覇偉栖は歯軋りする。あれは何年前であったろうか。妙蓮坊の弟子であった覇偉栖は、妙蓮坊の指導のもと仏法を学んでいた。だがそれには下心があった。

 妙蓮坊の持つ帝釈天の独鈷杵を手にしすることであった。しかしそれを見抜いた妙蓮坊は覇偉栖を破門にし、離れ離れになった。

「お主は邪悪の心が強すぎる。じゃによって独鈷杵を渡すわけにはいかなんだ。それを逆恨みし、地獄の門など体得しよって。どこまで外道に堕ちるのじゃ」

「うふふ、御坊も言うわ。万人に仏ありなど。そんなものは所詮理想である。現実は、人間とは性悪しょうあくなもの。殺し殺されが人の世の常。ならば殺しのすべを身につけ、殺されるより殺す側につくが道理!」

「愚かな!」

「もう御託はよいわ。どちらに理があるか、雌雄を決しようではないか! やれ!」

 覇偉栖に命じられて、阿修羅と赤鬼は楓太郎に襲い掛かった。黒鬼は覇偉栖を肩に乗せて待機している。

 楓太郎の双眸が光り、帝釈天の独鈷杵を握りしめて阿修羅と赤鬼に向かって駆けた。青鬼をたおしたことで手ごたえを感じていた。

 阿修羅の六本の腕と赤鬼の両腕、計八本の腕が楓太郎にぶつけられようとする。それをかわしながら、隙をうかがうが。阿修羅と赤鬼もさるもの。右から左から、前から後ろから、素早い動きで楓太郎を四方から攻め立て。

 楓太郎はかわすのがやっとである。

「楓太郎!」

 お品は思わず叫んで、駆け出そうとするのを、妙蓮坊に押さえられる。

「そなたが行ったところで、足手まといになるだけじゃ」

「……」

 お品は悔しそうに歯を食いしばり、楓太郎の戦いを見守るしかなかった。いかに青鬼をたおしたとはいえ、今は阿修羅と赤鬼。それをたおしてもまだ黒鬼が控えている。いかに帝釈天の独鈷杵を得物にするとはいえ、人間であれらに勝てるとは思えなかった。

「独鈷杵を、楓太郎を信じるのじゃ」

 妙蓮坊はうめくように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ