人魔決戦 二
「妙蓮坊さまにお品こそ、早く逃げろ。鬼どもは俺がここで食い止める」
「いや」
「お品……」
「楓太郎、一緒に逃げよう。償う方法はほかにもあるわ。無理に鬼と戦っても、負けたらしまいよ」
楓太郎は首を横に振った。
「それでは、俺が殺した者は納得しないだろう。俺は今まで何人も殺してきた。そんな俺が生きてよいのか、悩んできた」
「楓太郎……」
「鬼と戦い、勝てばよし。負ければ、殺してきた者もいくらか納得しよう。それに……」
「それに?」
「これは誰かがやらねばならぬことだ」
お品に妙蓮坊は逃げるようにさとすものの、楓太郎はがんとして聞かない。ついには、ふたりは折れた。
「そこまで言うのなら、やむをえぬ」
「さあ、お品に妙蓮坊さま、早く逃げて」
「……うむ。任せたぞ」
苦しくうめくように言うと、妙蓮坊はお品とともに村から逃げ出そうとする。お品は何度も振り向く。
楓太郎は独鈷杵を見つめて、四方を見渡し鬼の気配をさぐる。
「……!」
楓太郎はかっと目を見開き、だっと駆け出せば。
「おおお――」
という地の底から湧き起こるような雄叫び。阿修羅に鬼どもの雄叫びである。それこそ村から逃げ出そうとしていたお品はその雄叫びにたまげて腰を抜かしてしまうほどであった。
「しっかりせいお品」
妙蓮坊はお品を支えるものの、
「もう来よったのか」
と絶句していた。他の、逃げ遅れた村人たちも雄叫びにたまげて腰を抜かし身動きままならぬ。そこへ阿修羅に鬼どもが襲いかかり、手当たり次第に殺してゆき。村はまたたくまに修羅場と化した。
「これは……」
お品を支えながら阿修羅や鬼を見て、妙蓮坊ははっとするものがあった。
「魔術・地獄の門……」
「え、地獄の門?」
「そうじゃ。己の身を魔界に託して、地獄の門となし魔物をこの人の世に出現させる、という魔術じゃ」
「そんなものが……」
「あれは……」
黒鬼の肩に乗る男を見て妙蓮坊は絶句する。知っている男である。いや、知っているどころではない。




