人魔決戦 一
領主・石田頼信が鬼に殺されて。その鬼どもは石田領内で殺戮を繰り広げている。という凶報はまたたく間に広がった。
その凶報は楓太郎が身を寄せる村にももたらされた。
「鬼だと!」
村人とともに畑を耕していた楓太郎は鬼の事を聞き、身を硬くし。あの時鬼に襲われた恐怖が蘇った。
(鬼が、来る……)
ごくりと、唾を飲み込んだ。
「は、はよう逃げんと。殿様も殺され、民百姓も虫けらのように殺されておるぞ」
と言うのは、鬼どもから命からがら逃げ延びた他の村の者であった。
「これはいかん……」
村人たちは恐慌を来たして急いで家に帰って、着の身着のまま家族の手を引いて逃げ出してゆく。まるで村は嵐に襲われたかのようである。
「楓太郎!」
「お品」
呆然とする楓太郎のもとにお品が来る。
「早く逃げなきゃ! 鬼どもは足が速いそうよ。もうすぐこの村にも来るかもしれないよ」
「あ、ああ……」
「楓太郎、お品」
と呼ぶのは妙蓮坊であった。
「鬼が来るとな」
「は、はい。皆村から逃げようとしています」
「左様か……。いかにわしとて、鬼にはかなわぬ。ふたりとも、一緒に逃げようぞ」
「いやです」
「楓太郎」
楓太郎は硬い表情をしながら、懐から帝釈天の独鈷杵を取り出した。
「俺は戦います」
「で、でも。勝てる見込みはあるの?」
お品は心配そうに楓太郎を見つめて、妙蓮坊も心配そうに見つめる。
「楓太郎、無理せずともよい。独鈷杵はお守りのようなもの。ほんとうに鬼と戦わせるために渡したのではない」
「しかし」
「せいぜいしんがりをつとめながら村人とともに逃げればよい」
「いやです。俺は戦います」
「なぜ。そこまで言う」
楓太郎は神妙な顔になり、お品と妙蓮坊を見つめる。
「俺は、今まで散々悪さをしてきた。その償いがしたいのです」
「償いって……」
お品は絶句した。すでに独鈷杵から赤い棒状の光が出ている。楓太郎の念が出させたのである。と言うことは、楓太郎は本気だ。




