地獄の門は開かれる 五
「おおお、おぬし」
「いやあ、楽しませていただきました」
「楽しませていただきました、だと」
「左様。それがし、ひと時の間人の世で遊んだまで。人とはいかなるものか、ちと見たかったのでございます」
「くっ……」
「殿は武力をもって隣国を攻め、その領土および財産を手にしようとなされた。それは楓山の赤葉楓太郎と変わらぬことではございませぬか」
「わしが、山賊風情と同じじゃと」
「左様。同じでございます。山賊も、大名も、所詮は同じ穴のムジナ……」
「おのれ」
「さて、戯言はここまで。死んでもらいましょうぞ」
「ま、待て。待ってくれ! 何が欲しい、わしに協力すれば褒美は思いのまま……」
そう言う間に、黒鬼は重時の胴を掴んで持ち上げ。赤鬼と青鬼は馬の前脚と後ろ脚を掴んで引っ張って、馬が悲痛な悲鳴をあげるのを楽しみながら四つの脚をもぎ取り引き千切ってしまった。
哀れ脚を失った馬は芋虫のように地をのたうち。それに赤鬼と青鬼はがぶりつき、肉を食らってゆき、またたくまに胃袋に治めてゆく。なんという食欲であろうか。
「た、助けてくれ!」
頼信と同じく、懇願し失禁する無様さで。阿修羅は三つの顔をにやつかせて、上の腕で首を掴んで。真ん中の腕で腕を掴んで。下の腕で足を掴んで。六本の腕に力を込めれば、首、腕、脚が瞬時に胴から引き千切られてしまった。
「おおお――」
鬼どもと阿修羅は地の底から湧き起こるかのような雄叫びを上げて。それぞれ手に持つ肉塊にがぶりつき、ほお張って食らってゆく。
阿修羅も鬼同様人肉食嗜好であった。
「ふふふ、ははは――」
覇偉栖は高らかに笑った。身をつつむ漆黒の影の中で笑った。
「いいぞ、いいぞ。魔術・地獄の門を体得して、人の世で遊ぶのが楽しくなったものだ」
覇偉栖の望み、それは人の世で遊ぶこと。それは阿修羅に鬼どもの殺戮を見て喜ぶことであった。ただ殺しを楽しむために、魔術を体得したのである。
「阿修羅よ、鬼どもよ!」
覇偉栖から影がすうっと霧のように消えてゆき。黒鬼は主を肩に乗せた。
「殺せ。人を殺せ! 思いのままに殺せ!」
そう命じられて、阿修羅と鬼どもは、
「おおお――」
と雄叫びをあげて。殺すべく人を求めて駆け出した。




