地獄の門は開かれる 四
鬼どもは返り血を浴び、血肉を食らって口元を真っ赤にして、まさに鬼としてのおぞましい形相をしていた。それに対し、重時すら恐怖を覚えずにはいられなかった。
とはいえ、勝ったのである。隣国の宿敵、石田頼信を討ち、それによって領土や財産を手にしたではないか。
恐怖がいつしか勝利の喜びと変わってゆき、思わず、
「我は勝ちたり!」
と叫んだ。
「ははは、覇偉栖よ。おぬしのおかげで勝ったぞ。褒美はたんととらすゆえに、楽しみにしておれ」
「ありがたきお言葉でございます」
覇偉栖はうやうやしく頭を下げた。
「よし、もうよいぞ。鬼を元に戻せ」
と言おうとした時であった。
黒鬼に赤鬼、青鬼どもは何を思ったのか、今度は番場勢の将兵に襲いかかったではないか。戦に勝った喜びも束の間。勝ったはずの番場勢が肉塊にされてゆく。
「なんじゃと!」
重時は驚き、覇偉栖を睨んだ。
「これはどういうことじゃ!」
「見たとおりでございますよ」
「なんだと……」
覇偉栖は重時ににやけた笑みを向けている。その顔には、重時を殿と敬うさまなどひとかけらもない。
将兵の悲鳴が耳をつんざく。敵も味方もなく鬼が殺戮を繰り広げるさまはまさに地獄であった。
「うぬ、裏切ったか!」
「裏切るも何も、それがしもとより重時ごとき小者の足元にはいつくばる趣味などございませぬ」
「うぬは、うぬは……。斬れ!」
そう側近に命じれば、太刀はひらめき覇偉栖を斬ろうと迫る。しかし、漆黒の影は瞬時にして顔から全身を覆うや、そこから、六本の腕が飛び出し。迫る太刀を叩き折ってゆく。
「出よ、阿修羅!」
覇偉栖の叫び。その身を覆う漆黒の影から飛び出すは、六本の腕に三つの顔を持つ、阿修羅であった。
「これは……」
などと驚き身を硬くした間に、阿修羅は三つの顔を残酷なまでにゆがませて六本の腕を振るい。鬼にもひとしい腕力をもって側近どもを殴り殺してゆく。
殴られた場所は血肉弾け、原形をとどめぬ無惨さである。
重時は側近たちが無惨に屠られてゆくさまを見て、身を硬くしてしまう。そうするうちに、ひととおりの殺戮を終えた鬼どもが戻ってきて、重時を囲んだ。




