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地獄の門  作者: 赤城康彦
19/31

地獄の門は開かれる 三

 黒鬼と青鬼は血風とともに駆けて頼信に迫る。

「ひい」

 頼信は突然現れた鬼にただでさえ驚いたのに、それが己に向かってきていることに恐慌を来たし。急いで馬首を返してにげだした。

 周囲を囲んでいた側近の武士たちも急いでそれに従うものの――

 黒鬼と青鬼の脚力は馬にまさり、どんどん迫ってゆき、ついには頼信らに追いつき。側近たちはたちまちのうちに拳で、脚で突き飛ばされたりして馬もろとも血肉が弾けて五臓六腑に脳漿飛び散り。瞬時に肉塊と化してしまった。

 それからあっという間に黒鬼は頼信の前に立ちふさがり、青鬼が後ろについた。

「おおお……」

 うめき声をあげるのが精一杯で、己も馬も、まさに鬼気迫るで動くに動けなかった。

「わああ」

 というやむことのない悲鳴が背後でする。赤鬼といえば、己が屠った時吉の屍骸を拾い上げるや、それにがぶりついてむしゃむしゃと血をしたたらせて死肉を食らっているではないか。その無惨さに、周囲の者、敵味方の別なく、悲鳴をあげたのである。

 頼信は身動きが出来ぬままに黒鬼に首根っこをつかまれて持ち上げられてしまい。馬は、青鬼が後ろ脚を掴んで、ぶうん、と持ち上げて振り上げて。思いっきり振り下ろして、その脳天を思いっきり地面に叩きつけて死なせてしまったではないか。

「や、やめてくれ!」

 頼信は懇願する。失禁までしてしまっている。もう一軍の大将としての威厳など、どこへやらであった。

 黒鬼は頼信の懇願など聞かず。首根っこをつかんでいたのをひょいと放り投げて、片脚を掴んだ。それから、青鬼ももう片方の脚を掴んだ。

「ひっ……」

 という悲鳴が漏れようかとするや、鬼どもは腕に力を込めて脚を引っ張り、股から一気にその身をまっぷたつに裂いていった。

「おおお――」

 鬼どもはそれぞれの持つ頼信のもはや肉塊と化した半身を持ち上げて叫んだ。 

「と、殿が……」

 大将が討たれれば戦は負けである。石田勢の将兵は蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。その数は、当初の出陣のころより大分数は減ってはいるものの。

「おお、やったか……」

 重時はごくりと唾を飲み込み、戦いに勝ったことを確認する。その間、黒鬼と青鬼はそれぞれが持っていた半身にがぶりついて、血肉を食らった。

 この鬼ども、人を好んで食らうようだ。

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