地獄の門は開かれる 一
赤葉楓太郎一味が成敗されて、領主番場重時はことのほか喜んだのは言うまでもない。
「これで年貢米や貢物が滞りなくおさめられ。戦もこころおきなく出来るというものじゃ」
と、ほくほくである。
「者ども、戦の支度をせよ!」
城主の間にて、居並ぶ家来たちに号令をかける。番場重時は隣接する豪族、石田頼信と敵対しており。それを打倒する機会をうかがっていたが。
集落から城下へとつうじる楓山に赤葉楓太郎一味が山賊働きをしていたおかげで、戦どころではなかったのだ。
後顧の憂いなく戦が出来るようになったことで、重時以下家来たちの士気も高い。
その家来たちの中に、あの佐久璃覇偉栖がまざっている。
「おぬしの魔術はたいしたものじゃ。どうじゃ、わしに仕えぬか?」
と、召抱えようとして。
「仰せのままに」
と、佐久璃覇偉栖は番場家の家来となった。
すべては覇偉栖の目論見どおりである。自分からやたらと売り込みをせずに、向こうから仕えるように言わせた。
家来になって、覇偉栖はにやりとした笑顔を内面に潜ませている。彼には彼の目的があるようである。
ともあれ、戦の支度は進められ。翌日には千の将兵が結集し。銅鑼、太鼓、ほら貝の音も高らかに出陣した。
そのことは、斥候の報せで頼信も知った。
「おのれ小癪な、返り討ちにしてくれる!」
と、将兵を結集させた。数は番場勢と同じく、千。
その千の将兵は国境でぶつかり合った。男たちの雄叫びが空を揺らし馬蹄は地に響き、刀槍は陽光を受けてきらめき、血風を吹かせる。
勝負は互角に見えたが。時間が進むに連れてやや石田勢が押し気味になってゆく。
「なにをしておる。不甲斐無い!」
自軍が劣勢になってゆくのを後方で見ている重時は歯軋りして叫び。将兵も必死になって戦ったが、形成を逆転することは出来ない。
「どうしたどうした! わしを討つ剛の者は番場の家来にはおらぬか!」
馬上、槍を振るい敵兵を屠るは石田家家来の市川時吉という者であった。この時吉進むところ敵兵ことごとく血肉を弾き一瞬にして屍にされるのであった。
「ええい、忌まわしい!」
重時は歯軋りして悔しがった。石田勢にこのような剛の者がいようとは。戦が出来ぬうちに頼信が召抱えたのであろう。さすが抜け目がないと言おうか。




