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改心 五
「そんなものを持っていることも知らなかった」
「やむをえんことじゃ。下手にこれを教えれば、邪な心の者が奪って悪さを働くかもしれぬ。それでわしはつねにこの独鈷杵を懐に入れて、託せる者を求めておった」
「それが、楓太郎?」
「そうじゃ。この涙を見よ。独鈷杵を託すに足るとは思わぬか」
「……」
お品は子供のように泣きじゃくる楓太郎を見て、にこりと微笑んだ。なるほど、彼なら独鈷杵を託せるというものだ。
「さあ、今日からおぬしはこの村の村人じゃ。皆の衆にはわしから紹介するでな」
「和尚さん、ありがとう」
「なんの」
肩をぽんとたたいて、立つように促し。寺を出て、楓太郎を村人に紹介する。村人たちも妙蓮坊の紹介ならと、心を許した。
それから、楓太郎は村人のひとりとして、平穏な生活を送った。




