改心 四
「それは?」
「うむ、鬼が来ればおぬしがこれを持って戦うがよかろう」
楓太郎は独鈷杵を不思議そうに眺めていた。中央に柄があり、その上下に槍状の刃が付いている。
「これを持って、鬼と戦うと念じてみよ」
独鈷杵を手渡されて、楓太郎は言われたとおり念じてみれば。独鈷杵の片端から赤色の光りが飛び出し。それは棒状になって、赤く光っていた。
不思議そうに手に触れてみれば、痛みが走り。指先が少し切れて血が出た。
「これは?」
「帝釈天の独鈷杵という。帝釈天が修羅と戦った折りに、この独鈷杵でもって修羅を斬ったそうじゃ」
「すごい。妙蓮坊さま、こんなのを持ってたなんて」
お品は驚き、まじまじと独鈷杵を見つめている。
「うむ。これは誰にもで使える。ということは、邪な心の者の手に渡れば、たちまちのうちに凶器と化す」
その言葉を聞いて、お品は唾を飲み込んだ。
「じゃが、正しい心の持ち主が使えば。それはまさに鬼を斬る太刀になる」
それを楓太郎に渡してよいのだろうか。お品はそう思った。山賊である。この独鈷杵を持ったことで、山賊働きをするのではないかという心配する。が、妙蓮坊はかっかっかと笑って。
「楓太郎。わしはおぬしを信じておる」
それを聞き、楓太郎の心に衝撃が走った。今まで散々悪さをしてきて、人の怨みを買ってきた。そんな自分を、信じると、目の前の僧侶は言うのである。
「和尚さん……」
知らず、目から涙があふれる。それと同時に、赤い光りもおさまった。
「ははは、よいよい。男が泣くものでない」
「う、うう……」
楓太郎は涙を止めようとしたが、止めようとすればするほど、涙はあふれてくる。お品もつられて泣いていた。
妙蓮坊は村人から信頼される僧侶であり。村の者は皆、妙蓮坊さま、と慕っていたものだが。こうも簡単に悪人を改心させるとは。お品はあらためて妙蓮坊を慕いなおすのであった。
「山賊でも泣くのね……」
「うむ。じゃがいざとなれば頼りになろう。あいにくと、わしは武芸のたしなみがなく、帝釈天の独鈷杵も宝の持ち腐れよ」




