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地獄の門  作者: 赤城康彦
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改心 三

「山賊!」

 お品は驚き、楓太郎をまじまじと見やった。

「左様。泣く子も黙る楓山の赤葉楓太郎」

「そんな、悪どい山賊だったの。あんた」

「そうだ……」

 楓太郎は言いながら頭を垂れた。その様をみて、山賊であったなど、とうてい信じられなかった。今の楓太郎には山賊らしい凶悪な人相ではなく、鬼におそわれてしょげている臆病な男でしかない。

「なうての山賊だったら、鬼も懲らしめられるでしょうに」

「できなかった。俺は、ただ、恐ろしくて……。子分を見捨てて逃げるしかなかった」

「まあ……」

 それほどまでに、恐ろしい鬼であったのか。それがこの村に来るのかもしれないと、背筋の寒くなるのを禁じえなかった。

「ともあれ」 

 妙蓮坊は咳払いして、腕を組んで思案したあと、

「ここは、番場重時の領外じゃ。役人に突き出しても、取り合うてもらえぬし。村人も襲われておらぬから、怨む者もない」

 と、言った。お品はそれを聞き、

「で、どうするんですか」

 と聞けば。

「楓太郎よ、改心せい」

 と妙蓮坊は言った。

「改心?」

「そうじゃ、今までのおこないを悔い改めて改心いたせ」

「改心……」

 楓太郎は頭を垂れて考えた。

 思えば、五つのころに親から口減らしのために捨てられて。同じ境遇の餓鬼どもと徒党を組んで、生きるためならなんでもしてきた。

 長じて楓山にこもって、山賊として生きた。

 満足な教育を受けられなかったために、山賊働きをすることに罪悪感などなかった。それが悪いことだとあとで知ったが、関係なかった。

 生きるためである。ことの善し悪しになどかまってはいられなかった。

「万人の心に仏あり、じゃ。改心すれば、おぬしの心に仏心が芽生えるじゃろう」

「俺の心に、仏」

「左様。誰の心にも仏はおわす。心がけ次第じゃがのう」

 にやりと、妙蓮坊は楓太郎の顔を覗き込んだ。

 そんなことを言われるのは初めてのことだった。鬼から逃げ、集落に駆け込んだときに村人に追われて危うく殺されそうになった。それだけの怨みを買ったことをしてきた、ということだ。

 そんな自分の心に仏がいるなど、にわかには信じられなかった。

「まあ、今日からここの村人になって、皆と一緒に働くがよい」

「そ、それはいいけど、鬼は、鬼はどうするんですか」

 お品の言葉に、妙蓮坊は懐から独鈷杵とっこしょを取り出した。

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