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地獄の門  作者: 赤城康彦
12/31

改心 一

「鬼じゃない?」

「当たり前でしょう!」

 娘は頭を指差し、

「ここに角がある? ないでしょう。あんた悪い夢にうなされてたのよ」

「夢?」

「そうよ。鬼、鬼ってうなってたわよ」

「……」

 楓太郎は黙りこくった。楓山で見た鬼は夢だったのだろうか。ふと、脳裏にあの悲惨な光景が蘇る。

(いや、あれは夢じゃない!)

 子分たちが無惨に殺され肉塊にされてゆく。この目で確かに見て、自分は臆病になって逃げ出したのだ。

 それから村人たちに追われて。

 そこまでは思い出し、

「いや、夢じゃない。鬼に殺されそうになったんだ」

 と言った。

「はぁ?」

 娘は呆れたように、楓太郎をまじまじと見やった。

「鬼に襲われたの?」

「そうだ。俺は鬼に襲われたんだ」

 それを聞いて、娘は少し、ぶるっと震えた。少し、楓太郎の話を信じたようだ。

 鬼にまつわる言い伝えはいたるところにあり、それはたいていが、人を襲い食い殺すなどの、悲惨なものである。

「大変じゃない。あたしらの村にも来るかしら……」

 そう言うと娘は楓太郎のそばまで来て、腕を掴む。

「立てる?」

「あ、ああ、どうにか」

「じゃ立って。あたしらの村に来て。鬼が来るかもしれないことを皆に教えなきゃ」

「……」

 楓太郎は娘に支えられて、どうにか立ち上がった。そのとき、

「あたしはお品」

 と名乗った。しかし楓太郎は名乗らない。少しずつ冷静さを取り戻しつつあった楓太郎は、名乗ってよいものかどうか悩んだ。

 己の悪名、悪行はどこまで届いているのであろう。もし名乗って、

「あの赤葉楓太郎!」

 と驚かれて役人に突き出され、あるいは村人にこっぴどく痛めつけられて殺されるかもしれない。

「あんた、名前は?」

 案の定お品は名を聞いてくるが、楓太郎は黙ったまま。というときである。

「お品ではないか」

 という声がした。その方を振り向けば、ひとりの僧侶がいた。

「あ、妙蓮坊みょうれんぼうさま」

「どうしたのじゃ。その男は?」

 妙蓮坊と呼ばれた僧侶はしずかに歩み寄り、楓太郎を見つめた。

「妙蓮坊さま、大変です。鬼が出たそうです。この人、鬼に襲われたって」

「鬼じゃと」

「はい、いそいで皆の衆に教えないと」

「ふむ。それは一大事じゃな。まずは寺に来なさい」

「はい」

 僧侶はお品の反対側で楓太郎を支えると、寺へと向かって三人歩き出した。

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