僕が病院にいるワケ
妹が考えていることは、一部深読み注意です。苦手な方はご注意下さい。
かつ、二話目以上にシリアスです。コメディなのか怪しいです。
「お兄ちゃんが見つかったんですか!?」
私がお兄ちゃんに無理難題を突きつけてから一週間。お兄ちゃんが行方不明になってからもう四日がたっていた。お兄ちゃんが見当たらなくなるのはいつものことだから、あまり気にしていなかったけど、こんなに長いのは初めてだった。
家に帰ってこないなら、それはそれで妄想の原動力になるはなるけど……やっぱり身近にいる方がペンの進みが早い。
気にしていなくても、妹としてはそれなりに心配しなくもないのだ。
さてさて、迷惑お兄ちゃんはどこにご厄介になっていたんだか。もしかして、山で遭難していたのかもね。とりあえず、我が家のお兄ちゃん担当として顔くらいは見に行ってあげようか。
「それで警官さん、お兄ちゃんはどこにいたんですか?
人に迷惑かけてたりします?」
警官さんは私を一瞬見て、視線を少し迷わせる。意外に警察の制服も悪くないかも。軍服は結構好きだけど、これは考えたことがなかった。
たっぷり三秒も時間をかけて、やっと警官さんは口を開いた。
「お兄さんが見つかったのは、市の中央を通る西折川の川沿いです。彼はそこに打ち上げられていました」
「──え? ちょっと待って下さい。それって……」
「今は病院の一室にいます。まだ、完全に心停止には至っていないそうです」
病院? 心停止? なにそれ。どういうこと?
お兄ちゃんが死んじゃうかもしれないってこと!?
嘘だよね? 嘘だって言ってよ! お兄ちゃんのドッキリか何かなんでしょ! ねえ、何か言ってってば!
縋るように警官さんを見つめるものの、彼は下を向いて何も言わない。
「……っ!」
私は警官さんを置いて走り出していた。市内に病院は一つしかない。そして我が家からは走って五分の距離にある。車庫から自転車を出す間を惜しんで、正面の道を左に。
後ろで警官さんが何か叫んでいる。でもそれは言葉として成立していない。目に映る全てが意味を持たない。大きな緑と茶色の集合体とか、私を追い越していく水色や赤の物体とか。
どこをどう走っていたんだろう。一秒にも一時間にも思える不思議な感覚から覚めると、私は病院の前にいた。
「お兄ちゃん……!」
飛び込んできた私に驚いたみたいだけど、病院の職員さんはお兄ちゃんの病室を直ぐに教えてくれた。一階の223号室。ありがとうございます、とだけ言って私はまた走り出した。
お父さんとお母さんはまだ仕事場だろう。連絡もまだ行ってないだろうし、届いたとしても来れるかどうかは怪しい。
「223、223……ここ?」
やっと探し当てた223号室は、廊下の突き当たりにあった。中で何人かの人が動いているようで、がさごそと物音がする。
私は意を決して、扉に手をかけた。
「……っわ!?」
と思ったら、そこに扉はなかった。いや、なくなったのではない。いきなり扉が内側に引かれたんだ。私は慣性の法則に従って、前のめりに倒れ込んだ。
「すみませんね……大丈夫ですか?」
「あ……ご、ごめんなさい!」
地面にぶつかる衝撃に備えて目を強く瞑る。しかし、ぶつかった地面はやけに柔らかかった。
そう、私がぶつかったのは地面ではなく、白衣を着た男の人だった。
「君は……?
ああ、そうか! 話は聞いてるよ。奥にいる子の妹さんだね?」
男の人はぽんと手を打って、何度も頷いた。王道だけど、白衣に眼鏡は素晴らしいコンビだと思う。お兄ちゃんが大変な状況なのに、私はそんなことを考えていた。いや、考えられるようになったというのが正しいのかも。
とりあえず、白衣に眼鏡キャラは今度作るとしよう。お兄ちゃんと絡ませてやるのだ。だから……そのためにも、元気になってよね。
「はい、そうです。それで、お兄ちゃんは……」
「一命はとりとめたよ。もう大丈夫。君のお兄さんは死なないよ。
ただ──」
彼は口ごもる。どう伝えるべきか迷っているようだった。
これ以上、悪いことが起こっているの? もう、最悪を通り越していると思ってたのに。お兄ちゃんの命は助かるんでしょ? また……お兄ちゃんが馬鹿みたいに私に告白してくるような、そんな日常が戻ってくるんだよね?
「実際に見てもらった方がいいかもしれない。入り口で立ち話も大変だろうしね」
失礼しますと小さな声でつぶやいて、私は室内に体を滑り込ませた。
まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央に置かれたベット。そして、目を閉じてピクリとも動かないお兄ちゃんの姿。中身はともかく外見は一級品のお兄ちゃんだ、その姿は一枚の絵のよう。誰も、私ですら入り込めない世界が広がっているようだった。
殺風景な部屋の中で、沈黙が広がっていく。
それを破る勇気は私にはなかった。できたのは、お兄ちゃんに駆け寄ることだけ。
「……お兄さんがここに運び込まれてから、三時間以上たっている。その間、お兄さんは一度も昏睡状態を脱していないんだ。
このままだと……お兄さんはもう目覚めない可能性がある」
耳を塞ぎたかった。でも、ちゃんと聞かないと。私のお兄ちゃんのことだから。
「それはどういう……?」
「お兄さんがどのくらいの期間無呼吸だったかわからないから、はっきりとは言えないよ。けれど、お兄さんの脳に障害が残る、最悪植物状態になる可能性もあるとわかって欲しい」
お兄ちゃんは動かない。死んだように眠り続けている。手を握ってみた。冷たい。後ろで扉の閉まる音がした。二人っきりにしてくれるつもりみたいだ。
「お兄ちゃんの、馬鹿」
どうしてこんなことになってしまったのか。理由は一つしかない。私の無理難題をどうにかしようとして、その過程で何かあったのだろう。
本当に、お兄ちゃんは馬鹿だ。
私は何があっても、お兄ちゃんの告白を受け入れることはない。だって、私はお兄ちゃんの本当の妹なんだから。義理の妹だって思ってるから、お兄ちゃんはああいうことを言えるんだろうけど、本当のことを知ったら、今のままではいられないだろう。
そんなのは、嫌だ。でも、お兄ちゃんがいなくなるのは、もっと嫌だ。
こんなことになるなら、はじめから全部言ってしまえば良かった。少し寂しいけど、それが普通の兄妹なんだから。夢を見ていたのは、お兄ちゃんじゃなくて私の方。
ごめんなさい、だからお願い──
「目を開けてよ、お兄ちゃん……!」
強く、強く手を握りしめる。
「何回でも告白していいからっ!」
相変わらず長いので、読み飛ばし推奨です。
今回は妹サイドの話になっております。兄が死んでいる間にこちらは大変なことになっていますね。
かなりラブコメ、もとい少女マンガののりですが、今回だけです。ご安心下さい。
妹がデレるのも、最初で最後です(多分……)
妹の掘り下げと複雑な家庭環境の解説がメイン……のつもりです。元々、「都合のいい義理の妹」に対しての「実は本当の妹」なので、都合よくはいきません。兄にとってのハッピーエンドはかなり遠いです。
妹の趣味については、深く考えない方がいいと思われます。あくまでも、某生徒会の某真冬ちゃんレベルで、コメディの範囲内です。
後、作者は医療関係のことに詳しくありません。かなり想像で書いております。あれと思うところがあってもスルーしてやって下さい。
では、感想、アドバイス、批評などなどお待ちしております!
……いつもより、さらに長くなってしまった。