僕がお兄様と呼ばれるワケ
ロリコン、幼稚園の教師の方は不快なに思われる表現があるかもしれませんので、ご注意下さい。
「……様! お兄様!」
「ん……?」
頭が痛い。ぐらぐらと揺れる世界。あ、違う。僕が揺すられているんだ。
……じゃあ、僕死に損なったのか。うーん、あんな遺書まで書いておいて恥ずかしい限りだよ。
「目が覚めたんですね、お兄様っ!」
「なんだなんだ妹よ。僕が死ぬと思ってたのか? いつもお前の地雷で無傷な僕が──って!?」
妹が! 妹がっ!!
僕を「お兄様」って呼んだ!!
これはいわゆる、いつも本当はお兄様って呼びたかったけど恥ずかしくてできなかったの……でも、っていうシチュエーションか! いつものお兄ちゃんも悪くないけど、お兄様も倒錯的でいいな。一回死ぬだけでこんなにいいことがあるなら、あと数億回死んできても良いかもしれない。
むしろ、一日一死を目標に頑張ってみるか。
「そんなにお兄様って呼びたかったのか……気付けなくてごめん。これからはいくらでも呼んでいいからな」
「ありがとうございます、お兄様!」
僕よりいくらか身長の低い妹が、僕の胸の中に飛び込んでくる。そうか、そんなに僕のことを想ってくれていたんだな。気付けなくて、本当にごめん。でも、僕はもっとちゃんとしたお兄ちゃん──いや、お兄様になってみせる! 見ててくれ!
「……あれ? お前、もしかして身長縮んだ?」
僕よりいくらか身長が低いはずの妹。でも妹の頭は僕の腰ぐらいにある。というか、これは幼児と表現しても良いくらいの身長じゃないか? 懐かしいな。これくらいのころは僕の後ろにずっと付いて来て、たまに転んで泣いてたっけ。可愛かったなぁ。
あ、いやいや僕的には今の妹の方が好きだぞ。出るとこ出てるし、締まるとこは締まってるし。今度お風呂ドッキリでも実行しようか。
「身長? 私の身長は変わっていませんよ、お兄様」
「嘘はつかなくて良いぞ。こんなに違う──って、お前、誰だ!?」
僕の妹は、自分のことを私なんて言わない。僕のことをおにいちゃまって呼んでも、絶対に言わない。
慌てて僕は、妹の偽物を突き飛ばした。
「僕を誑かそうったってそうはいかないぞ!
僕の妹への愛の前では、変装など無意味っ!」
「誑かそうなんてしていません!
私はただ、お兄様を介抱していただけですっ!
女神の一柱として、品格を疑われるようなことはしません!」
……え?
この子今、女神って言った?
「えーっと……痛いひと?」
「違います!
私は正真正銘、この世を預かる女神です!」
ダメだ。頭がこんがらがってよく分からない。僕が変なことを言っているのか、それともこの子が中学二年生なのか。
「だ、誰から?」
「この世界、そしてそれを回すシステムを作った創造神さまからです。そもそも、お兄様は私に会いに来たんじゃないんですか?」
「あー、そういえばそうだったかも。
で、君がその女神様だって? いやいや冗談は止めてくれよ。現実問題、僕は死んでないじゃないか」
見たところ僕の体は普通に五体満足だ。体温だってちゃんとある。
あんな激流に呑まれて、よく無事だったなぁ。我ながら悪運の強い奴だと思うよ。心からさ。
「その……非常に申し上げ難いんですが、お兄様は実際に死んでいます。
よくあるパターンで、死に限りなく近いところにいるっていう意味ですけれども」
「はぁ? 僕が死んでる?
冗談しても笑えないよ。その場合、君も死者だって」
「生きていないことが死者の条件なら、私も確かに死者ですよ。
私のことよりお兄様、少し周りを見てみて下さい。
ここがお兄様の暮らしていた世界でないことがわかると思います」
どれどれ、ちょっとはこの子の中二トークに付き合ってあげようか。後々黒歴史になるにせよ、大人としてこの子の青春の一ページに刻まれるのも悪くない。
そんな風に考えながら、視線を下に下ろした。
「……え?」
これは。そんな。まさかね。
落ちないよね?
「うちゅう、空間?」
僕の足元には真っ暗闇が広がっていた。それはまるで宇宙空間のよう。たまに流れ星のように、光が駆けてゆく。
ただ、問題なのは……どうして僕がその上に立っていられるのかわからないという事。見渡す限りの暗闇と僕の間には何も無い。足は何の感触も伝えてこない。
「お分かりになりましたか、お兄様。
ここはお兄様の世界に付随した小世界のようなもの。下に見えるのは、世界と世界を繋ぐ通り道です」
「通り道?」
「はい。お兄様の暮らす世界から見ると、冥界と呼ばれる世界に繋がっています」
私がお兄様をあそこから拾い上げたんですよ、と少女は誇らしげに続けた。
「いやいや、意味分からないんだけど」
口では、中二の言葉は意味分からんと言いつつも、僕は認めてしまっていた。これが夢じゃないっていうなら、少女の言っていることは全て真実なのだろうと。そして、残念ながらこれが夢じゃないこともわかる。
本当に僕は死んでしまったらしい。いや、ギリギリのラインにいるって言ってたっけ。
「私にもよく分かりません。何分、新任なもので……。
前はヒラの神社勤めだったのにですよ!」
女神の世界も世知辛いものらしい。とりあえず、神様を信じている人たちに謝ってくればいいと思うよ。自分たちの神様がリストラされてたなんて悲しすぎる。僕は無神論者だけど。
「まあいいや。
君が女神で、ここが小世界とか言う場所だってことは信じよう。
でも、どうして君は僕をお兄様って呼んでいるんだ?」
「お兄様はしすこんなんですよね?」
「うん」
「ということは、妹が好きなんですよね?」
「うん?」
「だから、私も妹になりたいと思ったのです!」
「うん──違う!
いいえ! ノー! ノットっ!
僕は妹好きのシスコンだけど、誰でも良いわけじゃないんだよ!
とりあえず、幼女なんてロリコンでもないし、興味の対象外だ!!」
いきなりのぶっ飛び発言に一瞬流されてしまった。僕は義理の妹なんかに興味はない。いやあいつも義理の妹だけどさ、一応。まあそれは、戸籍上の話だし。実際は本当の妹なわけで。
それを知っているのが、僕だけっていうのが倒錯的でいいよね。
「えーっと、ろりこんとしすこんって同じことじゃないんですか!?」
「全然違う。というか、僕をロリコンなんかと同じにしないでくれ。僕はロリコンが大嫌いなんだ」
「どうして嫌いなのか、聞いても良いですか?」
「ああ。ロリコンっていうのはな、一度本気で好きになって愛した相手を、ただ年齢だけの理由で捨てるんだ!
おかしいだろ? 本気で好きになったなら、年齢なんてどうでもいいじゃないか!
僕はたとえ妹が20代でも50代でも80代でも好きだし、メガネだろうがメイドだろうが女教師だろうが愛せる!」
ロリコンと聞いて僕が思い出すのは幼稚園の教師の一人。いつも思い詰めたような目で妹を見ていた。でも、アイツは幼稚園を卒業した後、妹に対する興味を完全になくしたようだった。妹に色目を使うのも許し難いが、妹から興味を無くすのは、それはそれで頭にくる。
「そ、そうなんですか!?
すいません、お兄様。まだ私はお兄様をお兄様と呼んでもいいですか……?」
長いので興味のない方は飛ばして下さい。
二話目から少し時間が空いてしまいました。隔日更新はやはり無理でした。特に今回は二、三回データが消えてしまったので、と言い訳をしてみます。
にじファンがサービス終了ということで、この作品に集中できるわけですが、更新速度はやっぱり上がりません。
ロリコンの皆さんには申し訳ない内容になってしまいました。生暖かい目で見ていただけたら幸いです。
アドバイス、感想、批評などなんでもお待ちしています!
お気に入り登録して下さった皆さん、ありがとうございます!