僕が二次元を目指すワケ
僕は今、妹の部屋の前にいる!
分かるか? 全世界のシスコンたちよ! この興奮が!
右手には盗聴の代名詞紙コップを持って、左手には判子を押すだけの婚姻届。あらすじからの流れで、僕はプロポーズを決行しようとしていた。四十三億七千飛んで八万九千百十二回目だけど、今回こそ僕の気持ちは届くはず。
僕の持論としては、何事も下準備が大切だと思うんだ。それはプロポーズでも、当然変わらない。例えば、妹の機嫌が悪いときに部屋に突入すると、クラスター爆弾が仕掛けられているだろ? いつもは普通の地雷なのにさ。
「さてさて、今日の妹はどうかな?」
僕の『必殺!妹萌え7つ道具』その三、盗聴用紙コップを妹の部屋のドアに押し付けた。
「なるほど……妹は今読書中か……。
今仕掛けても、まともに取り合っちゃくれないな。この様子じゃ」
一度出直そうか。……いや、待てよ。このまま妹を観察するのもいいかもしれない。たまに妹の独り言とかが聞けたら、僕の脳内妄想は爆発できるし。
そんなことを考えていたら、いきなり妹が立ち上がって、こちら──ようするに扉に近づいてくる。どうしたんだ? まだ本を読み終わったわけじゃないみたいだし。
も、もしかして! これは運命の遭遇とか、そういう感じなのか!?
『会えなくて寂しかったよ、お兄ちゃん』とか!
『どうして気付いてくれないのっ!』とか!!
そういうフラグですか、これは!?
まあここは僕も男だ。何も聞かずに優しく抱きしめてやるというのが道理だろう。どこで結婚式を挙げるか決めないと。候補は全国に十一カ所まで絞ってある。でも、やっぱりそこはしっかり相談して決めたい。僕は妻の意見を無視するような夫にはなりたくないからね。
つらつらとそんなことを考えていた僕の目の前に扉。そりゃ盗聴してたんだから、そこにあるのは当然としても……少し近過ぎやしないか? っていうか、これ段々近付いて……。
「あり? お兄ちゃんだ。どうしたの? そんなとこに這いつくばって。
盗聴してたらいきなり扉が開いて、扉にノックダウンされた痛い人みたいだよ」
全くもって、その通りでございます。流石は僕の妹だな!
「やあ僕の未来の奥さん! ちょっと相談なんだけど、式はどこで挙げたい?
海の側がいいかな? それとも、海外でも行ってみる?」
「……えっと、さっきので頭イかれちゃった?」
「何を言ってるんだ、妹よ。僕はこれが通常営業だぞ」
「あー、そーだったわー。
お兄ちゃん、マジで引いていい?」
「お前が引っ張った分、僕が近づけるって訳だな。いいぞ。
……二度と離れないくらいに、引っ張ってくれ」
あ、この顔は本気で引いてる。いや、冗談だよ? ホントに。嘘じゃないって!
必死で弁解するものの、妹の目は冷めたまま。……こういうシチュエーションも嫌いじゃない、とは言わないでおく。僕個人の嗜好よりは妹からの好感度が優先だ。
「で、お兄ちゃん、私に何か用なの?
いつもみたいにストーカーしてるだけだろうけど、一応聞いてあげる」
「ストーカーしていたのは事実だけど、それだけじゃない。
そんな薄っぺらい男だと思われてたなんて、僕は悲しいよ」
「お兄ちゃんは薄っぺらいんじゃなくて濃いんでしょ。異様に。
それで、用ってなに? 告白でないと信じてる」
むう、バレている。流石は僕の──以下略。
「安心しろ妹よ!
告白じゃない、プロポーズだ!」
「同じだよ……。
とりあえず! もうお兄ちゃんの告白は聞き飽きたの!
諦めないなら、お兄ちゃんのこと嫌いになるからっ!」
そのとき、僕の中を衝撃が通り抜けた。僕は妹に飽きられるような、そんなプロポーズしかできていなかったのか!
僕は今までの僕を消してやりたい。何度もチャンスがあったのに……僕は何をしてたっていうんだ!?
「後生だ! 最後に一回でいい!
もう一回だけ、チャンスをくれっ!」
妹がじっと僕を見た。妹が生まれて十五年と半年。僕が妹を口説こうとし始めて十年。こんなことを僕が言ったのは、初めてだった。僕が妹を諦める可能性をみせたのは、初めてだった。
僕だって、わかってる。妹を口説いてる兄なんておかしいって。
「じゃあお兄ちゃん、二次元に行けるアイテムもしくは能力、見つけてきて」
……でも、妹もどこかおかしいと思う。
連載中の二次創作がシリアス過ぎるので書いてみた、そんなオリジナル作品です。普段はタイトルで1ヶ月近く悩む作者ですが、今回は先にタイトルが出てきました。
あえてしばらくは名前なしでいってみようかと思っています。
とか真面目なことを言っておいて、考えていないだけというw
それでは、感想、アドバイス、批評、タイトルホイホイされましたw、などなどお待ちしています!