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4月。親友の姉とのこと。

 本屋彰。

 私立糸氏いとうじ高校二年生。身長百六十五センチ。年齢十七。本嫌い。というよりむしろ読書嫌い。

 それが俺から見た、俺のパーソナルデータだ。

 何故本が嫌いかと問われると、理由は簡単。


「本なんて頭のいい奴しか読まない代物だろ? だいたい、文字ばっかりの物なんて読むのは嫌だし、それを読むくらいなら漫画を読んだ方がマシ」

 

 というわけで、俺は本が嫌いだ。

 読んでいると暗い海の中にいるような感覚になるし、何よりつまらん。息が詰まる。苦しい。

 俺が本を取る理由のたいていは週刊の漫画雑誌くらいだ。というか、週刊誌とか漫画は本じゃないだろ、あれ。それ以外の本なんて、全部消えてしまえばいい。

 そんな俺が図書委員になったと言うことが、今後一年の俺の高校生活が間違いなく楽しくないものになることは間違いないだろう。

 ちなみに、今は放課後。時間帯は一年生が学校に慣れるため、という学校側の事情で昼過ぎに授業を終わっていた。残っているのは部活動をしている連中や他の生徒と喋っている連中だけとなっていた。

 そんな俺はすでに今週発売の週刊誌を家の近くのコンビニで読み、そのまま家に帰るはずだったのだが、早速図書委員の初仕事、という物があるらしい。あの寝ていた我が担任が言っていたのが少し怪しげだが。

 話は変わるが、糸氏高校はかなりの広さを持っている。その広い敷地面積を生かし、運動場は軽く地平線が見えたり、体育館は天井も高く、二階建てだ。

 校舎も負けてはいない。糸氏高校の学生校舎は一学年に全ての設備……つまりは一年生専用のパソコン室、家庭科調理室、二年生専用のパソコン室、家庭科調理室……といった具合に、一学年に学校一つ分の設備が入っている。

 だが、なぜだか図書室は全学年共用だ。

 図書室はそれなりの広さを持ってはいるが、そこは糸氏。図書室だって半端な広さじゃない。

 聞いたところによると、その蔵書量は、日本全国の高校中でも、五本の指にはいるとか……。まぁ、あくまで噂だ。実際、図書室には、俺は立ち入りもしなかったし、それどころか約半径五メートルにも入らなかったので、その全容はさっぱり分からない。

 瀬戸を見てみた。奴は年がら年中、女を追っかけ回しているような奴だ。始終、「彰が女だったらなー。そっからラブロマンスが展開されんのになー。残念だなー」と俺を見ながら嫌みったらしく言っている。そんなあいつは今、緑川さんと話し込んでいる。といっても、話し相手の緑川は瀬戸の返事に対して、「あぅ……」だの、「はぁ……」と非常に曖昧……というか、人と話すこと自体慣れてないような、小さな声の返事をしていた。

 そんな感じで図書室に向かっていた俺たちは、ようやっと図書室の入り口についた。

 図書室は丸いドーム型をしており、入り口だけで大型のマンションが一つ横倒れになっても足りないくらいの長さ。数段ほどの手すりがついた幼児でも上れるくらいの低い階段。そして、畳がいくつあっても足りないほど大きなシックかつ重厚な扉があった。

 が、図書室の外に圧倒されたが、中もすごかった。

 見渡す限り本、本、本の山。ドームの天井、窓の周辺以外全て本。ドーム中、三階まであるみたいだが、全て本で覆われている。重そうなハードカバーの本、いかにも日本で作られました、と言った感じの作りの書物。読むと頭が悪くなりそうな紙束。そして中には俺がいつもコンビニで読んでいる週刊誌もあった。

 私立糸氏高校図書館。

 高校でも有数の蔵書量を誇る図書館。――そのすごさが改めて分かった。


「ま、話には聞いてたんだけど、ここまでとはな……」


 瀬戸はどこか余裕めいた感じで話した。まぁ、コイツの家も大概だからな。


「よ、読み切れるんでしょうか…………こんなに…………たくさんの…………ほ、本、を」


 そして緑川はこんなにたくさんの本を読み切れるかを心配して……ん?


「緑川、お前本が好きだったのか?」

「ぁ…………は……ぅ………………………っ!」


 何気なくそう聞いたとき、緑川は顔をこれでもかというくらいにまで真っ赤にして頭から湯気を出し、そのまま俯いたままになってしまった。

 なんだ? 熱でもあるのか?


 ……ならばチャンスだ。


「あー、瀬戸。今からちょっと俺は緑川を保健室に――」

「てめぇコルァアッキーラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なぁに純白の天使イコール緑川さんに汚そうとしとんのじゃぁぁ!」


 そういって瀬戸は俺に高飛び込みの選手のように飛びかかって来た! うわあぶなっ!

 思わず俺が瀬戸に側面蹴りをかまそうとしたとき、


「かーくぅぅぅぅぅぅん♪」


 これまたすごい勢いで誰かが飛んできた。

 すごい勢いで飛んできた「誰か」はそのまま飛びかかろうとしてきた瀬戸を空中キャッチし、そして近くにあった机を蹴散らして、


 ずしゃぁぁぁぁぁぁあああ!


 ものすごい音をたてて着地した。

 白い埃が俺……と、たぶん緑川の視界を少し塞いだ。


「かー君来てくれたんだぁこーんなとぉいとぉいそれこそかー君のパスタ麺のようにか細い足が折れちゃうようなそんな感じの所まで来てくれたんだぁ♪ おねぇちゃんはうれしい、っていうかむしろうれすぃよぉ。あーもう食べちゃいたい。このまますりすりぺたぺたなでなでくちゅくちゅするだけじゃなくってもういっそのこと食べちゃいたいおねぇちゃん今、そんなキ・ブ・ン♪」


 視界が晴れながら俺は以前聞いたことのある声が、これまたかなり聞いたことのある声によって絶叫を上げていた。何かが泡立つような音が聞こえたと思ったら、


「うわぁぁぁぁぁっ! 寄るなッ! 来るなっ! ちーかーづーくーなーっ! 年中近親相姦願望者! お前なんて俺の、いや人類の永遠の天敵だぁ――――!」


 ……いわんこっちゃない。

 いきなり瀬戸に猛烈タックルをかまし、そのまま瀬戸をがっちりホールドしているこの黙っていればかなりカッコイイパンツスーツの眼鏡をかけたロングヘアーの女性は、瀬戸の唯一にして絶対の天敵であり、なおかつ一番身近な人物……姉の瀬戸望さんである。こんななりでも御歳二十二歳。

 あらゆる男性の告白を蹴って独身であり続けている……らしい。

 その理由は。


「結婚する相手? それはもちろんかー君よっ♪ あんなにかっこよくてその上優しくて気配りもあってどんなときでも周囲に笑みを絶やさない、あんな生き仏……現人神……現在のミロのヴィーナスのようなかー君と結婚するのよっ! もう判子も押してあるし、二人で住む愛の巣も買ってあるのよっ! もちろん、新婚旅行と結婚式は同時にバリ島でやるの。もちろん六月にね! え? なんで六月なのかって? ……もちろん六月に結婚した花嫁は幸せになれる、っていうそれに則るのよ? でもあたしの準備も、かー君の方もよければいつでも式は挙げられるようになっているわっ! そしてね、結婚した後は子供はクラス一つ分くらい欲しいのっ♪ あたしは教員の免許も取ってあるからそのままクラス一つ分も担当できるのよ! そしてそして――(以下割愛)」


 ……とまぁ、こんな具合に弟LOVEなのだ。いや、LOVEではなく、もはやフォーリンラヴという状態だ。

 そして幸か不幸か。このような接し方を姉にされ、瀬戸の方は姉に対して当然ながら苦手意識を持っているらしく、そのような行動に到る前に何とかして逃げているので、まだ

到ってはいないらしい(瀬戸本人談)。


「そしてっ? この子は誰なのかな?」


 といって望さんは一旦瀬戸をなでなでするのを止め、緑川の方を見た。

 見られた緑川は「はうぅっ……」と先程のショックが大きかったらしく、まだあまりまともに喋ることができない様子。


「ひょっとして……かー君の彼女か何か? え? 何? かー君。おねぇちゃんという存在がありながら、もしかして、浮気? 浮気なのこれ? ひょっとしてこれ浮気の現場を見ちゃったのあたし? 先生は見たの見ちゃったの? でもいいもん。かー君は今ここにいるんだから。ねぇかー君? おねぇちゃんとそこにいるアバズレ、どっちがいい?」

 

 やばい。あれは猛禽類の獲物を狩る目と同じだ。

 いくら瀬戸が不死身を誇っていたとしても、このままでは危ない。


「そ、そんなことより望さん? 一体全体何で俺たちを呼び出したんですか? まさか……瀬戸を……叶をいじくり回すためだけ……な訳はないですよね?」

「んー? これだけだけど?」


 望さんはなかば泣いている(というかえぐえぐ言ってる)叶の頭からまた煙を出さんばかりの勢いですりすり……いやむしろあれは火をおこそうとしているんじゃ無かろうか……をしていた。

 これだけのために俺たちは呼び出されたらしい。よく考えたらこの人はかなり自由奔放だった。言動の端からは責任感のカケラすらも感じられない。


「あー!」


 そういって望さんはその場から立ち上がり、そのままつかつかと放心状態の瀬戸を引きずり、司書室とプレートの貼られた部屋に入って行った。

 いくらかがたがたと音がした後、望さんは一人で出てきて俺にプリントを数枚渡した。それを見てみると、裏表に渡ってびっしりと何かの名前が書いてあった。


「あのー……望さん? これって……」

「んー? これー? これはねー、この図書室の蔵書リストだよー」

「ぞ、ぞうしょ……?」


 実にだるそうな言葉で、なにやら意味不明な言葉が出てきた。何なんだよ、ぞうしょって。


「……あ、あの…………も、本屋君」

「なんだ? 緑川」


 呼ばれたので緑川の方を振り向いて聞くと、緑川は


「ひぅっ」


 鳴かれた。ちょっと傷ついた。

 そのまま腰を引きながら緑川は、


「……え、えと……ぞ、蔵書、っていうのは……ね、その人、が持ってるね……その、本、の、こと……なんだ……よ……。こ、この場合、人、じゃなくって、その……建物……図書室が、持ってる本の……事、なんだと……思う…………たぶん」

 

 たぶんかよ。しかもそんだけの長文にしなくてもいいところをかなり使ったな。ここまで話すのにまるまる十分は使ってるだろ。


「長いわね、アバズレ。要するにそういうことだけど。……とにかく、あなたたちにはここの蔵書確認を行ってもらいまーす」


 …………は?

 望さん? 何をおっしゃっているのですか?

 こんだけでかい図書室の本を全部……あるかどうかの確認?


「……あ、あの……」


 緑川がおずおずと言った具合で望さんに質問した。


「……こ、これだけの広さの図書室……での、ぞ、蔵書確認、は……じ、時間が……」

「? だから今頼んでるんだけど?」


 ……これ絶対引き受けないと帰らせてもらえないな。

 結局、俺と緑川、望さんと瀕死状態の瀬戸が図書館の半分半分蔵書を確認することになった。

 ……これ、今日中に終わるのか?

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