4月。学校での突然の襲撃の事。
木乃絵馬サイドで話は進みます。
え? 今回の一言?
右上注意。
「――ふっ」
短く息を吐いてこけむした地面に難なく着地する。少しばかり裾に土がついてしまったが大丈夫だろう。
辺りを見渡す。じめじめとした空気が露出している肌や手にまとわりつく。周りには狭い面積の中にこれでもかといわんばかりの竹で覆われていた。とりあえず今立っている所から向こう側はかろうじて見える程度だ。
……ひとまず敵であるあの魔人の姿は見えない。ということはつまり完全に後手に回ってしまった、ということだ。
「まいったな……」
ここで動かないのもいけない。ここはすでにアレのテリトリーだ。
どうしたものかと考えようとしたとき、
「そこです」
ひゅん、と目の前が伐られる。
目の前にアレがいた、と同時に竹が数本倒れる。
「……驚いたな。ただ殴るだけが脳ではない、ということか」
思わず両手を挙げて研鑚の一声を出した。
窓へたたき出したとき、紛れもなく下に落ちていった。それから上に上がった様子もなく、ただ隠れていたわけでもなさそうだ。
ではなぜ目の前にいたのか。それは――
「……視認させない能力、か」
見えない。感知されない。気づかれない。
人には絶対的な死角がある。目の後ろ側、体の反対などがそれに当たるだろう。
そのどれらかが抜けていれば、人は気づかれてしまう。
しかし、それらを全て隠して、気づかれないようにすればどうなるか。
機械などが無ければ気づくことができない、完全な気配遮断になる。
おそらく、目の前のメイドは、それをこなすことができる、ということか。
「わたくしの、勝ちでございます」
高らかに勝利を宣言するメイド。
私の首元には鈍色に輝く刃がある。力を少し加えれば簡単に私の首は落ちるだろう。
勿論、この場合の勝利は、どちらかが死ぬことなのだろうけれど。ということはもはやこれまで、と言うことか。
覚悟を決めて目をつぶる。さすがに首を刈られてはどうにもできない。
一旦少しの冷気が首から離れる。そして、
「あだ――――――――っ!!」
冷気は、急激に離れた。
何事かと見渡すと、辺りには誰もいない。すぐさまメイドは何かが放たれた方向に向かう。しかし、
「おおおっ!」
隙を逃さず、《腕》で殴る。反応しきれなかったのか、ダイレクトに背中に当たる。
横へゴムまりのように跳ねるメイド。やがて、竹の根本へたどり着いて急停止して竹を揺らした。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
結構急いで出して力を入れたためか、少しへたりこんでしまった。
肩で息を整えながら真上を見上げる。あと一つ遅かったらさすがにまずかった。
少し反省をしていると、竹が動いた。
ひょっとして魔人の魔術師かと思って身構えたが、
「……よぉ」
「……………………」
何のことはない。本屋彰だった。少し笹で切ったのか、あちこちに擦り傷を作っている。
「大丈夫、だったか?」
「……ああ。一応、な」
どうして、なんて考えなくても分かる。おそらく先程の一撃は彼の手によるものだろう。
それは、彼が肩に担いでいる細く、長いベルト状のものからも分かる。
「……全く、キミという人間は。本を投げるなんて信じられない。どういう神経を……」
彼の背中から声がする。恐らくは魔導書だろう。
「……《アスクの髪》か」
「? そんな変な呼び方はしらねぇけど……ただこれ、瓢さんから渡されたんだよな」
アスクの髪。
火であぶっても、刃物で断ち切られようともそれにはキズ一つつかない魔道具の一つ。
その効果は巻き付けたものを壊さず、そして伸縮自在の鞭にできることだ。
先端につけてある重り代わりのものが分銅となり、投擲することもできるだろう。
もっとも、それは先端につけるものを石や木にした場合だ。
本をつけるなんて、まさか当人も思いもしなかっただろう。
「……もらっておけ。一応護身用としてな」
「??? 分かった」
いまいち理解していないようだが、いつか追々説明してやろう。
そんな風にしていたら、私たちは気づいていなかった。
あのメイドが、消えていたことに。




