第1話 シュオーマ王国入国・前編
「強い者だけが生き延びる事の出来る国、シュオーマ王国……」
シュオーマ王国の南の隣国、ガダリア共和国。
ガダリア共和国は10年前、隣国シュオーマ王国に攻め込まれた事があった。
その時は、シュオーマ王国の北の隣国、ヒンバー帝国に救援を求め、南北からシュオーマを挟み撃ち。
そして、何とかシュオーマ王国相手に勝利を納めたのだ。
そんなガダリア共和国の北部、シュオーマ王国の国境に1番近い町“ユギー”にある小さな宿。
築10年、木造2階建て。
かつてはシュオーマとの戦争時に、前線へ向かう兵が宿泊したと言われている、小さな宿だ。
現在は一般の客が主に利用している。
その宿の一階の奥にある食堂、そこに一人の若者が椅子に腰掛け、一枚の小さな紙をまじまじと眺めていた。
「シュオーマ、ねぇ〜……面倒臭さそーだな」
明るい茶色の髪、透き通るような黒い瞳、整った顔、程よく筋肉の付いた体。
「全く……俺は奴隷じゃねぇんだってんだ!!」
「いや奴隷だ」
「なっ……!!」
若者はハッと振り返る。
そこには、がたいの良い中年の男性が一人。
「ほほぅ、レルラ。貴様いつからこの俺様に陰口を叩ける身分になったんだ、あ?」
「なっ……き、聞こえていたのか……」
若者は大量の冷や汗を流しながら、視線をあっちこっちへ泳がせる。
「……レルラ、表出ろ」
「……え?」
中年の男性は、若者―――レルラの着ている服の襟をグッと掴み、顔を近付ける。
「いいから表出ろ」
その言葉には、ただならぬ威圧感が……。
「は、はい……」
レルラは、頷くしかなかった。
若者の名はレルラ=リリューザ。
ガダリア共和国出身の、18歳。
「レルラ、テメェは俺様の目的を忘れたのか!?」
外での鉄拳制裁。
それが終わった後、レルラは中年男性の部屋へ強制連行させられていた。
「わ、忘れていません」
レルラは床に正座。
彼の顔はあざだらけ。
「ほーう……ならばレルラ、この場で目的を言ってみろ!」
中年男性は部屋のベッドに腰掛け、足を組む。
「目的……それは……」
レルラは棒読みで言った。
「シュオーマ王国を、俺達の国にする事」
レルラは面倒臭さそうに頭をかく。
「……フッ」
一方の中年男性は、ベッドから立ち上がり……
「俺達じゃねぇだろッ!!」
ドスッ!!
「ぐはっ!!」
レルラの腹に蹴りを一発入れた。
「ゲホッゲホッ……テメェ、このクソジジィ……人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって……」
レルラは咳込みながら、中年男性を睨み付ける。
「黙れレルラ。俺達の国じゃねぇ、俺様の国だ!」
中年男性は仁王立ち。
「この野郎……」
レルラはハァ〜とため息を一つ。
「全く……もう嫌だ」
「ハハッ、歎け歎け、テメェは一生俺様のしもべだ!!」
ガハハハっと、高笑いする中年男性。
その時……
バタッ!!
突然、部屋の扉が開いた。
そして、
「おいレルラ、ジジィ、そろそろ出発の時間だ」
黒い鎧を纏った男性が、部屋に侵入。
「なっ……ぐ、グロース!! お前今、俺様の事何て……」
中年男性はその黒い鎧の男に怒りをぶつける。
「うるせージジィ、もうリアーナは馬車に乗って待ってるんだ。急げ」
「っ……グロース!!」
黒い鎧の男性―――グロースは中年男性をシカトし、レルラに声を掛ける。
「レルラ、お前も急げ。早く荷物とか持ってこい」
「あいよ」
レルラは怒り心頭の中年男性の横を通り、荷物のある自室へ。
「ジジィも急げよな」
「グロース! テメェも後で鉄拳制裁だ!!」
『俺様は荒れたシュオーマ王国を手に入れ、この俺様の国を1から作る!!』
かつて、彼が言った言葉。
その言葉に、三人の若者が乗っかった。
飢餓も奴隷も戦争もない、平和な国を創る。
その言葉の元に……。
「もうすぐでシュオーマ王国国境だ!!」
ガダリア共和国、ユギーの町発の、一台の馬車。
その馬車には、四つの人影があった。
「シュオーマ王国に入ったら、多分すぐに最初の町ヒロタに着く。各自強盗には十分気をつけろよ!!」
赤い重鎧を纏った中年男性は、馬車に乗る他の三人に向かい、注意を促す。
「了解……」
黒い鎧を纏ったグロースは、眠たそうな返事。
「わーった。……それよりジジィ、腹減った!」
紺色を基調とした布服、そして下は黒のズボン。
レルラは自らの腹を摩りながら、食事を要求。
「なっ……レルラ、貴様もかッ!!」
中年男性はやはりお怒り気味。
「リアーナ、何か飯持ってないか?」
レルラは中年男性を軽くシカトし、隣に座っていた若い女性に食物要求。
「…………」
一方の女性―――リアーナはツンとした態度でレルラをシカト。
ぼーっと外の景色を眺めていた。
橙と白を基調とした布服、下はショートパンツ、膝にはプロテクター、そしてブーツ。
「ハッハッハ、レルラの馬鹿がシカトされてやがる!!」
中年男性は腹を抱えながら爆笑。
「なっ……ウルセェジジィ!!」
「ジジィだとっ!! レルラぁ!!」
中年男性はレルラの首をぐっと締め付ける!!
「がぁ〜、テメェジジィ!! 放せぇ!!」
「ウルセェレルラ、俺様はジジィじゃねぇ、ボンガ=ジルオ様だッ!!」
中年男性―――ボンガは、さらにレルラの首をきつく絞める。
「だあ〜ギブギブ、苦し〜!!」
レルラの顔は青白くなっていく。
「おいジジィ、手綱放していいのか?」
「グロース、だったら貴様が運転しろ!!」
ボンガは相変わらずレルラ締め付け中。
「メンドイな〜……」
グロースは嫌々運転席へ。
そして、リアーナは相変わらず無言、視線は外。
その時!!
「おい貴様ら、止まれ!!」
突然、馬車の前に斧を持った男達が数人現れた。
「俺達はトカー盗賊団。命が欲しけりゃ馬車止めて、金目の物を置いてさっさと逃げな!!」
盗賊団の面々は皆、たくましい筋肉、恐もての顔、手には斧。
しかし……
どーんっ!!
「ぐあっ!!」
「だーっ!!」
「あべしっ!!」
グロースは盗賊団を無視。
馬車で彼らをひいた。
「んあ? 何かにぶつかったか?」
……無視ではなかった。
普通に気付いてなかっただけだった。
「て、テメェ……やってくれるじゃねーか……」
盗賊団の面々はお怒り気味。
「ん? 誰だあんたら?」
グロース、火に油。
「野郎共、もういい! 奴らを殺せぇ!!」
『オー!!!』
盗賊団は各自斧を構え、馬車に突撃!!
「盗賊か? って事はもうここはシュオーマか」
グロースは相変わらずのんびり状態。
そして、馬車の中に向かい一言。
「強盗襲来〜」
「……うわっジジィ、外見ろ!!」
「ウルセェレルラ……ってうおっ!! 強盗かっ!?」
一方、馬車内に強盗達が侵入を開始。
「くそっ……レルラ、リアーナ、戦闘準備!」
「了解っ!!」
「……だる」
レルラは腰のベルトから一本の剣を抜き放つ。
銀色に輝く剣。
ボンガは馬車の荷台に置いてあった等身大の楯と、鋼製の鎚を手に取る。
リアーナはレルラとボンガの後ろに回り、荷台から弓を取り、構える。
「俺様が前に出る。レルラは右、リアーナは左を頼む!!」
そういいながら、ボンガは敵に向かい突進。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
腹の底から声を出し、鎚を振るう。
「うおおおおりゃぁぁぁ!!」
一方の盗賊も、斧を構え突進。
「ジジィ!!」
そして、斧と鎚がぶつかった。