異世界勇者を召喚したらフィギュアだった件~役立たず妖精の私だけが、動かない勇者を最後まで信じていた~
【第14作】設定を思いついてしまったので、柄にもなく恋愛っぽい話を書いてみました。(ジャンル恋愛にしてみたけれど良いのかな?)
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妖精国フェアリアは滅亡の危機にあった。
北方の黒霧の森を支配する魔王軍が勢力を広げつつあった、妖精国への侵攻準備を始めたのである。
妖精たちの軍は勇敢だった。
だが数でも力でも劣っていた。
追い詰められた妖精王は、王城の最奥に封印された古代魔法を使う決断を下す。
異世界勇者召喚。
伝説によれば、世界の危機に応じて異世界より人間の英雄が現れ、災厄を打ち払うという。
王城の大広間。
巨大な召喚陣が輝き、妖精たちが固唾をのんで見守る。
妖精王は杖を掲げた。
「異世界の勇者よ。我らを救いたまえ!」
光が天井まで伸びる。
轟音。
暴風。
そして静寂。
やがて光が晴れた。
「おお……!」
歓声が沸き上がる。
召喚陣の中心には、一人の青年が立っていた。
銀色の髪。
蒼く輝く瞳。
美しい鎧。
見た事もない形状の剣を構えた凛々しい姿。
まさに勇者だった。
だが。
「……」
動かない。
ぴくりとも動かない。
最前列にいた妖精の少女ミリーが恐る恐る近づく。
「ゆ、勇者さま?」
肩をつつく。
コツッ。
妙に硬かった。
肌というより磨かれた石のような感触である。
青年の大きさ人間の大きさではなく妖精たちとほぼ同じだった。
しかし近くで見ると、ますます不思議だった。
髪の一本一本。
鎧の飾り。
剣の細工。
すべてが精巧で神々しいのである。
その時、宮廷学者が叫んだ。
「わかったぞ!」
「何がだ?」
「召喚事故です!」
妖精たちはどよめく。
「勇者の肉体が未完成なのです!」
「なるほど!」
「魂だけまだ到着していないのかもしれません!」
「異世界人特有の休眠状態かもしれぬ!」
次々と説が飛び出した。
誰ひとりとして『フィギュア』という発想には至らない。
妖精たちは異世界にフィギュアと言うものがある事を知らなかったのだ。
だから誰ひとり正解にたどり着けない。
妖精王は満足げに頷く。
「つまり、勇者には世話が必要なのだな」
「そのようです!」
王はミリーを指差した。
「ミリー」
「ひゃい!?」
「勇者のお世話係を命じる」
「えええっ!?」
こうしてミリーは、しゃべらない勇者の世話係となった。
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翌朝。
「勇者さま、おはようございます」
返事はない。
「木の実パンですよ」
返事はない。
「美味しいのに……」
返事はない。
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三日後。
ミリーは号泣しながら王の間へ駆け込んだ。
「勇者さまが何も食べません!」
学者会議が始まり、一時間後に結論が出た。
「高位存在だから食事不要」
妖精たちは感心した。
ミリーだけ首を傾げた。
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ある日は風雨の激しい日だった。
窓が揺れ、雷が鳴る。
ミリーは慌てて勇者の方にマントを被せた。
「濡れたら大変です!」
窓辺から部屋の奥へ移動させる。
勇者は当然動かない。
「私、こういう雨苦手なんです」
ぽつりと話す。
「でも勇者さまがいると少し安心します」
返事はなかった。
それでも不思議と心は軽くなった。
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春になった。
ミリーは花畑で花冠を編んだ。
黄色い花ばかり集めて作った冠だった。
「ほら」
勇者の頭へ乗せる。
とても似合った。
「勇者さま、かっこいいです」
少し考える。
「かわいいです?」
勇者は無言だった。
「今笑いました?」
もちろん気のせいだった。
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夏の夜。
王城の塔から星空を見上げる。
勇者の横に立ち同じ方向を見る。
「私、妖精軍に入りたかったんです」
ぽつりと呟く。
「でも飛ぶの遅いし、魔法も下手だし」
星を見上げながら笑う。
「みんな立派なのに」
勇者は何も言わない。
だが蒼い瞳は月光を受けて静かに輝いていた。
そんな日々が続いた。
毎日話しかけた。
失敗した話。
嬉しかった話。
将来の夢。
誰にも言えない不安。
勇者は何も言わない。
それでもミリーは信じ続けた。
気づいていなかったが、そのたびに妖精の微かな魔力が勇者へ流れ込んでいた。
髪を撫でる時。
手を握る時。
助けてほしいと願う時。
小さな光の粒が、勇者の身体へ吸い込まれていた。
しかし誰も気付かなかった。
本人でさえ。
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季節は巡る。
召喚から数か月後。
魔王軍がついに王都へ侵攻した。
城壁が崩れる。
炎が上がる。
空が黒煙で覆われる。
妖精たちは敗走を始めた。
「召喚は失敗だったな」
「結局ただの人形だった」
そんな声が聞こえる。
だがミリーだけは城へ戻った。
「勇者さま!」
勇者を抱き上げる。
見た目以上に重い。
「本当に重いですよね……」
苦笑する。
「鍛えてるんですか?」
返事はない。
勇者を抱え、森へ飛んで逃げ込んだ直後だった。
大地が揺れる。
魔王軍の将軍が現れた。
巨大な黒鎧。
妖精の十倍はある体。
見上げるほどの大男だった。
「見つけたぞ」
低い声が響く。
将軍は勇者を見下ろして笑った。
「その人形を守るのか?」
「人形じゃありません!」
ミリーは叫ぶ。
「勇者さまです!」
将軍の剣が振り上がる。
終わりだと思った。
怖かった。
震えた。
それでもミリーは勇者を抱きしめた。
涙が頬を伝う。
「本当はずっと不安でした」
「みんなに笑われても」
「何もできなくても」
「私は信じてたんです」
涙が勇者の頬へ落ちる。
その瞬間。
無数の光粒が溢れ出した。
今までミリーが注いできた魔力だった。
やがて勇者を包み込む。
かちり。
音が鳴った。
瞳に光が宿る。
足が動く。
腕が動く。
何か月も止まっていた時間が動き出した。
勇者は静かに地面へ降り立つ。
妖精と同じ大きさ。
それなのに。
その姿は誰よりも大きく見えた。
蒼い瞳が将軍を見据える。
魔族将軍が剣を振り下ろした。
勇者は一歩前へ出る。
閃光。
ただ一撃。
将軍の剣が真っ二つになった。
「馬鹿な!」
続く一閃。
光が夜空を切り裂く。
将軍は遥か彼方へ吹き飛んだ。
魔王軍は恐怖した。
小さな勇者が進む。
そのたびに光が走る。
敵は次々に倒れる。
まるで伝説そのものだった。
そして夜明けと共に戦いは終わった。
丘の上。
ミリーは勇者を見上げる。
涙が止まらない。
「本当にいたんですね」
勇者が振り返る。
初めて目が合った。
優しい瞳だった。
そして。
初めて口を開く。
「ありがとう」
ミリーは息を呑む。
「ありがとう、ミリー」
その一言だけだった。
だが十分だった。
勇者は全部聞いていたのだ。
雨の日の話も。
花冠も。
星空の夢も。
弱音も。
願いも。
全部。
次の瞬間。
光が消える。
「あっ」
ミリーの傍らに二十センチほどの色あせて朽ちたフィギュアが転がった。
ミリーはそっと抱き上げる。
硬い。
重い。
だけど今は少し温かい気がした。
「本当に変な勇者さまです」
そう言って笑った。
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数年後。
平和になったフェアリア。
ミリーは王城で働いていた。
相変わらず失敗もする。
慌てることもある。
だが以前のように下を向くことはなくなった。
部屋には大切な宝物がある。
銀髪の勇者だった。
毎日磨いているの。
「おはようございます、勇者さま」
朝の挨拶をする。
「今日も頑張ってきますね」
窓辺に黄色い花を飾る。
あの日作った花冠と同じ色だった。
返事はない。
それでもミリーは笑顔で部屋を出る。
「行ってきます」
扉が閉まる。
誰もいなくなった部屋。
春風が吹いた。
ふわりと花びらが舞う。
その時。
朽ちたまま佇む勇者の足元へ、一片の黄色い花びらが転がった。
そして本当に一瞬だけ。
勇者の口元が微かに微笑んだように見えた。
だが、それを見た者はいない。
ただ一つ確かなことがある。
落ちこぼれだった妖精の少女は、一人のしゃべらない勇者に救われた。
そして勇者もまた。
誰よりも信じ続けてくれた少女の優しい心によって、一度だけ奇跡を起こしたのである。
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毎回、ギャグものばかり書いているので、うまく表現できたか心配ですww
もし、よければ、前に投稿した話も読んでみてください。




