ep152:邪魔者現る
近衛騎士団の入団テストを受ける人々は、テスト1週間前からフルール城の客室に滞在して騎士団の訓練に参加する。
僕も同じように王宮の客室を与えられ、そこから通うことになった。
「おい、そこのお前」
客室を出て騎士団の訓練場へ向かう途中、知らない青年の声が聞こえる。
振り向いて通路の窓側を見れば、二十歳くらいの赤毛の青年が腕組みして立っていた。
左右にはとりまきっぽい青年たちもいる。
(誰だろう? なんかどっかで見たような顔だけど)
僕がキョトンとしていると、赤毛の青年はイライラしたように目を吊り上げて睨んでくる。
何を怒っているんだろうか? 全く心当たりが無い。
「お前だな? 平民の分際で近衛騎士団の入団テストを受けようとする馬鹿は」
どうやら、向こうは僕のことを知っているらしい。
貴族の令息のようだが、リシュ城の宴では見かけたことがない。
つまり、領主様の敵対派閥。宴に招待されない貴族だ。
「近衛騎士は高貴な生まれの者だけがなれるのだ。平民ごときがなれると思うな!」
高貴な生まれでも、賄賂を渡そうとする奴は落とされるけどね。
さて、この面倒くさい男をどうやってやり過ごそうか?
黙って通り過ぎようとしたら、赤毛の青年が通路の真ん中に移動して行く手を阻む。
とりまきの二人が協力するように、彼の左右に立った。
「ここは通さん! その無駄に整った顔を傷つけられたくなければ、さっさと帰れ!」
なんだろう? この人。
こちらの顔を指差して怒鳴っているけど。
ウォルクリスの顔が気に入らないのか?
青年は選民思想の持ち主で、平民が近衛騎士になることが許せないらしいのは分かった。
青年は目つきの悪い顔に豚っ鼻、でっぷり太っているせいか武術に秀でているようには見えない。
とりまきの二人も雑魚っぽい感じがする。
しかし、不要な争いは避けたいので、僕は何も言わずに回れ右して歩き出す。
勝ち誇ったように高笑いする三人の声が、通路に響き続けた。
(まあいいや。訓練場は中庭からも行けるし)
僕は彼等に背を向けて歩きながら、心の中で舌を出す。
普通に歩いていたらこの通路から中庭には行けないが、僕には転移の魔道具がある。
青年たちから死角になる曲がり角までくると、僕はペンダントの転移機能を起動した。
◇◆◇◆◇
僕は中庭の魔法陣に転移した後、近衛騎士団の訓練場まで歩いて行った。
訓練場には二十人ほどの青年たちがいて、それぞれ剣を振っている。
いずれも鍛え上げられた筋肉の持ち主で、動きは力強い。
青年たちは訓練場に入ってきた僕を見て、怪訝な顔をした。
まあ、そうだよね。
受験生だとしたら、実力のある騎士だろうから。
成人前の子供が受験なんて、普通はありえない。
「君が第二王女殿下の専属騎士候補か?」
「はい」
教官に問われて答えると、周囲が一瞬ザワつく。
同時に、嫉妬と思われる視線も幾つか向けられた。
あまり目立たないようにしたいところだけど、無理そうな気がする。
「お、お前っ! 何故そこにいる!」
叫ぶ声が聞こえて振り向けば、先ほどの赤毛豚鼻青年がいた。
追い返した筈の僕がいるから、めちゃくちゃ驚いてる様子だ。
「え? ここは通さんって言われたから、他を通って来ただけですよ」
僕は涼しい顔で答えてやった。
豚鼻青年が、怒りで顔を真っ赤にしてこちらを睨む。
「ジェヌール令息、どういうことだ?」
「えっ」
僕の言葉を聞いた途端、真面目そうな教官が眉間に皺を寄せて豚鼻青年に問う。
教官に咎められるとは思ってなかったのか、ジェヌール令息と呼ばれた赤毛豚鼻青年がキョトンとした。
「君は、受験生が訓練を受けようとするのを妨害したのか?」
「え? 私はただ場違いな平民の子供を追い返そうとしただけですが」
「ウォルクリスは第二王女殿下の推薦を受けている。場違いなどではない」
教官が言った途端、周囲がまたザワッとどよめく。
「えっ、そ、そんな馬鹿な……」
「むしろ追い返されるべきは、受験妨害をする君ではないかね?」
焦り始めるジェヌール令息に、教官が追い詰めるように言う。
屈強な騎士たちが近付いてきて、豚鼻青年の腕を左右からガシッと掴む。
一緒に慌てているとりまき二人も騎士たちに腕を掴まれ、三人はどこかへ連行されてしまった。




