ep146:魔法がバレた
鹿との攻防は、三日間続いた。
弓を扱える者+侍みたいな父が鹿を撃退している頃、村内のキャベツ畑では女性や老人や子供たちがシュー・ドゥ・プランタン(春キャベツ)の収穫作業を進めていた。
「急いで!」
「刈り取ったらすぐ保管庫へ!」
「男たちが防いでいる間に収穫するのよ!」
この収穫作業は全世帯が協力し合い、三日間で全てのキャベツを一気に刈り取る。
鹿たちは村から漂ってくるキャベツの匂いを嗅いで、周囲の森から押し寄せるのだ。
収穫が終われば鹿は来なくなるので、射手たちを疲労させないためにも素早く刈り取る必要があった。
「今年はこっちまで来る奴がいないな」
「石垣の手前で撃退してるらしいぞ」
毎年何頭かは石垣を突破して畑まで来るので、畑の周囲にも武器を持つ男たちが待機している。
しかし、鹿たちは一頭も石垣を越えられずに狩られ、生き残りは追い返された。
今年の春キャベツは、一個も食われることなく収穫を終えた。
全てのキャベツが保管庫に納められ、匂いがしなくなった途端に、鹿たちはサーッと引き上げていく。
「収穫が終わったぞ!」
「守り切ったな!」
石垣の上では、射手たちが笑顔でハイタッチをしている。
侍みたいな父も笑みを浮かべて、近くにいた村人と拳を突き合わせて勝利を祝っていた。
「ピィィィ~」
「さてお前ら、素材になってもらうぞ」
「ピィッ!」
「お前らを逃がしたら、捕まっても殺されないとか思われるからな」
僕は蔦で生け捕りにした鹿たちを見回して引導を渡す。
日本で逃がしてやった鹿とは、事情が違う。
こいつらは生き延びれば、来年また襲ってくるのだ。
「みんな、こいつらにトドメ刺してやって」
僕が言った直後、兄姉弟妹が放つ矢が鹿たちを射抜いた。
即死させたのは、せめてもの情けである。
「ウォルの魔法、凄かったね!」
息絶えた鹿たちに生活魔法の【血抜き(デゴルジェ)】を使っていたら、兄が興奮気味に話しかけてきた。
それは、普段落ち着いているエリチエルには珍しいことだ。
「あんなに何回も大きな魔法が使えるなんて、あんた魔力かなり多いんじゃない?」
「鹿が多すぎたから必死で使っただけだよ」
姉から問われて、とりあえず謙遜して答えてみる。
昨日の防衛に加わったウォルクリスが全く隠すことなく魔法を使ったおかげで、初日の植物魔法のこともバレてしまった。
なので三日目は僕も堂々と魔法を使ったよ。
この世界の魔法は、必要な魔力量があり、イメージをもつことで使えるようになる。
ウォルクリスはオッサンの記憶にある昔遊んだゲームの魔法をイメージして、鹿軍団に雷を落としたんだ。
木々には一切被害を出さず、鹿だけを狙い撃つ雷なんて、自然現象ではありえないだろう。
鹿軍団の第二波がきたときには、無数の氷の矢をお見舞いしている。
氷の矢はウォルクリスの周囲に出現して鹿めがけて飛んだから、近くで見ていた人には使用者バレバレだ。
オッサンなら、発動者がバレないように対象の頭上に出現させて氷の雨を降らせるところだけど。
少年はそこまで隠すことに拘らなかった。
「なんと! 魔法を使っておったのはお前さんじゃったか!」
「凄いじゃないかウォル! この村から魔法使いが出るとは思わなかったぞ」
「いえ、僕は騎士になるんです」
「なら、魔法騎士だな」
兄や姉の言葉を村長や村人たちに聞かれちゃって、もはや村内で隠しようがなくなった。
小さな村だから、明日には全員に知られているだろう。
村始まって以来の魔法使い誕生を期待されたが、騎士になると答えておいた。
料理人としての地位があろうと、魔法の才能を与えられようと、ウォルクリスはブレないからな。
休暇明けには騎士団の入団テストが待っている。
横にいたアウラウダが言う「魔法騎士」とは、エルフには多いがヒューマンには少ない職だった。




