sideウォルクリス14
「今年は綺麗に咲けたね~」
枝垂桜を見上げて、女将さんが嬉しそうに微笑む。
淡紅色の花をたくさんつけた枝を垂らす古木の上には、精霊が座っている。
花と同じ色の髪をフワフワと風に遊ばせているのは、春を迎えた木から目覚めた花の精霊だ。
だけど、女将さんには見えていない。
この世界では、精霊を見ることができる人は稀だという。
僕は精霊が見えるのだけど、他人に言ってはならないと翔太郎の記憶が告げている。
『いつもお掃除してくれて、ありがとう』
精霊も、女将さんに微笑む。
その微笑みは、女将さんには見えていない。
枝垂桜は、甘く優しい香りを漂わせて、自らを慈しんでくれる人をそっと包んだ。
『あなたも、私を守ってくれてありがとう』
「鷹野さんが鹿を追い払ってくれたおかげだね~、ありがとう~」
精霊は、僕にも微笑みかけて言う。
偶然にも、ほぼ同時に似たようなお礼の言葉を、女将さんも言う。
花の香りを乗せた風が流れてきて、僕を囲むようにゆっくりと回った。
「無事に春を迎えられて、良かったですね」
僕は被っていた制帽を片手で取り、女将さんに応えるように会釈した。
それは同時に、女将さんの後ろにいる精霊にも向けたものだ。
精霊は自分にも会釈したのだと気付いたらしく、嬉しそうに微笑む。
「本当に良かったわ~。この子も喜んでいる気がするのよ~」
女将さんは精霊が見えていないけれど、精霊の気持ちが分かるらしい。
それは、長年慈しんできた者ゆえの感性なんだろうね。
見事に咲き誇る枝垂桜は、人々を魅了する。
多くの人が花を見に来て、家族で記念撮影をしている。
使っているのは、翔太郎も持っている【スマホ】だ。
遠くの人と話ができて、風景や人を一瞬で絵にしてしまう道具。
この世界は、本当にいろんな凄い道具があるね。
(あれ? あの子たち、どうしたんだろう?)
ふと見ると、民宿の敷地の外に、ぽつんと佇む二人の子供たちがいた。
普段から街でときどき見かける地元の子だ。
他の子は家族と一緒に桜を見に来ているのに、幼い兄妹だけで来ている。
「こんにちは。どうしたの? パパやママは?」
「パパとママ、ケンカしてるんだ」
「パパね、ママに追い出されちゃったの」
……なんだか、お家が大変なことになってるみたいだね。
「そっかぁ……とりあえず、君たちだけでも桜を見ていきなよ」
「「うん」」
「パパやママの代わりに、僕と一緒に花見しようか」
「「うん!」」
兄妹それぞれと手を繋いで歩いていくと、花見に来ている観光客たちが、子供を肩車しているのが見える。
民宿スタッフの百合さんと桔梗さんが、家族揃ったところをスマホで撮影してあげてるのも見えた。
「いいなぁ、あれ」
「よし、じゃあ肩車しよう」
「いいの?」
「いいよ。二人一緒に。……よいしょっと」
「わ、す、すごい!」
「おじちゃん力持ちだぁ!」
僕は左右の肩に兄妹を座らせて立ち上がり、枝垂桜の周りを歩いてあげた。
兄妹もビックリしていたけど、他の人まで目を丸くして驚いている。
筋トレしてればこれくらい普通にできるけど。
みんなどうして驚くの?




