ep121:滲む紅と閉ざされた器~沈黙の一杯~
日本で過ごす木曜日。
ウォルクリスが筋トレ増量したせいで、相変わらずあちこち筋肉痛だ。
だが、それよりも気になることがある。
謎メニューの答えについてだ。
枕元を見れば、水曜メニューを食べたウォルクリスが書いたメモが置いてある。
水曜メニュー「香る葉に潜む影~灼熱の一皿の信実~」はカレーライスだと予想していたが、正解は……
『水曜日は【ガパオライス】でした』
……なんてこったい!
香る葉というからローリエだと思ったのに、神目箒だったのか。
神目箒は、ヒンディー語でトゥルシー 、英語でホーリーバジル 、タイ語でガパオと呼ばれる。
インドの伝統医学アーユルヴェーダで「不老不死の霊薬」とされるシソ科のハーブだ。
抽出物は治療薬として、風邪、頭痛、胃の症状、炎症、心臓病、様々な中毒、マラリアに用いられる。
ガパオライスとは、タイの代表的な国民食で、このハーブと豚肉または鶏肉を、ナンプラーやオイスターソースとともに強火で素早く炒めて、白飯の上に乗せた料理だ。
主な具材は、ひき肉(鶏・豚・牛)、ガパオ(神目箒)、ニンニク、唐辛子、赤パプリカ、玉ねぎ、ピーマン。
スパイシーで甘辛い味付けが特徴で、目玉焼きは必須のトッピングとされており、黄身を崩しながら辛味をマイルドにして食べる。
(琴音ちゃんを甘く見ていたぜ……こりゃあ今日のメニューも読めないな……)
僕は軽く溜息をついて部屋を出て、見回りの仕事をこなす。
今はもう鹿が来なくなったので、仕事はほとんど散歩みたいなものだ。
朝の見回りを済ませて、桔梗さんが用意した普通の朝食を食べて、駐車場の警備をして、問題の昼休みになった。
休憩室へ行くと、ピンクの花柄エプロンを着けた小学一年生が待っていた。
「フフフッ、探偵さん、謎は解けましたか?」
「琴音さん、『滲む紅』とは加熱すると紅色に変わる海老のことでしょうか。『閉ざされた器』とは衣のことでしょうか。『一杯』と書いてあるので丼に入っていると予想します。そこから導き出す答えは【海老天そば】ですが、いかがですか?」
僕は前回よりも探偵風味を出して言ってみた。
琴音ちゃんはクルリと回れ右して厨房に入り、お盆に丼を乗せて戻ってくる。
……正解か?!
「丼に入った麺類と予想したのは良かったですが、ハズレです」
琴音ちゃんは、運んできた丼を僕の前のテーブルに置いた。
僕は丼を覗き込む。
「正解は【明太あんかけうどん】でした」
丼には、薄紅色の卵スープに浸ったうどんが入っていた。
上には、刻んだ青葱と梅干ほどの大きさの明太子が乗っている。
「く~っ、そんなの予想つかないよ」
「フフフッ、残念でした」
……難易度高すぎるよ、琴音ちゃん。
オッサンの予想の斜め上をいく六歳児の料理は、今日も想定外だった。




