ep118:リュンヌ様の想い
異世界で過ごす昼下がり。
僕はリュンヌ様に昼食をお出しして一緒に食事をとった後、お茶を淹れているところだった。
料理人が主人と共に食事をとるなんて、滅多にないだろう。
しかしリュンヌ様は、毎回僕と共に食事をとることを望まれた。
「今日のお料理もとても美味しかったわ。いつもありがとう、ウォル」
幸せそうな微笑みを浮かべるリュンヌ様に、かつての暗い雰囲気は無い。
しかし何かと距離が近く、見上げてくるまなざしに込められた気持ちに、オッサンは気づいてしまった。
屋台の娘マリーヌと似た感情が、リュンヌ様にもあるように思える。
マリーヌとは冬に入ってすぐ会ったが、頬を少し赤らめて微笑んでいた。
冷やしぜんざいから温かいぜんざいに切り替えてからも、屋台は大繁盛している。
頑張ってねと励まして帰ったら、マリーヌは名残惜しそうに見送っていた。
ウォルクリスは容姿に恵まれているので、女性にモテるんだろう。
だが、肝心のウォルクリスが恋愛に疎いお子様なので、どちらとも進展する様子は無かった。
リュンヌ様がきらきらした瞳で見つめてくる。
オッサンは若い子のトキメキにはついていけないし、さてどうしよう?
ヴイオレット様がノックして入ってきたのは、そんなときだった。
「ウォル、エルピージ狩りに行きますわよ!」
「え? あ、はい、分かりました」
「待って!」
唐突に言われて一瞬キョトンとしてしまったが、何の為の狩りかはすぐに分かった。
エルピージは着火棒作りに欠かせない。
トムに試作品を頼んでいるから、次は大量生産の準備だ。
ソファから立ち上がりかけた僕は、リュンヌ様に抱きつかれてしまった。
「姉さまばかりズルイわ」
「リュンヌ、遊びに行くわけではなくってよ」
「私もウォルとお出かけしたい」
「洞窟へ黒スライムを狩りに行くだけよ」
「なら、私も行くわ」
姉妹が言い争う間、僕はリュンヌ様に抱き締められたまま大人しくしていた。
だってこれ、下手に口を挟めない雰囲気だし。
彼女たちの決着がつくまで待とう。
「危ないわ、洞窟には魔物が出るんだから」
「平気よ、護衛たちも連れて行くもの」
ふと壁際を見れば、行くことにされちゃってる護衛たちは、表情も変えずに待機していた。
感情を見せない人たちだけど、内心焦ってるんじゃないかなぁ?
「駄目よ、お父様がお許しにならないわ」
「なら、お父様が許可したら、行ってもいいのね?」
リュンヌ様は、僕の左手をしっかり握ってソファから立ち上がる。
彼女がそのまま歩き出すので、僕はもれなく連れて行かれた。
陛下、許可するかなぁ?




