ep113:ドワーフの職人
「ウォル、例の設計図を出して下さる?」
「はい」
僕はヴィオレット様に声をかけられて、ベルトポーチ型マジックバッグから羊皮紙を取り出した。
リュンヌ様の専属料理人になってから、ヴィオレット様からも愛称呼びされるようになっている。
取り出すところを見た途端、店主の目の色が変わる。
「そ、そのベルトポーチは……もしやエウェル様の作品か?」
「はい、エルフの女王様に頂きました」
エウェル様とは、ベルさんのお母さんでエルフの森の女王陛下の名前だ。
彼女も物作りが得意な方だから、ドワーフの職人にもよく知られているのかもしれない。
「エウェル様の作品を頂けるとは、少年よ、只者ではないな?」
トムはさっきまでの呑気な雰囲気から一転、腕利きの職人を思わせる鋭いまなざしに変わった。
僕は見習い騎士の制服を着ているのだけど、トムにはもう普通の子供には見えないらしい。
「彼の名はウォルクリス、火食の女神イリキーヤ様の加護を受ける【ル・キュイジニエ・ドゥ・デュー(神の料理人)】ですわ」
「おぉ……」
極めつけに、ヴィオレット様が僕の地位を明かす。
トムが納得を含めた驚きの表情を浮かべる。
この世界では神の料理人といえば、調理業界の最高峰を意味していた。
「まずはこれを見て下さい」
僕は手にした羊皮紙をトムに差し出す。
まだ会計カウンターに座ったままのトムは、慌てて飛び降りて引き出しからダスターを取り出し、カウンターテーブルを手早く拭いた。
「こ、ここに置いて下され」
イリキーヤ様の加護の話が出た途端、僕に対するトムの口調が変わる。
ドワーフといえば創作界隈では火の神を信仰する設定が多いから、彼もそうなのかもしれない。
「これは、イリキーヤ様から授かった道具の設計図です」
「なんと……イリキーヤ様が料理以外の知恵を授けて下さるとは……」
トムは真剣なまなざしで設計図を見つめる。
もはや来店時に見た呑気な店主の雰囲気は無くなっていた。
「……ふむ。素材は特別な物ではなく、鉱山や森や畑で簡単に手に入るのですな。これならば、すぐに素材を仕入れて製造に入れますぞ」
「ガリア国王陛下が製作費を負担して下さいます。製造後は偽物が出回らないように、陛下の御印をここに入れてもらいます」
素材が身近な物ばかりだから、製造開始は容易そうだ。
僕は製作費を陛下に負担してもらえることを告げた。
「この道具は貴族向けではなく、農村で火起こしに苦労する平民たちのために授かった物ですの。金儲けしか考えていない職人に情報が洩れないように、トムに任せることにしましたのよ」
「……畏まりました。これは厳重に保管致します」
ヴィオレット様は情報漏洩を警戒して言う。
彼女が任せるからには、トムの秘密厳守は信用できるものなんだろう。
良い職人を紹介してもらえた。
まずは着火棒の試作型を楽しみにしよう。




