ep94:ベルさんのお誘い
「ウォルくん」
ベルさんが、上目遣いに僕をじっと見つめてくる。
美人だし普通ならドキッとするところだろう。
だが、僕はもはや狼狽することはない。
「はい、何でしょう?」
笑顔で応える。
こういうときのベルさんは、僕に頼み事があると決まっている。
「もう、ウォルくんてば子供のくせに落ち着き過ぎ」
僕が平然と返したら、ベルさんは膨れっ面になった。
まあ、今の中身オッサンだからな。
でも、慣れれば12歳の少年でもこうなると思うぞ。
「安心して下さい、ベルさんが可愛いのは分かってますから」
「ななな、なに言い出すのよっ」
僕がまた笑顔で応えたら、ベルさんはボッと音がしそうなほど赤面した。
稽古を終えて木剣を片付けていた先輩たちが、目を丸くしてこっちを見る。
なんか変なこと言ったっけ?
ベルさん可愛いって先輩たちも言ってたじゃないか。
オッサンは可愛い子には「可愛い」とハッキリ言うタイプである。
「何か頼み事があって来たんでしょう? 今なら三時間くらいお付き合いできますよ」
「……ウォルくんが子供とは思えなくなってきたわ」
ベルさんはまだ少し赤面しながら、溜息混じりに呟く。
中身オッサンだとバレるのは時間の問題だろうか?
「まあいいわ。あのね、葡萄狩りに付き合ってほしいの」
「葡萄狩り? どこの農園ですか?」
「そこの森。ママがいる方のね」
ベルさんは気を取り直して用件を告げた。
葡萄狩りのお手伝いらしい。
但し、普通に終わる気がしない場所だが。
「分かりました(ター・グ・ブラ)」
「じゃ、行きましょう(テー・ミシュ)」
僕たちがエルフ語で話したら、先輩たちだけでなく見習いメンバーもポカーンとしていた。
◇◆◇◆◇
「ママ、開けてー」
ベルさんが言うと、エルフの森の入口が開く。
僕は二度目なので、もう驚かない。
今日は木の実が降ってこなかったので、お城がある世界樹まで徒歩1分で着いた。
「いらっしゃいウォルくん。お手伝いよろしくね」
お城の前には、何故か武装したエルフたちが集まっている。
女王様も、銀のチェインメイルを纏い、手にレイピアを持っていた。
……葡萄狩りじゃなかったっけ?
「ママ、ウォルくんに葡萄狩りの装備を貸してあげて」
「用意してあるわよ」
……葡萄狩りの装備とは?
エルフの侍女たちがササッと来て、僕に銀のハーフプレートアーマーを着せちゃったよ。
女王様からは、魔法文字が描かれた鞘に収まる銀色のロングソードを渡された。
まって、これゲーム終盤に出てくるような装備じゃない?
「あ、それパパが使ってた聖剣だよね。錆びてない?」
「大丈夫よ、ちゃんとお手入れしてたから」
……パパの聖剣?
「じゃ、行くわよ」
「葡萄狩り部隊、出発~!」
……葡萄狩り部隊って何ー?!
ツッコミ多すぎて声も出ない。
呆然とする僕は、ベルさんに手を引っ張られて歩き出すしかなかった。




