sideウォルクリス09
翔太郎として暮らす日。
僕は民宿初鹿の皆さんと一緒に、渓流へバーベキューを楽しみに行った。
この世界の火おこしは楽でいいね。
炭火はバーナーという道具で簡単に火がつく。
僕の村では木の板に木棒を垂直に立て、高速で回転させて摩擦熱で発火させる「舞錐式」という方法で火おこしをしていたよ。
「釣れたーっ!」
渓流には、美味しい魚がいるらしい。
魚を釣り上げて喜んでいる人たちもいた。
バーベキューは騎士団の野営に似てる。
けど、ダークマター職人はいない。
民宿のスタッフさんたちは、上手にお肉を焼いている。
「翔太郎くん、呑むかい?」
「いえ、ウーロン茶でいいです」
料理長の真人さんに缶ビールを差し出されたけど、お断りしてしまった。
僕はビールの味が苦手だ。
「あら珍しい、翔太郎さんが呑まないなんて」
「翔太郎さん、呑むときと呑まないときがあるわね」
桔梗さんと百合さんが、不思議そうに言う。
でもまさか、別人が入れ替わっているとは思わなかったみたいだ。
「休肝日を決めているんです」
僕は笑ってそう答える。
翔太郎の知識によれば、お酒を呑むむ習慣がある人は、呑まない日を休肝日と呼ぶらしい。
バーベキューを終えて、片付けて帰ろうとした時。
川の方から悲鳴が上がった。
大きな水音も同時に聞こえる。
振り返ってみると、タモ網を持った女の子が流されていくところだった。
岸では釣り竿を持った男の子が、呆然として立ち尽くしている。
「119番、電話して!」
そう言うと、真人さんが駆け出す。
僕も一緒に駆け出した。
その場にいた男の人たちが慌てて駆け出すけれど、渓流の流れは凄く速くて誰も追いつけない。
僕は身体強化の魔法を起動した。
全身の筋肉と心肺機能を強化して、一気に加速する。
川岸を走って追いつき、追い越してから川に駆け込んだ。
急流に流されないように踏ん張り、流れてきた女の子を水中から引き上げる。
グッタリした子を抱えて岸まで戻ると、人々が駆け寄ってきた。
「救急車きたよ!」
百合さんの声がする。
サイレンの音も聞こえてきた。
近くの路上に白い車が停まり、制服姿の人たちがタンカや救命器具を持って走ってくる。
女の子は救急隊の応急処置を受けてすぐに息を吹き返し、母親と一緒に救急車で運ばれていった。
「はぁ……無事みたいで良かった」
「救急車、早かったね」
「たまたま近くで消防訓練してたみたいだよ」
民宿スタッフたちは、ホッとしながら帰り道を歩き出す。
僕も一緒に歩き出して、歩いているうちに寒くなってきた。
「やだ翔太郎さん、顔色悪いわよ」
「びしょ濡れのままじゃ風邪ひくわ。帰ったらすぐお風呂入って」
百合さんに言われて、帰ってすぐお風呂に入ったんだけど。
お風呂から上がっても寒気がする。
風邪をひいたと分かったのは、夕飯の頃だった。




