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1.陸軍准尉 三上京子、ヒーロー戦隊の総帥に任命される(1)

東海道リニアモーターカーの終着駅、Rナラ駅に着いたのは午後一時半だった。


まだ昼食はとっていないが食欲はなく、三上京子はそのまま駅を出た。


九月も終盤だというのに粘りけのある不快な暑さが続いているナラ市だ。


さらに京子は紺色のジャケットにスラッグスという暑苦しい軍服だが、固い表情を崩すことなく、タクシーターミナルへ向かった。


無人タクシーに乗りこみ、陸軍西本部ビルの住所を告げる。承知する旨の音声が流れ、タクシーは時速一〇〇キロで国道を走り、ハイウェイに入ると二倍のスピードとなった。


高速で流れる景色をぼんやり眺めていると、警察車両がちらほら目に入りだした。その矢先、交通規制を理由にタクシーはハイウェイを降りてしまった。理由を調べるために、京子はコンソールを取り出す。


コンソールは一世紀前に登場したスマートフォンと似た形状だが、その名のとおり今ではただのコンソール、入出力デバイスでしかない。実際の演算はホストコンピュータが一手に引き受ける。


京子が手にしているコンソールが通信しているのは、ニホン陸軍が世界に誇るスーパーコンピュータだ。



検索した結果、県内の神社で、成人を迎える皇族の儀式が執り行われている、とのことだった。そのための大規模な交通規制だ。


タクシーに搭載されているコンソールから到着予想時間が告げられたが、遅刻の心配はなかった。京子は後部座席の柔らかいソファーに背をあずけた。


成人式か……。私が成人したのは四年前、銃弾が飛び交う砂嵐の中だった……。


そう京子はつぶやき、流れる景色を横目にため息を落とした。



陸軍西本部ビルに着いた。京子が降りると同時に、タクシーから精算完了のメッセージが流れる。


陸軍の徽章には各種精算に対応したICチップが組み込まれている。


便利なものだと京子は思っているのだが、海軍にいわせれば不粋の極みとのことだ。というのも海軍の徽章は純粋な装飾品で、純金でできている。


それはそれで酔狂の極みだと、京子としてはいってやりたい。



ビルの中に入った。一階のエントランスは白を基調にすっきりしており、中央に受付カウンター、その奥にエレベーターが並んでいるだけだ。


「三上准尉。高沢大佐専用七番エレベーターで九十階へどうぞ」


こちらから声をかける隙なく、受付嬢が朗らかにいった。


陸軍西本部ビルは地上一〇〇階地下二十階で、白い円柱の形をしている。


大佐ともなれば専用エレベーターを持っており、高層階にひととおりの設備がそろった執務室があてがわれる。


京子は受付嬢に敬礼を返し、エレベーターに乗った。


九十階の廊下を進むと、木彫の大きな扉に行き着いた。高沢大佐の執務室だ。京子はその場でしばらく唇を噛みしめていたが、やがて扉をノックした。


すぐに内側から開かれる。


高沢ではなく、ずいぶん太った色白の女が出てきた。


「初めまして、三上准尉。第二秘書の内田です」女が名刺を差し出す。


「あの……大佐は?」


「まずはこちらへ」


内田が応接室とのプレートがある部屋に入っていった。京子もあとに続き、勧められるままソファーに座る。


「申し訳ありませんが、大佐は所用でお越しいただけません。代理として私から説明いたします。今回の辞令に関してはすでに連絡をしているとおりです。八月九日、サイタマ市にて実行されたテロ制圧作戦における、三上准尉の問題行動に対する処分となります」


内田がよどみなくいい、京子は眉をよせた。どうやら高沢は秘書に降格を告げさせるつもりらしい。それは屈辱的なことだが、高沢と会わずにすんで、ホッとする自分がいるのも事実だ。


「では、三上京子准尉。准尉の任は本時点で解き、新たにソウスイに任命します」


「ソ……ウスイ?」


「総帥です」内田がメモ用紙に書いた。


「そんな階級はニホン陸軍にはないと認識していますが」


「ええ。このたび、三上さんのために新設されました」


「それは、准尉の一つ下になるのでしょうか?」


「下とか上とかではありません。別の枠組みになります」


「別の枠組み?」


「はい。ヒノマルセンタイリクレンジャーの総帥は、陸軍の階級とは別枠になります」


「ヒノマ……あの……意味がよくわからないのですが……」


「ヒノマル戦隊リクレンジャー、です」内田はいいながらメモ用紙に書き、京子に差しだした。


「いえ、やはりわかりません」京子は首をふった。


「ヒーロー戦隊シリーズは、ご存じありません?」


「五人組のヒーローが戦うテレビ番組だということは知っていますが……それと私がどのように関係するのか……」


「ヒーロー戦隊シリーズですが、今は再ブーム到来で大人気となっています。企業や自治体もPRのために独自の戦隊を企画しており、うまく人気がでた戦隊は、テレビやSNSでもよく紹介されています。あの海軍もレスキュー部隊から若くて精悍な五名を選んで、シーレンジャーなるものを結成しました。後発にはなりますが、陸軍で企画したのがヒノマル戦隊リクレンジャーです。まあ、ネーミングセンスは、多少あれなことになってますが」


「結局、私はなにをすれば……」


「まずはですね、民間人を五人集めてヒノマル戦隊リクレンジャーを結成してください。そして、隊員たちと共にゴミ拾いや募金活動などをして、地域に貢献するのが任務となります。その陣頭指揮を三上総帥にとってもらいます。平たくいえば広報活動でしょうか」


「私は……いつまで……」京子は放心し、ボソリとつぶやいた。


目ざとくそれを拾いあげて、内田は答える。


「期限付き人事とは聞いていません」しばらくの沈黙があってから、内田が続けた。「顔色が悪いようですね。詳細はメールで送りますので、今日は帰られるといいでしょう」


降格どころの話ではない。完全に陸軍からつまはじきにされた。


京子はふらりと立ちあがり、応接室から出た。


「すみません、大佐からの伝言を忘れていました」


「はい……」力なくふり向く。


「例のゲリラのタイミングがよすぎるのは、あらかじめ知ってたんじゃないか。とのことです」


やはりお前のしわざかっ!


京子は目を見開き、高沢の代わりに内田を睨んだ。


その眼光には殺意すら滲んでいたようで、内田は慌てた様子で首をふる。


「私はただのメッセンジャーです、お忘れなく!」


京子は歯をくいしばって怒りに耐え、高沢の執務室をあとにした。



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