深森の魔女と月狼
初投稿です。よろしくお願いします!
「……また人間が森に入ったわね」
銀の髪を揺らしながら、魔女シルヴァは静かに呟いた。
森の奥。
蔦に覆われた古い家の前で、彼女はじっと暗い木々の向こうを見つめている。
その足元で、大きな狼がゆっくりと顔を上げた。
月のように淡く光る瞳。
『三人だ。武器を持っている』
低く落ち着いた声が、シルヴァの頭の中に響く。
ルナ。
狼の姿をした、森の精霊であり彼女の使い魔だ。
「そう」
シルヴァの声には感情がほとんどない。
「なら、帰ってもらいましょう」
森に入る人間は嫌いだ。
いや――正しく言えば、もう関わりたくない。
かつて人間と共に生きていた頃、彼らは魔女である彼女を恐れ、遠ざけ、やがて刃を向けた。
どれだけ助けても、返ってくるのは疑いと恐怖だけ。
だからシルヴァは森に住むことを選んだ。
静かに、誰とも関わらずに生きるために。
だが――
「最近、人間が多いわね」
森の奥を見つめながら、シルヴァは小さく息をつく。
王国で何かが起きているのかもしれない。
その時だった。
遠くの木々の向こうで、かすかに剣の光が揺れた。
森の奥で、金属のぶつかる音がかすかに響いた。
人間たちだ。
シルヴァは静かに目を細める。
「……少し脅かせば帰るでしょう」
彼女が手を軽く上げた瞬間、森がざわめいた。
地面から細い根がゆっくりと伸びる。
木々の枝が揺れ、進もうとする騎士たちの前に立ちはだかった。
「な、なんだこれは!」
「森が……動いている!?」
恐怖に満ちた声が森に響く。
騎士たちは慌てて後退した。
やがて、その足音はどんどん遠ざかっていく。
「……終わりね」
シルヴァが小さく呟いた、その時だった。
『……一人いる』
ルナの声が頭の中に響く。
シルヴァはわずかに眉を動かした。
「逃げなかったの?」
『いや。違う』
狼の金色の瞳が森の奥を見つめる。
『……こっちに来る』
静かな足音が近づいてきた。
やがて木々の影から、一人の青年が姿を現す。
黒い髪。
騎士の装い。
そして腰には剣。
シルヴァとルナを見つめながら、青年は足を止めた。
「……あなたが」
わずかに息を整えながら言う。
「森の魔女、シルヴァか」
ルナが低く唸った。
シルヴァはただ静かに青年を見返す。
「そうよ」
その声は驚くほど冷たい。
「それで? 命が惜しくないの?」
青年は少しだけ苦く笑った。
「俺は王国の命令で来ただけだ」
月明かりの下で、彼は真っ直ぐシルヴァを見る。
「王子ルシアン。……あなたを討伐するために来た」
最後まで読んで下さってありがとうございます。




