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或る三文作家の恋文~婚約破棄された令嬢は、ペンの力でさくっと復讐を終わらせる~  作者: 美海@『承香殿の身代わり姫君』発売中


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三文作家と現地取材①

 目の前でキョロキョロと視線を巡らすリックの姿は、子どものようだった。


「あらためて見てみると、綺麗な街並みだな」


 王都は観光地としても名高い。

 整然とした石畳の道を挟んで、向かい合った煉瓦色の建物がずらりと並ぶ光景は『絵になる』らしく、街の広場にはイーゼルを立てた絵描きもちょくちょく見かける。

 完全な左右対称に整った白亜の王宮とは種類の異なる美だが、これはこれで『綺麗』と賛美する者がいても全くおかしくはない。


「そんなに驚く? 珍しいものでもないでしょう。……って、ああ、あなた、王都に全然いなかったんだものね。ごめんなさい」


 おかしいとしたら、そんな名高い王都の光景を初めて見たかのように評する高位貴族の態度の方だが、彼は彼で、王都に親しむような育ちをしていないわけで。

 幼い頃はシェリンガム家の自然豊かな別邸で過ごし、長じてからは他国に留学、という経歴を考えれば、この街を目新しく思うのも当然かもしれない。

 複雑な彼の事情に無配慮に触れたことを詫びれば、『その通りだから気にしなくていい』と返される。とてもクーデターなんて企んでいるようには見えない、気持ちのいいお坊ちゃんである。


「あなたが『王太子には国を任せられない』と考えるのは、王太子殿下の素行のせい?」


 彼からクーデター計画を打ち明けられた日、アリーは尋ねた。

 民草の耳にまで『王太子はとんでもないボンクラで、昔からの婚約者を捨てて、ぽっと出の愛人に溺れている』という噂は入るのだ。

 高位貴族として王宮でその様を目の当たりにしているリックが嫌悪感を抱いても仕方がない――と思ったのだが、意外なことにリックは首を横に振った。


「それもあるが、僕が彼を見限ったのは、三ヶ月前、隣国との外交時の手痛い失敗がきっかけだ」


 『素行が悪い』なんて不明瞭な落ち度ではなく、王太子は明確に国益を損なったのだ、と。

 リックが口にしたのは、アリーが初めて聞く話だった。


「隣国ダールシャとは、国境沿いの山々に眠る鉱物の採掘についての合意を進めることになっていた」

「ああ……ただの採掘を国境侵犯だと誤解されるのも困るし、逆に『誤解』に見せかけて侵犯されるのも困る。だから、互いに見張り合いながら、協力し合って採掘を進めましょう……というような合意を?」


 そういえば、アリーが学園に通っていた頃は『隣国とは鉱物資源を巡って緊張状態にある』と聞いていた。数年経って、情勢が変化したのだろう。

 あり得そうな合意内容を予想すると、リックは『君と話すと話が早いな』と頷いて認めた。


「かなりの資源が埋蔵された山だ、『両国とも鉱山に触らないようにしよう』という合意など定めようがない。最初から『一緒に掘ろう』という結論になることは決まっていた。文官たちが事前の調整をしたうえで、神輿として王太子を連れて行った。……国王陛下から王太子を責任者にするよう直々のご命令があったからね」


 最終調整も終わり、あとは調印のみを残す段階になってから、王太子の名前で調印して『手柄』を譲るようにと変更を強いられた。

 わがままに付き合わされた文官たちは気の毒だが、逆に言えば、そこから『失敗』をする余地などないように思えるけれど――。


「道中も、文官たちは万が一のことがないようにと王太子に念を押したそうだ。『相手に有利になることを約束してはいけません』『鉱山の権利を絶対に譲ってはなりません』と」

「英断ね」

「そうしてダールシャに着いてから、王太子が一人になるタイミングを見計らって、あちらは声をかけてきたらしい。文官たちが気づいたときには、王太子は『我が国の織物と引き換えに鉱山の採掘権を多く譲るというからもらっておいた! 染色も済んでいない安い織物でいいなら得だろう!』と誇らしげに……」

「勝手に調印を済ませていた、と。……あの方、ダールシャとの間では、織物が一大輸出品になっていることをご存じないのかしら」


 今の市場では、確かに、織物よりも鉱山資源の方が相場価格は高い。しかし、ダールシャが喉から手が出るほど欲しているのは、織物の方なのに。

 貿易国家ダールシャは南大陸まで商圏を拡大し、鮮やかに染色した織物をそちらで売り捌いているそうだが、飛ぶように売れたせいで、ダールシャ国内での原料の生産は追いついていないらしい。今や、織物は他国から仕入れ、染色や縫製の加工のみを行なっているというのに。

 それを理解していれば、ダールシャに輸出する織物を高値で吹っかけるなり、輸出して恩を着せてこちらに有利な条約の締結を持ちかけるなりできたかもしれないが――王太子の調印によって、『安値での大量の織物の輸出』が確定してしまった、と。


「王太子が音頭をとって動くことなんて、求めない。ただ『動かない神輿』でいてくれればいいだけなのに、あれでは余計な仕事を増やすだけだ」

「なるほどね」


 その一件でとうとう、リックは堪忍袋の緒を切らしたらしい。

 それならきっと、これから彼に見せるものについても憤ってくれるだろう。


「じゃあ、分かりやすいところから見てみましょうか。『裏・王都見物』といきましょう!」


 アリーは黒い笑みを浮かべた。

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