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舞風学園演劇部 第二部 大会への挑戦  作者: 舞風堂
第二章 大会に向けて
9/26

第九幕 演じない休日

 6月末、期末テストが終わり、部活動を再開する演劇部。放課後の多目的室に、ひときわ大きな声が響いた。


「せいっ!」


 空中で一回転するような勢いで、りんかが大きく跳ね、着地と同時にセリフを叫ぶ。動きすぎて、観客役の七海がちょっとだけ椅子を引いた。


「りんか、そのシーンは“勢い”じゃなくて“静かな怒り”の方が合ってるわよ」


「えー!? でもさ、感情爆発してる場面だよね!? 抑えるなんて無理~!」


 ひのりが笑いながら声を上げる。


「まあ、でもあのキレッキレの動きはすごいよ。あのジャンプ、どうやってんの?」


「日頃の訓練です!!」と、りんかがドヤ顔で敬礼する。


 その横では、まひるがスケッチブックを膝に乗せ、練習中の衣装案にペンを走らせていた。時折、自分のノートに書かれた台詞を確認しながら、演じているりんかの動きを目で追っている。


 紗里がまひるの描いた仮面のデザインをちらりと覗き込んだ。


「……おっ。なんか“心の色”って感じ出てるじゃん」


「えっ、本当ですか……? まだ途中ですけど……」


「いや、衣装に“感情”込められるってすごいと思う。アレは才能だよ、才能」


 まひるは照れくさそうに笑った。


 そしてその隣では、音羽が淡々と声の調子を変えながら、一人三役の台詞を読み分けていた。


「……そんなの、私は知らない。知らないけど……許したくないだけ」


「……でもさ、たまには逃げてもいいんじゃない?」


「――嘘だ。逃げたら、終わりだよ」



 感情の振れ幅が明確で、誰が聞いても「演じ分け」が伝わる演技だ。



「音羽ちゃんって……演じてるのに、なんか本物みたいに聴こえるんだよね」


「……私は、“嘘”を演じてる方が、本音が出せるのかも」


 みこがぽつりと呟くと、音羽はそう返し、唯香も静かに頷いた。


「声だけで、感情の奥まで表現できるって……すごいことよ。私は子役時代、それができなくて悔しかったもん」


 七海はノートをめくりながら言う。


「それぞれが“仮面”ってテーマにどう向き合ってるか、演技に出てきてる気がする」


 そんな練習風景を横目に、ひのりがふっと笑った。


「りんかちゃんたち、ちゃんと自分の色を持ってるよね。気づいた? 最初よりずっと、自分の“やり方”で演じようとしてる」


 その言葉に、演劇部の空気が少しだけ、誇らしさで温かくなった。


 練習がひと段落し、部室に穏やかな空気が戻った頃――。


「ねぇねぇ、まひる、音羽ちゃん!」


 りんかが両手で机をバン!と叩いて、ふたりの方に体を乗り出す。


「今度の土曜日、空いてる?期末テストも終わったし一緒に遊ぼうよ!」


 まひるは少し驚いたように目を丸くし、音羽はまばたきを一つ。


「えっ……遊ぶって、どこに……?」


「どこでもいいの! 映画でも、ショッピングでも、おしゃれなカフェでも! 今まで部活メインだったし、たまには“演劇抜き”の時間も必要じゃない?」


 りんかの熱量に押されながらも、まひるは小さく笑って頷く。


「……はい。音羽ちゃんも……行きませんか?」


 音羽は少し考えたあと、静かに答えた。


「……いいわね。たまには、ただの“クラスメイト”としての時間も、悪くないかも」


「やったー! 決まり! じゃあ駅前で待ち合わせねっ!」


 りんかの笑顔に、自然と空気が柔らかくなった。


 こうして、3人の休日が――始まろうとしていた。


土曜日の午後、風丘駅の駅前ロータリーには、待ち合わせの人々や買い物客が行き交い、どこか休日らしいゆるやかな空気が流れていた。


 その一角、コンビニの隣にある石造りのベンチに、りんかが腰掛けていた。

 私服は半袖にミニスカート、キャップを被ってスマホをぽちぽちといじりながら、時おり顔を上げて改札口を見やる。


「……そろそろ来るかな~?」


 独り言のように呟いたその時、駅の自動改札が開き、ふたりの姿が現れた。


 ひとりは、淡いベージュの半袖ワンピースにリュックを背負ったまひる。もうひとりは、シンプルなジーンズとグレーのTシャツ着た音羽だった。


「おっ、来た来た!」


 りんかが立ち上がって手を振る。

 まひるはすぐに気づき、ぱっと顔を明るくして駆け寄る。


「りんかちゃん、お待たせしました〜っ」


「いやいや、私も今来たとこ!」


 続いて音羽もゆっくり歩いてきて、軽く会釈をする。


「……こうして遊びに来るのは初めてかも」


「意外~! 音羽ちゃん、なんかこういう街にも馴染んでるイメージあるのに」


「買い物ってなると、いつも家族で郊外のモールばっかりだったから」


 そんな他愛ないやりとりの中で、自然と3人の空気がほぐれていく。


 りんかはふたりの全身を見回して、にやりと笑った。


「ふふふ……おしゃれしてきてるじゃーん、ふたりとも」


「えっ!? わ、私、そんなつもりじゃ……」


 まひるが慌ててスカートの裾を握ると、音羽は無表情なようでいて少し口元を緩める。


「今日の目的、りんかが“演劇抜きで遊ぼう”って言ったんだから、私たちもそれなりに準備してきたってことでしょ?」


「そうそう! 今日は完全に“オフ”ってことで!」


 そう言って、りんかは指を三本立てた。


「ショッピング、映画、カフェ! この3つ、制覇しようねっ!」


 まひるが驚いたように目を丸くする。


「……そんなに詰め込めるんですか……?」


「大丈夫、時間は使うためにあるの!」


 その勢いに笑い声がこぼれ、3人は自然と並んで歩き出す。

 風丘の街を巡る、ささやかな休日の冒険が――いま始まろうとしていた。


風丘駅から歩いて十数分。

 街のショッピングエリアの一角にあるシネコンの前で、3人は立ち止まった。


 巨大なポスターに映し出されたのは、人気のファンタジーアクション映画の最新作。

 魔法と戦闘と友情が詰め込まれた超大作らしい。


「うおーっ、でっか……! やっぱ映画館のポスターって、テンション上がるよね!」


 りんかがわくわくとした様子で目を輝かせる。


「わかる。ネットで予告とか見てたけど、実際にここに来ると、やっぱ違う」


 音羽が珍しく、口元に少し笑みを浮かべて同意した。


 まひるはきょろきょろとロビーを見渡して、目を丸くしていた。


「すごい人ですね……あっ、でも座席予約してくれてたおかげで安心です……」


「うむうむ、抜かりなし! ちゃんと真ん中の席取ってあるから!」


 得意げに胸を張るりんか。


 そして、そのままポップコーン売り場の方へ歩き出すと、くるりと2人の方を振り返って言った。


「あとさ! 映画といえば……ポップコーンとコーラは絶っ対に欠かせないでしょ!」


「えっ、甘いのと塩のやつ両方……?」


「当然じゃん! バケツサイズでいこ!」


 りんかの勢いにまひるが小さく笑い、音羽も肩をすくめながらも素直に頷いた。


「……まぁ、今日は“演劇抜きの休日”だし。そういう“定番”を楽しむのも悪くないわね」


 チケットを見せて中へ入ると、暗がりの中に漂うポップコーンの香り、スクリーンの予告の音響、重低音の震えるような響きが3人を包み込んだ。


 着席し、上映開始のカウントダウンが始まる。


 りんかが小声で呟いた。


「……やっぱ映画館って、いいなぁ」


 その言葉に、隣に座っていた音羽が、ほんの少し目を細めて静かに返す。


「……わかる」


 まひるはポップコーンを一つつまみながら、そっと笑った。


 こうして3人は、大きなスクリーンの光に包まれながら、ひとときの非日常に身を委ねていった――。


 映画を見終えた3人は、駅前のカフェに足を運んでいた。


 休日の午後らしい心地よい喧騒の中、窓際のテーブルに座ると、アイスコーヒーとフルーツタルト、チョコレートパフェがテーブルを彩っていた。


「映画館ってやっぱいいねぇ〜〜!」

 りんかが、ソファの背にもたれながら大きく息を吐いた。


「音と映像に包まれてる感じ……あれだけでテンション上がる」

 まひるがカップを両手で持ちながら、小さく微笑む。


「私は音響が特に印象的だった。あのシーン、観客が息を呑むタイミングまで“計算”されてる感じだった」


 音羽の冷静な感想に、りんかがコーラのストローをくわえながら目を見開いた。


「やっぱ音羽ちゃん、見るとこ違うわ~。私なんか“剣バーン!”“魔法ドカーン!”でしか記憶ないかも!」


「それ、どこの語彙?」

 音羽が思わず吹き出す。


 まひるはスプーンでパフェをつつきながら、遠慮がちに言った。


「私、ヒロインの衣装……好きでした。後半の青いドレス……あの袖口のレースとか、細かい刺繍とか、ああいうの着て演じたら……きっと気持ちも変わると思って……」


「わかる!衣装って気持ちを乗せるよね!」

 りんかがスプーンを握りしめて、乗っかる。


 音羽は静かに頷きながら、グラスの水を口に運んだあと、ふと口を開く。


「……あの背景、LEDウォール使ってたわね」


「えっ、なにそれ?」

 まひるが目をぱちぱちさせる。


「グリーンバックの代わりに、巨大な高解像度モニターで背景映像をリアルタイムに表示するの。演者も実際に背景が見えるから、目線や光の反射も自然になる。最近のハリウッド映画じゃ主流の手法よ」


「なにそれ、めちゃくちゃ未来じゃん!」

 りんかが素で驚いて身を乗り出す。


「映画、演技、衣装、撮影技術……三人三様で観てるところ違うの、なんか面白いですね」

 まひるがふふっと笑う。


「私たちで“レビュー番組”やったら、バランスいいかもよ」

 りんかが冗談めかして言うと、


「案外、演劇部広報の新企画になったりして」

 音羽がさらりと返した。


「まじめに返すな〜〜!」

 りんかが突っ込んで、3人の笑い声がカフェに柔らかく溶けていった。


 穏やかな午後、演劇とは少し離れた場所で――

 でも、確かに“演劇部らしい”時間が流れていた。


 カフェを出た3人は、ショッピングモールの中央吹き抜けにあるアパレルフロアへと足を踏み入れた。

 高い天井から降り注ぐ自然光に照らされ、マネキンたちはそれぞれの季節を纏って佇んでいる。


「おっ、アパレルコーナー来たね! さぁ、ファッションの時間です!」


 りんかがテンション高く先頭を歩きながら、両腕を広げてくるくると回る。


「そんな大げさに……」と音羽が呆れつつも、口調はどこか弾んでいた。


 その隣で、まひるが目をきょろきょろと動かしながら歩幅を合わせている。


「服屋さんって、何だかテンション上がりますね……。布の質感とか、縫い目の処理とか、見てるだけで勉強になるというか……」


 りんかがくすっと笑う。


「もう完全に“衣装担当モード”じゃん。さすが、家が衣装店の娘!」


「えっ、でも、今日はあんまり演劇関係の話しない方がいいかと思って……」


「いやいや! そういう話もぜんぜんアリ! だって私たち、演劇部員であり女子高生でしょ? 両方楽しまなきゃ!」


 そう言って、りんかはふとディスプレイに飾られた服に目を止める。


「……あ、まひるちゃん、あれとか好きそうじゃない?」


 視線の先には、ラベンダーカラーのワンピース。小花の刺繍と、ふんわり広がるAライン。袖口には繊細なギャザーが施されている。


「わ、わかります? 実は……これ、裏地にキュプラ使ってます。ああいうの、肌触りも良くて、動きも綺麗に出るんですよ……。袖山もちゃんと調整されてて……」


 まひるの口調は次第に早くなり、スカートの裾の縫製まで語り始める。

 それを横で見ていた音羽が、思わずふっと笑った。


「やっぱり、まひるって本当に衣装が好きなのね。前に話してくれたときも思ったけど、言葉の熱量が全然違う」


「す、すみません……つい、モード入っちゃって……」


 まひるが顔を赤くすると、りんかがにっこりと笑った。


「それがまひるちゃんのいいとこだよ。“好き”が伝わってくるのって、なんか嬉しくなるし」


 すると、まひるがふと隣のラックにかかっていた藍色のセットアップに目を向けた。


「……これ、音羽ちゃんに似合いそうかも」


「えっ、私?」


「うん。落ち着いてて、でも品がある。そういうの、音羽ちゃんっぽいです」


 りんかもすぐに反応する。


「あー、わかるかも! クールでシンプルだけど、なんか凛としてる感じ!」


 音羽は少し驚いたように目を瞬かせたが、次の瞬間、微かに笑った。


「……意外かもしれないけど、私も、こういう服、好きなの」


「えっ、ほんとに!? てっきりいつも“黒とか紺の地味目”専門かと!」


「そう見えるようにしてたのよ。中学の頃は、できるだけ目立ちたくなくて、シンプルな服しか選ばなかった。でも……本当は、こういうのに憧れてた」


 音羽はゆっくりと藍色のジャケットに手を伸ばす。


「最近になってようやく、“着たい服を着る勇気”が少し出てきた気がする。演技と同じで、“本当の自分”を出すのって、難しいけど……ちょっと楽しい」


 その言葉に、まひるが優しく微笑んだ。


「……それって、きっとすごく大事なことだと思います。服も、演技も、“気持ち”を形にする手段だから……」


 りんかがぱっと手を叩いた。


「じゃあもう、これは“ファッションでの演劇”だね! さあ音羽ちゃん、試着室へゴー!」


「……仕方ないわね。じゃあ、“新しい自分”を演じてみる」


 音羽が笑みを浮かべながら試着室に向かうと、りんかとまひるが顔を見合わせてそっと声を漏らした。


「……音羽ちゃん、いい顔してる」


「……うん。今日、来てよかったです」


 ほんの少し開いた試着室のカーテンの奥で、音羽がジャケットに袖を通して鏡を見つめる。


 仮面のようにまとっていた“地味な自分”を脱ぎ、

 新しい一面に、そっと触れるように。


 ショッピングモールのやわらかな光の中、

 3人の“素顔”が、少しずつ、輪郭を持ちはじめていた。


ショッピングモールのアパレルコーナーを後にした3人は、最上階にあるゲームセンターに足を運んでいた。


「はい来ました~! テンションの聖地、ゲーセンでーすっ!」


 りんかが両手を掲げてはしゃぐと、まひるはやや戸惑った様子でその後ろに続く。


「すごい……音も光も、なんだか眩しいですね……」


「でも、こういう空間も案外“演出”に近いかもね」

 音羽は周囲の騒がしさにも動じることなく、冷静に周囲を見回していた。


 最初に目に留まったのは、派手な筐体の並ぶレースゲームの一角だった。


「じゃ、まずはこれ! レッツ・カーレース!」


 りんかが言うなり、二人分のコインを投入して音羽にハンドルを渡す。


「え、いきなり!?」


「大丈夫! 音羽ちゃんなら絶対ノッてくれるって思ってた!」


 半ば強引に着席させられた音羽は、仕方なさそうに笑みを浮かべてハンドルを握る。


 ……が、ゲームが始まった瞬間、音羽の表情が一変した。


「――了解。目標、第一コーナー突破……」


「おおぉぉ……!?」


 音羽の声が、まるで本物のレーサーか、戦場の司令官のようなトーンに切り替わり、アクセルをぐいと踏み込む。


 そして、その後も


「左ターン、ブレーキング3秒前……今だ!」


「隊長……速度、維持してます!」


 などと、完全に“役”に入り込んで実況しながらのプレイを続けた。


「ちょ、なにそれ!? 今度は“役スイッチ”入ってるじゃん!」

 りんかが爆笑しながらツッコミを入れる。


 まひるも目をぱちくりさせて見守っていたが、やがて小さく笑った。


「……音羽ちゃん、すごい迫力でした……」


「ふふ、演技の練習と思えばなんでも……ね」


 音羽が涼しげに髪を整えながら立ち上がると、次はりんかが音ゲー筐体の前に陣取る。


「さーて、お次は私の見せ場だね!! “リズムの女王”とは私のことよ!」


 そう宣言してからのりんかの動きは、もはや“踊り”に近かった。


 軽快なビートに合わせて、腕を振り、ステップを踏み、まるで全身で“音”と対話しているような動き。


「りんかちゃん、すごい……本当に楽しそう……」

 まひるが感嘆の声を漏らす。


 音羽も腕を組みながら、ほんのり笑う。


「本当に“舞台映え”するわね。リズム感も動きのキレも、舞台で活かせそう」


「いや〜、言われ慣れてます〜!」

 りんかは照れながらも、得意満面。


 そのあと3人はクレーンゲームでぬいぐるみに挑んだり、ちょっとレトロな占いマシンに笑ったりして、ひとしきり盛り上がったあと――


 最後は、プリクラ機の前に並んだ。


「よし、締めはこれ! いまや女子高生の義務、プリクラ撮影ターイム!」


「……義務なんですか?」

 音羽が真顔で問い、りんかが力強くうなずく。


「もちろん! 友情の記録ってやつよ!」


 カーテンの中に3人が収まると、スクリーンのカウントが始まった。


「はいっ、笑って~!」

「こ、こう……?」

「次、変顔いくよ変顔~!!」


 カシャ、カシャ、とシャッター音が重なるたびに、3人の笑顔が重なっていった。


 そして、撮影後の落書きタイムでは、まひるが細かくデコレーションし、音羽がひとことだけ「今日は楽しかった」と書き添えた。


「この“非日常”、絶対忘れないようにしよ!」


 りんかの言葉に、2人もうなずいた。


 画面の中に写った3人は、部活でも舞台でもない、

 “ただの友達”として――確かに輝いていた。


ショッピングモールを出る頃には、外の空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

 西日が駅前のロータリーを照らし、風が街灯のポスターを静かに揺らしている。


 風丘駅の改札前――。

 3人は手にした買い物袋を足元に置きながら、今日一日の余韻に浸っていた。


「いや~、今日はほんと楽しかったね!」


 りんかが笑顔で言い、夕日に照らされた髪が柔らかく光る。

 まひるも微笑みながら頷いた。


「はい。映画も買い物も、プリクラも……ずっと笑ってました」


「“演劇抜き”のつもりが、結局ずっと芝居っぽかったけどね」

 音羽が小さく笑い、二人もつられて笑った。


 ふと、まひるが少し真面目な表情を見せる。


「ねえ……みんなって、どうして“舞風学園”を選んだの?」


 問いかけに、りんかが真っ先に答える。


「あたしはね~、“新設校”って聞いてピンと来たんだ! あたし達は二期生だけど新しい場所で最初の生徒になるって、なんかワクワクするじゃん?

 しかも制服かわいかったし!」


「りんかちゃんらしい……」

 まひるが小さく笑う。


「私は……衣装の勉強ができそうだから。家は衣装店だしその勉強のためにも、普通の高校より、衣装とかアート系の活動も盛んって聞いて、それで興味が出たんです」


 そして、二人の視線が自然と音羽に向く。


「音羽ちゃんは……?」


 音羽は少し考えるように、夕暮れのホームに視線を向けた。

 遠くを走る電車の音が、静かに重なる。


「……私ね、中学三年のときに、“舞風学園演劇部”の動画を見たの」


「えっ、演劇部の?」


「うん。まだ創設されたばかりの頃。練習風景とか、文化祭のステージの映像がネットに上がってて。

 それが――本当に、目を離せないくらい惹かれたの」


 音羽の声は穏やかで、どこか懐かしさを含んでいた。


「照明の下でひのり先輩たちが演じてて、笑ったり、泣いたりしてるのを見て……“これが本気の演劇なんだ”って思ったの。

 だから、私――“この部に入りたい”って、それだけのために舞風学園を受けたの」


「……すごい」

 まひるがぽつりと呟いた。


「動画見て本気で目指すって……まるで映画みたいじゃん」

 りんかが感心したように笑う。


「その動画を見てから、ずっと“舞風学園演劇部”のファンだったの。

 だから、入学初日に部室を見たとき、ちょっとだけ緊張したわ。あの画面の中の場所に、自分がいるんだって」


 音羽は少し恥ずかしそうに笑い、頬を指先でかく。


「でも、こうして今は……先輩たちの見てた景色の中で、自分たちが演じてる。

 その“憧れ”が、ちゃんと現実になってる気がして」


「……そうだね」

 まひるが、ゆっくり頷いた。


「じゃあ、今度は私たちが“憧れられる側”になる番だね!」

 りんかが拳を突き上げる。


「次の世代に、“あの舞風の演劇部に入りたい!”って思わせるような舞台、作ろう!」


 その言葉に、音羽とまひるは顔を見合わせ、笑みを交わした。


 それぞれが違う方向の電車に乗る前に、3人は改札前で小さく手を合わせた。


「今日も、演じない時間の中に、“大切な何か”があった気がするね」


 夕暮れに染まる風丘駅。

 3人の笑顔は、まるで次の幕を照らすスポットライトのように輝いていた――。




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