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舞風学園演劇部 2年編 大会への道  作者: 舞風堂
第一章 後輩入部、8人へ
4/8

第四幕 8人で紡ぐ舞台

 舞台袖。

 いよいよ2年目の部活動PRウィーク当日、カーテンの向こうからざわざわと観客の声が聞こえてくる。ライトの熱気がじんわり漂ってきて、部員たちはそわそわと落ち着かない様子だった。


 まひるは衣装ラックの前に立って、服のほつれを直したり糸くずを取ったり、最後の確認に大忙し。

「……よし……ここも直した……あとは大丈夫……!」

指先は小さな絆創膏だらけ。それでも集中して針を動かす姿は、普段のオドオドした彼女とは別人みたいだった。


「うわー! 緊張してきたー!」

 りんかはその場でスクワットを始めたり、ジャンプしたり、完全に落ち着きゼロ。

「舞台壊さないでよね」と七海が冷静に釘を刺す。


 ひのりは髪飾りを握りしめながら、ふーっと深呼吸。

「……大丈夫大丈夫。今年はみんな一緒だから!」

 笑顔を見せると、不思議と周りの空気も少し軽くなった。


 みこは台本をぎゅっと胸に抱えて、小さな声でセリフを繰り返す。

「……えっと……ここは……どこ……?」

 声は震えていたけど、目はちゃんと前を向いていた。


 音羽はといえば、鏡の前で声色をどんどん切り替えていた。

「ぐわははは!」「キャハハッ!」「……友情なんて偽りだ」

 老人、女幹部、冷たい青年。あまりの七変化に紗里が爆笑。

「ちょ、ずるすぎるって! 一人で敵役全部できるじゃん!」


 唯香はそんなドタバタを横目に、ふっと微笑む。

「舞台は一度きり。全力で楽しみましょう」

その落ち着いた声に、少しだけみんなの肩の力が抜けた。


 七海はノートに目をやりながら、一人ひとりを確認。

「トラブルがあっても大丈夫。慌てずにやれば何とかなる」

 いつも通りの冷静さが、部全体を支えていた。


 そこへ音屋亜希先生がやってくる。

 ジャケット姿で腕を組みながら、全員を見渡してにっこり。


「ここまで本当に頑張ったわね。失敗してもいい。大事なのは“仲間と最後まで演じきること”。観客は完璧さよりも、あなたたちの熱を見に来てるのよ」


 先生の言葉に、静まり返る部員たち。

 その空気を破るように、ひのりが拳を突き上げた。

「よしっ! 行こう! 舞風学園演劇部の舞台、見せてやろうじゃん!」


「おーっ!!」

 全員の声が舞台袖に響いた。

 まひるも衣装を抱えたまま、顔を真っ赤にして小さくうなずく。


 ――幕の向こうでは、拍手が高まり始めていた。



 劇中劇 ― 『異世界学園クロニクル』


第一幕:異世界学園

(暗転。鐘の音。照明がゆっくりと上がり、舞台中央に“学園の門”のセットが浮かび上がる)


ナレーション(セブナ/七海)

「――ある日、ひとりの少女は、気づけば見知らぬ学園に立っていた。

そこは、時空の狭間に存在する“異世界学園”。さまざまな世界から選ばれた者だけが集う、特別な場所だった――」


(スポットライトがミコノ=みこに当たる。制服姿、きょろきょろと周囲を見回す)


ミコノ(みこ)

「え……ここ、どこ……? 私……学校にいたはずなのに……」


(風音。舞台袖から軽やかな音楽と共にヒノリン=ひのりが登場。髪飾りをかざし、ポーズ)


ヒノリン(ひのり)

「ピコーン! 魔法少女ヒノリン、参上っ!」


(観客笑い。ミコノ驚く)


ミコノ

「ま、魔法少女……!? え、え、えぇぇ!?」


ヒノリン

「あなた、見慣れない制服だね。もしかして――この学園に迷い込んじゃった子?」


ミコノ

「迷い込んだ……? ここ、一体……」


(背後に黒い光が走り、学園の壁に影が揺らぐ。緊張のBGM)


ナレーション(セブナ)

「異世界学園には“闇の魔女”の力が迫っていた。

彼女の影響で、多くの生徒が洗脳され、学園は混乱に包まれようとしていた――」


(スポットが再び二人に戻る。ヒノリンが拳を握り)


ヒノリン

「大丈夫! 私と一緒に、学園を救おう!」


(照明が少し明るくなり、二人の“出会い”を強調して暗転)


(暗転。ドンッという効果音。赤い照明が揺らめき、舞台後方から武闘少女リンカス=りんかがゆっくり登場。目線は鋭く、木剣を手にしている)


リンカス(りんか)

「あたしは武闘少女リンカスだよ。命令だ。異世界の来訪者を――倒しちゃう!」


(観客席にどよめき。スポットがミコノに移る)


ミコノ(みこ)

「えっ!? ちょ、ちょっと待って……!?」


(リンカスが駆け出し、木剣を振り下ろそうとする――)


(その瞬間、ピンスポットがヒノリンに!)


ヒノリン(ひのり)

「――変身!」


(暗転。効果音とBGMが高まり、制服の上着をバッと脱ぎ捨てると、下には魔法少女衣装!

照明が明るくなり、決めポーズ)


ヒノリン

「光と友情の魔法少女――ヒノリン!」


(歓声を浴びながら、ミコノの前に立ちふさがる)


ヒノリン

「ミコノを傷つけさせない!」


リンカス

「……邪魔をするな!」


(ここからバトル演出)

 ※二人は距離を取り、直接ぶつからず、観客に“戦っているように見せる”アクション。

•リンカスがバク転して剣を振る → ヒノリンが魔法エフェクトのポーズでかわす

•ヒノリンがステッキを振る → リンカスが後方宙返りで避ける

•舞台中央で一瞬の火花(照明効果)が散る


(BGMが盛り上がり、観客を熱狂させる)


ミコノ(舞台端で叫ぶ)

「やめて! りんか……本当はこんなことしたくないんでしょ!?」


リンカス(苦しげに)

「……私の意思じゃない……でも……体が……!」


(観客に洗脳の苦しみが伝わる芝居。そこにスポットライト、舞台後方からセブナ=七海が登場)


セブナ(七海)

「落ち着いて! 彼女は“闇の魔女”に操られているだけ!

魔力を断ち切れば――必ず正気に戻る!」


(ヒノリンが決意を込め、リンカスに向き直る)


ヒノリン

「だったら……友情の力で、あなたを取り戻す!」


(照明がさらに強くなり、バトルの決着へ――暗転)



(暗転から、青白い照明が舞台を照らす。バトル後の余韻。リンカスが剣を落とし、膝をつく)


リンカス(りんか)

「……う……あ、あたし……何を……」


ヒノリン(ひのり)

(そっと支えながら)

「大丈夫! もう闇の力は抜けたよ」


(スポットライトが上手に移動。セブナ=七海が登場し、観客へ説明するように)


セブナ(七海)

「この学園は“闇の魔女”の支配下にある。

ここに集められた者たちは、洗脳されて“敵”にされてしまう。

……けど、本当は全員、あなたたちと同じ“仲間”なの」


ミコノ(みこ)

「じゃあ……りんかだけじゃなく、まだ他にも?」


(間を置いて――舞台後方から、不気味な笑い声。照明が赤に切り替わる)


第二幕:七変化の敵


オトファ(音羽)

「フフフフ……その通り。次は、この私」


(舞台中央にオトファが現れる。声色を変えながら七変化!)


オトファ(老人の声)

「ワシの学園からは誰も逃がさん……!」


オトファ(甲高い女幹部の声)

「さぁ、泣き叫びなさい!」


オトファ(冷酷な青年の声)

「友情? くだらない幻想だ」


(オトファが七変化で迫る)


(観客席にどよめき。ミコノは震えながらも前に出る)


ミコノ

「……すごい……声だけで、まるで別の人みたい……!」


ヒノリン

「でも本物の仲間なら、絶対に取り戻す!」


(緊張が走る中――舞台袖から元気な声!)


サリーナ(紗里)

「ちょっと待ったーーーっ!」


(ドタバタと登場、空気を崩すように滑り込み)


サリーナ

「見て! わたし超・いいとこで出てきたっぽくない!?」


(観客から笑い。空気が少し和らぐ)


続けて、ユイア=唯香が堂々と歩み出る。冷静で毅然とした雰囲気。


ユイア(唯香)

「茶番はここまでよ。

オトファ、あなたの七変化がどれほど巧みでも――私たち全員の力を合わせれば、必ず打ち破れる」


(ユイアの強い声に、舞台の空気が再び引き締まる)


オトファ(音羽)

「……ふん。ならば証明してみせろ! “友情”とやらの力でな!」


(BGMが盛り上がり、オトファとの対決に突入)


(舞台中央。オトファが七変化を繰り返しながら立ちはだかる。観客を威圧するように声を響かせる)


オトファ

「老人も! 悪女も! 少年も! 全ては私! お前たちに倒せるものかぁ!」


サリーナ

「わー! ちょっと待って!? じいちゃんになったと思ったら今度はイケボ!?

あれ、イケボに弱いとか……うわ、心が揺らぐ〜!」


(観客笑い。空気が和む)


ユイア(半眼で)

「……サリーナ、揺らいでる場合じゃないわ」


サリーナ(しゅんとして→急に笑顔)

「へへっ、でも安心してよ! わたし、揺らいでも絶対に折れないから!」


(ちょっと照明が当たり、真剣モード)


サリーナ

「だって……仲間の力を信じてるから!」


(観客、少しざわめき→空気が温まる)


ユイア(堂々と前へ)

「その通り。あなたの七変化がいくら巧みでも――私たちの絆を覆すことはできない」



(ヒノリンとリンカス、サリーナとユイアで必死に応戦。だが決定打がない)


セブナ

「力だけでは届かない……彼女を縛っている“闇の糸”を断ち切らなければ!」


ミコノ

「闇の糸……? じゃあ、どうすれば……!」


(その瞬間――舞台袖から、白い衣装を抱えた少女が駆け込む。まひる演じるキャラ=ソフィル)


ソフィル

「待ってください! その衣装の下に、彼女の“本当の姿”が隠れてるんです!」


(観客に見せるように、布を掲げる。照明がスポットで布を照らす)


ソフィル

「この衣を纏わせれば……洗脳の衣装を打ち破れるはず!」


(仲間たちが力を合わせ、暴れるオトファを押さえ込む。ソフィルが衣装をかけると、闇の布が破れ、光の衣へと変わる)


オトファ(素の声で)

「……あ……わたし……」


ヒノリン

「よかった! 戻ってきたんだね!」


オトファ(震えながら)

「ごめん……ずっと……闇に囚われて……でも、声をかけられるたびに、少しだけ……聞こえてた」


(オトファが涙をこぼす演技。仲間たちが寄り添う)


ミコノ

「よかった……! これでみんな一緒に……!」


(安堵の空気。しかし――舞台後方から、不気味な声が響く。会場全体が暗転)


第三幕:魔女ヴェルダとの対峙


魔女ヴェルダ(音屋先生の声のみ)

「……なるほど。小さな絆でひとりを救うとは……だが、それで私を倒せると思うな」


(観客席が震えるような低音ボイス。威圧感に後輩たちも身を縮める演技)


セブナ

「ついに……本当の支配者が姿を現した」


ユイア

「ヴェルダ……! この学園を闇に閉ざしてきた元凶!」


魔女ヴェルダ

「演劇……物語……くだらぬ幻。

だが――お前たちがその絆を“演じきれる”というなら……この私に証明してみせよ!」


(舞台が白と黒のライトに分かれ、仲間たちが前に一列に並ぶ)


ミコノ

「みんな……! 最後まで、一緒に戦おう!」


ヒノリン

「友情と魔法で!」


リンカス

「バク転パワー全開!」


サリーナ

「笑いで場を和ませるぞーっ!」


オトファ

「七変化の声で、支える!」


セブナ

「知恵を尽くして導く!」


ユイア

「冷静に、戦術を!」


ソフィル

「衣装で輝かせる……! 舞台の上でこそ、本当の力を!」


(全員で拳を掲げる。BGMが最高潮に!)


魔女ヴェルダ

「……フフフ……その力……確かに、眩しい!」


(暗転。照明が光に包み、フィナーレへ)


(魔女の洗脳が解け、オトファがゆっくりと目を開ける)


オトファ

「……ここは……私、今まで……」


ソフィル

「大丈夫。あなたはもう自由よ。みんなの“絆”が、闇を払ったんだから」


(オトファが立ち上がり、震える声で)

オトファ

「……ありがとう。私……本当は、ずっと救われたかった」


(舞台中央に8人が集まる。照明が暖色に変わる)


ミコノ

「ここで出会えたのも、きっと偶然じゃないよね」


ヒノリン

「だって、“仲間”だもん!」


リンカス

「もう誰にも、洗脳なんてさせない! 私たちが守る!」


セブナ

「異世界でも、舞台でも――心を一つにすれば乗り越えられる」


サリーナ

「笑いだって忘れちゃダメだよ〜! だって観客を楽しませるのも、あたしたちの役目だし!」


ユイア

「……確かに。演じることでしか伝えられないものがある」


ソフィル

「だから私も、衣装で……舞台を支えたい。これからも!」


オトファ

「私も……あなたたちと共に歩むわ」


(全員が前を向き、客席へ一歩踏み出す)


8人(声をそろえて)

「――これが、私たちの“物語”。」


(照明が一気に落ち、拍手と共にカーテンコールへ)


 カーテンがゆっくり閉まり、拍手の音が遠ざかっていく。

 舞台袖に戻った瞬間、空気が一気に緩んだ。みんな、汗びっしょりで息も荒い。


「っっしゃーーー!! やりきったーーー!!」

 りんかがその場で跳びはね、マット代わりの床に大の字で転がった。

「バク転、ちょっと危なかったけど……観客、ウケてたよね!? 絶対見えてたよね!?」

目を輝かせながら先輩たちに詰め寄る。


「うん、拍手すごかったよ」ひのりが笑って親指を立てた。

「りんかちゃんの全力、ちゃんと届いてた!」

「でも次は舞台を壊さないようにね」七海が淡々と釘を刺すと、りんかは「は、はい……」と素直に頭を下げた。



 一方の音羽は、袖の椅子に腰を下ろして静かに息を整えていた。

「……初めてにしては、悪くなかった」

 表情は相変わらず無表情。でも、その声にはほんの少しの熱がにじんでいた。


 唯香がにっこり笑って声をかける。

「観客を完全に引き込んでたわよ。声の切り替えも自然だったし」

「先生のセリフに合わせた間の取り方も完璧だったわ」七海も冷静に評価する。


 音羽は少し目を伏せ、短く答えた。

「……またやりたい」

 その一言に、場がふっと和んだ。



 そしてまひる。

 舞台上ではセリフも少なかったけれど、今は衣装ラックをぎゅっと抱きしめ、目が潤んでいた。

「み、みんな……ほんとに着てくれてありがとう……! 動きにくくないかなとか、破れないかなって心配で……」

 ぽろぽろ涙がこぼれそうになるのを必死に堪えている。


「まひるちゃん、衣装マジ最高だった!」

ひのりが真っ先に飛びつく。

「変身シーン、照明と合わさってめっちゃ映えてたし! あれ絶対観客釘付けだったよ!」


「ほんとだよ〜! スカートのひらめきとか、光当たったとき鳥肌立った!」紗里が興奮気味に加わる。


 唯香も頷きながら口を開いた。

「まひるさんが仕立ててくれたから、舞台が映えたの。感謝してるわ」


 まひるは顔を真っ赤にして、ぐすっと鼻をすする。

「……が、がんばってよかった……」



 最後に、音屋亜希先生が袖にやってきた。

全員を見回して、にっこり。

「――お疲れさま。みんな、本当によくやったわね」


その言葉に、誰もが胸を張ってうなずいた。

緊張も不安もあったけれど、全員で作った舞台をやり遂げた。

達成感でいっぱいの顔に、自然と笑みがこぼれていた。


――こうして、舞風学園演劇部の“二度目の伝説”が、新しい一歩を刻んだのだった。


続く。


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