第二十五幕 選ばない決断
県民ホール。
会場のロビーは、ざわついていた。
他校の演劇部、スタッフの声、開演を告げるアナウンス。
舞風演劇部は、控室の一角に集まっていた。
誰も、無駄に喋らない。
りんかは腕をぶら下げたまま、天井を見ている。
「……思ったより、静かだね」
それは緊張というより、意外さに近かった。
「うるさいとこより、こういう方が集中できる」
紗里はそう言って、台本を閉じる。
音羽は、喉に軽く手を当ててから、小さく息を吐いた。
「……声、ちゃんと出る」
それだけ言って、頷く。
みこは、いつも通り静かだった。
けれど、足はしっかり床についている。
まひるは、舞台図のメモを一度だけ確認して、鞄にしまった。
「……あとは、信じるだけ」
唯香は、少し離れた位置で全体を見ていた。
「舞台は、裏切らないわ」
それが、今日の彼女なりの激励だった。
七海が、ノートを閉じる音が小さく響く。
「……よし」
「台本は、ここまで」
全員の視線が、ひのりに集まる。
ひのりは、深呼吸をひとつしてから言った。
「ここまで、頑張ってきた」
声は落ち着いている。
「結果がどうなるかは、分からない」
「でも」
一拍。
「この時間が、消えることはない」
アリスを見る。
「今日は」
「アリスちゃんのために」
「そして、私たち全員のために立とう」
アリスは、ゆっくり頷いた。
迷いは、もう表に出ていない。
「……うん」
「一緒に、行こう」
そのとき。
「緊張してる?」
音屋亜希先生が、控室の入口から声をかけた。
一瞬、全員が背筋を正す。
音屋先生は、腕を組んだまま、にやりと笑った。
「大丈夫」
「口は出さないって言ったでしょ」
一拍置いて。
「でもね」
「あなた達の舞台、楽しみにしてるわ」
それだけ言って、背を向ける。
誰かが、ふっと息を吐いた。
「……言われたね」
りんかが、小さく笑う。
「うん」
ひのりも笑った。
アナウンスが流れる。
――次は、舞風学園演劇部。
誰も、声を張り上げない。
ただ、自然に円になる。
目が合う。
頷く。
それだけで、十分だった。
九人は、舞台袖へ向かって歩き出す。
いよいよ、幕が上がる。
劇中劇『選択の庭』
第一幕
(配役)
エレナ(アリス)
ルミナ(ひのり)
セレス(唯香)
語り部(七海)
フィオ(紗里)
ブラム(りんか)
リラ(音羽)
ノア(みこ)
ミーゼ(まひる)
⸻
劇中劇「選ばない決断」
第一幕〈魔法学校 教室〉
(薄い朝の光。舞台奥の高窓から差し込む。床には円形の紋様)
語り部(七海)
「ここは、魔法学校」
(間)
語り部(七海)
「才能を学び、未来を選ぶ場所」
(生徒たちが舞台に入ってくる。談笑しながら、それぞれの位置へ)
フィオ(紗里)
「今日の実技、評価入るって聞いたけど?」
ブラム(りんか)
「今さらじゃん。どうせ通るでしょ」
ルミナ(ひのり)
「油断すると、落とされるよ?」
(ノア(みこ)は黙って立っている。リラ(音羽)は少し距離を取る)
(最後にエレナ(アリス)。一拍遅れて立ち止まる)
ルミナ(ひのり)
「エレナ?」
エレナ(アリス)
「……ううん。大丈夫」
(教師セレス(唯香)が入ってくる。空気が一気に締まる)
セレス(唯香)
「席について」
(全員が動きを止める。整列はしない)
セレス(唯香)
「今日は実技の前に、ひとつ聞くわ」
(ゆっくりと全員を見る)
セレス(唯香)
「あなたたちは、何のためにここにいる?」
(沈黙)
ブラム(りんか)
「魔法を学ぶため、ですよね?」
セレス(唯香)
「ええ」
(視線がエレナ(アリス)で一瞬止まる)
セレス(唯香)
「そして、選ぶため」
(間)
セレス(唯香)
「前へ。一人ずつ」
(ブラム(りんか)が前に出る。大きな動き)
ブラム(りんか)
「――展開」
(光。成功)
フィオ(紗里)
「次、私ね」
(感情を込めた詠唱。やや荒いが成立)
ルミナ(ひのり)
「はい」
(迷いなく成功)
(ノア(みこ)。最小限の動き。確実)
(リラ(音羽)。感情を抑えたまま、静かに成功)
(残るのはエレナ(アリス))
(視線が自然と集まる)
セレス(唯香)
「エレナ」
エレナ(アリス)
「……はい」
(前に出る。止まる)
(間)
エレナ(アリス)
「……」
(深呼吸)
エレナ(アリス)
「――展開」
(光。完璧に成功)
(だが、光がわずかに揺れる)
フィオ(紗里)
「……今の」
ブラム(りんか)
「成功だよな?」
ルミナ(ひのり)
「……エレナ?」
(エレナ(アリス)は、自分の手を見ている)
エレナ(アリス)
「……」
(セレス(唯香)、すぐに評価しない)
セレス(唯香)
「今日は、ここまで」
(ざわめき)
ブラム(りんか)
「え、評価は?」
セレス(唯香)
「次は、庭で続けるわ」
(床の円が、わずかに強く光る)
(生徒たちがはけていく)
(エレナ(アリス)だけが残る)
(ミーゼ(まひる)が静かに一歩、位置を変える。空間が寄る)
語り部(七海)
「才能は、すでにある」
(間)
語り部(七海)
「けれど――
立つ場所は、まだ選ばれていない」
(暗転)
第二幕〈庭〉
(石畳の庭。円形の紋様。風の音だけが薄く流れている)
(生徒たちは庭の縁に散らばり、エレナ(アリス)だけが中央に立つ)
語り部(七海)
「授業が終わり、庭に残ったのは――
選ばれなかった問いだけ」
(間)
エレナ(アリス)
「……」
(足元の紋様を見る。動かない)
ルミナ(ひのり)
「まだ、悩んでる?」
エレナ(アリス)
「……悩んでない、はずだった」
ルミナ(ひのり)
「“はず”?」
エレナ(アリス)
「決めなきゃいけないって、分かってるから」
(言い切ろうとして、声がわずかに止まる)
フィオ(紗里)
「才能あるんでしょ?」
「だったら、残ればいいじゃない」
ブラム(りんか)
「迷う意味ある?」
「選ばれる側が、選り好みしてるみたい」
(エレナ(アリス)、何か言おうとして口を閉じる)
リラ(音羽)
「……声、出てない」
(全員が一瞬、エレナを見る)
エレナ(アリス)
「……」
(ノア(みこ)が一歩だけ前に出る)
ノア(みこ)
「……決めてない人の声」
「……まだ、ここにある」
(短い沈黙)
エレナ(アリス)
「私は……」
「ここに残るべきなのか」
(言い切らない)
エレナ(アリス)
「それとも――」
(言葉が続かない)
(遠くで、他の生徒たちの笑い声が聞こえる想定)
(エレナ(アリス)の視線が、ほんの一瞬そちらに逸れる)
ブラム(りんか)
「今のさ」
「逃げた?」
エレナ(アリス)
「……分からない」
(はっきりと答える)
フィオ(紗里)
「分からない、って言えるのは」
「まだ、ここにいる証拠だよ」
(エレナ(アリス)、小さく息を吸う)
エレナ(アリス)
「魔法があっても」
「答えは、勝手に決まらない」
(言葉が震えるが、止めない)
エレナ(アリス)
「選ばなければ、意味がないのに」
「選ぶのが……怖い」
(間)
(教師セレス(唯香)が、少し離れた位置から静かに歩み出る)
セレス(唯香)
「庭はね」
「決断の場所じゃないわ」
(エレナ(アリス)、顔を上げる)
セレス(唯香)
「立ち止まる場所」
「揺れている自分を、誤魔化さないための」
(ゆっくり、エレナを見る)
セレス(唯香)
「あなたは、もう十分進んでいる」
「だからこそ、今は止まりなさい」
(エレナ(アリス)、一歩も動かない)
エレナ(アリス)
「……止まったままでも」
セレス(唯香)
「ええ」
セレス(唯香)
「選ばなくても」
「“ここにいる”という選択は、残る」
(長い沈黙)
(ミーゼ(まひる)が、静かに位置を変える。庭の空間が少し狭まる)
語り部(七海)
「選ばれなかった答えは」
「消えたのではない」
(間)
語り部(七海)
「ただ――
まだ、名前を持たないだけ」
(エレナ(アリス)、ゆっくりと顔を上げる)
エレナ(アリス)
「……今日は」
「ここに、いる」
(ノア(みこ)、小さく頷く)
(暗転)
第三幕〈夜の回廊〉
(石造りの回廊。夜。ランプの淡い光が床を照らしている)
(人の気配はなく、足音だけが響く)
(エレナ(アリス)、一人で歩いている)
エレナ(アリス)
「……」
(立ち止まる。壁に掛けられた紋章を見る)
エレナ(アリス)
「ここに来れば」
「何か、変われると思ってた」
(指先で紋章に触れかけ、やめる)
エレナ(アリス)
「魔法があれば」
「選ばなくていいと……」
(小さく首を振る)
エレナ(アリス)
「そんなわけ、ないのに」
(足音。ノア(みこ)が、少し離れた位置に立っている)
(声はかけない。ただ、そこにいる)
エレナ(アリス)
「……聞いてた?」
ノア(みこ)
「……聞いてない」
「……いた、だけ」
(沈黙)
エレナ(アリス)
「辞めるって言ったら」
「みんな、どう思うかな」
(ノア(みこ)、少し考えてから)
ノア(みこ)
「……止める」
「……でも」
「……決めるのは、エレナ」
(エレナ(アリス)、小さく笑う)
エレナ(アリス)
「優しい答えね」
ノア(みこ)
「……正解じゃない」
(間)
エレナ(アリス)
「ここに残れば」
「期待に応え続けることになる」
エレナ(アリス)
「辞めたら」
「逃げたって、言われるかもしれない」
(声が、わずかに震える)
エレナ(アリス)
「……どっちも、怖い」
(ノア(みこ)、一歩だけ近づく)
ノア(みこ)
「……怖いなら」
「……まだ、終わってない」
(エレナ(アリス)、目を伏せる)
エレナ(アリス)
「終わらせたいわけじゃ、ない」
エレナ(アリス)
「……ただ」
「立ち続ける理由が、分からないだけ」
(そこへ、セレス(唯香)の足音)
セレス(唯香)
「理由はね」
「立ったあとに、出来るものよ」
(エレナ(アリス)、顔を上げる)
セレス(唯香)
「辞めるかどうかは」
「問いじゃない」
セレス(唯香)
「“今、立つかどうか”」
「それだけ」
(回廊の奥から、微かな光が差す)
エレナ(アリス)
「……今は」
(間)
エレナ(アリス)
「まだ、ここに立っていたい」
(セレス(唯香)、何も言わずに頷く)
(ノア(みこ)、静かにその場を離れる)
語り部(七海)
「選択は、まだ下されない」
語り部(七海)
「だが――
迷い続けることもまた、
ひとつの“意思”だった」
(暗転)
第四幕〈試験の間〉
(高い天井の試験室。中央に円形の魔法陣)
(周囲に試験官席。空気は張り詰めている)
(エレナ(アリス)、魔法陣の中央に立つ)
試験官A(紗里)
「エレナ・グレイ」
「最終適性試験を開始する」
試験官B
「内容は単純だ」
「魔法の行使と、判断力を見る」
(小さな結晶が宙に浮かぶ)
試験官A(紗里)
「この結界を解除しなさい」
「制限時間は、三十秒」
(結晶が光る)
エレナ(アリス)
「……はい」
(魔法陣に手をかざす)
(詠唱は正確。魔法は美しい)
語り部(七海)
「才能は、疑いようがなかった」
(結界が揺らぐ)
試験官B
「いいね」
「速いし、無駄がない」
(結界、完全に解除)
(短い沈黙)
試験官A(紗里)
「では、次」
(今度は二つの結晶が現れる)
(一つは安定した光、もう一つは不安定に揺れる)
試験官A(紗里)
「どちらかを選びなさい」
「片方しか、保持できない」
エレナ(アリス)
「……」
試験官B
「説明は以上」
「選択に、正解はない」
(間)
(エレナ(アリス)、不安定な結晶を見る)
(手を伸ばしかけ、止める)
語り部(七海)
「ここからが、試験だった」
エレナ(アリス)
「……理由を、聞いても?」
試験官A(紗里)
「聞きたい?」
エレナ(アリス)
「はい」
試験官A(紗里)
「安定した方は」
「今後も、学院に残れる」
試験官A(紗里)
「不安定な方は」
「成功すれば、名誉」
「失敗すれば……退学」
(静寂)
試験官B
「才能ある者にしか、出ない選択肢だ」
エレナ(アリス)
「……」
(エレナ(アリス)、ゆっくり息を吸う)
エレナ(アリス)
「私が、ここに残れない理由は」
「失敗する“可能性”ですか?」
試験官A(紗里)
「いいえ」
(即答)
試験官A(紗里)
「“迷うこと”よ」
(言葉が、刺さる)
試験官B
「決めきれない者は」
「現場では、危険だ」
(ノア(みこ)、試験官席の端に立っている)
(何も言わない)
エレナ(アリス)
「……迷うことは」
「弱さ、ですか?」
(試験官たち、答えない)
語り部(七海)
「沈黙は、答えより残酷だった」
(エレナ(アリス)、手を下ろす)
エレナ(アリス)
「……分かりました」
(安定した結晶を、選ばない)
(しかし、不安定な結晶にも触れない)
試験官B
「どっちだ?」
エレナ(アリス)
「……今は」
「選べません」
(試験室の空気が、一気に冷える)
試験官A(紗里)
「それが、答えね」
試験官A(紗里)
「エレナ・グレイ」
「あなたは――」
(間)
試験官A(紗里)
「保留対象」
「学院としては、“辞退”を勧める」
(ノア(みこ)、わずかに目を伏せる)
エレナ(アリス)
「……そうですか」
(声は、崩れない)
エレナ(アリス)
「なら」
「私は――」
(言葉が続かない)
語り部(七海)
「才能が理由ではなかった」
語り部(七海)
「努力でも、結果でもない」
語り部(七海)
「“迷い続けること”」
「それ自体が、ここでは罪だった」
(エレナ(アリス)、静かに一礼)
(退場)
(試験室に、結晶の光だけが残る)
(暗転)
最終幕〈夜の庭〉 ――終演
(夜の庭)
(月明かり。風が木々を揺らす)
(エレナ(アリス)、一人で立っている)
エレナ(アリス)
「……私は」
「ここにいる資格が、あるのか分からない」
(間)
エレナ(アリス)
「才能がある、と言われて」
「でも、それが理由で」
「迷うことを、許されなくなった」
(足音)
(ルミナ(ひのり)が現れる)
ルミナ(ひのり)
「資格なんて」
「最初から、持ってる人いないよ」
(エレナ、視線を上げる)
ルミナ(ひのり)
「続けたいって思った時点で」
「もう、理由になってる」
(別の方向から、生徒たちが現れる)
フィオ(紗里)
「迷うってさ」
「大事にしてる証拠だと思う」
ブラム(りんか)
「悩まない奴ほど」
「すぐ、いなくなるし」
リラ(音羽)
「……声は」
「揺れてる方が、届く時もある」
ノア(みこ)
「……残りたい、って」
「言っても……いい」
(静かに、教師セレス(唯香)が一歩前へ)
セレス(唯香)
「選ばない、という選択もある」
「でも――」
(エレナを見る)
セレス(唯香)
「あなたは、もう立っている」
(沈黙)
(エレナ(アリス)、深く息を吸う)
エレナ(アリス)
「……私は」
「完璧じゃない」
(小さく笑う)
エレナ(アリス)
「迷うし」
「立ち止まるし」
「きっと、また悩む」
(全員を見る)
エレナ(アリス)
「それでも――」
(一歩、前へ)
エレナ(アリス)
「ここに、残りたい」
(間)
(庭の灯りが、ゆっくり灯る)
語り部(七海)
「選択は、終わりじゃない」
「誰かと歩き続ける、合図」
(全員が横一列に並ぶ)
ルミナ(ひのり)
「一人じゃないよ」
フィオ(紗里)
「ちゃんと、見てる」
ブラム(りんか)
「逃げないなら」
「上出来じゃん」
リラ(音羽)
「……一緒に、響こう」
ノア(みこ)
「……ここに、いる」
(エレナ、ゆっくり正面を見る)
エレナ(アリス)
「――私は、ここにいる」
語り部(七海)
「選んだ道より、迷った時間が人を形づくる――進めなかった日も、立ち止まった夜も、何も決められなかった沈黙も、すべてが無駄にならず、迷い続けた者だけが、自分の足で立つ場所を知る」
――終演。
暗転。
数秒の沈黙のあと、客席から拍手が湧き上がる。
大きすぎず、乱暴でもない。
けれど、確かに届く音。
舞台袖。
九人は、すぐには動けなかった。
アリスは、正面を向いたまま、深く息を吐く。
肩の力が、ゆっくり抜けていく。
「……終わったね」
ひのりが、ぽつりと言った。
誰もすぐには返事をしない。
りんかが、最初に動いた。
腕をぶらぶらさせながら、床に座り込む。
「はー……」
「生きてるわ、私」
「雑すぎ」
紗里が苦笑しながらも、同じように腰を下ろす。
「でも、分かる」
音羽は、喉に手を当てて、小さく頷いた。
「……最後、ちゃんと響いた」
みこは何も言わない。
ただ、床に座ったまま、静かに前を見ている。
まひるは、舞台袖の明かりを一度だけ確認してから、鞄を肩に掛けた。
「……事故、なかった」
それだけで、十分だった。
唯香は、全員を一度見渡してから、短く言う。
「よく、持ちきったわね」
七海は、ノートを閉じた。
もう書き込むことはない。
「……あの間」
少し間を置いて。
「エレナが止まったところ」
「客席、息止めてた」
アリスが、ゆっくり振り返る。
「……怖かった」
正直な声。
「分かる」
ひのりは即答した。
「でも」
「逃げなかった」
アリスは、小さく笑った。
それは、役じゃない笑顔だった。
「……うん」
そこへ、音屋亜希先生が近づいてくる。
何も言わない。
ただ、九人を見て、頷く。
「お疲れさま」
それだけ。
誰も「どうでしたか」とは聞かなかった。
控室に戻る途中、ロビーのざわめきが耳に入る。
他校の生徒の声。
スタッフの足音。
でも、九人の周りだけ、少しだけ静かだった。
「ねえ」
りんかが言う。
「結果どうこうよりさ」
「うん」
紗里が続ける。
「これ、ちゃんと“舞風の舞台”だったよね」
七海が、少し考えてから頷く。
「……間違いない」
みこが、小さく。
「……残った」
何が、とは言わない。
アリスは、みんなを見て、静かに言った。
「……ありがとう」
「私、一人じゃ無理だった」
「知ってる」
ひのりは笑う。
「だから、舞台なんでしょ」
誰かが拍手をするわけでもなく、
円陣を組むわけでもない。
ただ、そこに九人がいる。
それだけで、十分だった。
舞風演劇部の二年目は、
確かに、この舞台で一区切りを迎えていた。




