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舞風学園演劇部 第二部 大会への挑戦  作者: 舞風堂
第三章 衝撃の黒船
17/26

第十七幕 演技?本音?ぶつかり合う舞台

 第二回・舞風祭。

 去年よりも校舎はずっと騒がしく、模擬店の呼び込みや軽音部のリハーサルが絶え間なく響いていた。

 生徒数が倍に増えた分、文化祭の“密度”も跳ね上がっている。


 そんな喧噪から少し離れた体育館の裏で、動画撮影部の4人は機材チェックに追われていた。


「よし、メインカメラ異常なし! 今日も頼むよ、相棒!」

 あさひがカメラを撫でながら気合十分。


「……音声ミキサーもOK。バックアップ録音も回す」

 りつはヘッドホンをつけ、淡々と波形を確認する。


「三脚の角度、このくらいでいいよね。体育館の照明、今年かなり明るいから……」

 真帆は落ち着いた手つきでセッティングを進める。


「先輩たち……メディア班みたいで超かっこいいっス!」

 うららはスマホを構えながら、誰よりテンションが高い。


「で、今日はどんな構図で撮るんでしたっけ?」

「もちろん――演劇部の舞台、バッチリ記録するよ」

 あさひが親指を立てた。


「去年のも良かったけど、今年は“二つの演劇部”だしね」

 真帆が苦く笑う。


「……アリス側と、ひのり側」

 りつがボソっと付け加えた。


「そう! だからこそ、うちとしては“歴史的瞬間”を絶対逃さないんスよ!」

 うららは体育館の扉を指差しながら胸を張る。


「えっと……“バズらせる気満々”って顔だね」

「バズらせます!!」

「ダメだよ、勝手に公開はしちゃ……」

「してませんってば〜! 内部資料っス!」


 (してない保証は誰もできなかったが、今は突っ込まないことにした)


「開演まで、あと10分だよ」

 真帆が腕時計を見ながら言う。


「うわ、まじか……緊張してきた……」

「うららは出ないでしょ」

「いや、なんか“視聴者目線”で緊張するんスよ!」


 体育館の扉の向こうでは、観客のざわめきが波のように広がっていた。


「……それにしても、演劇部の空気。昨日よりさらにピリピリしてるよね」

 りつが眉を寄せる。


「うん。特にアリス側は……完全に“勝負”に来てる」

 真帆が静かに言う。


「ひのり側は?」

「あの子たちは……なんか、“戦う前にもう楽しんでる”感じ」

 あさひがくすっと笑った。


 うららは興味津々で体育館の隙間を覗きながら言う。


「どっちが勝つんですかね?」

「勝負じゃないよ」

 真帆が首を振る。


「……でも、どっちかの“生き方”が証明される舞台にはなると思う」


 その言葉に、りつもあさひも黙った。


 その瞬間――

 体育館スピーカーから、開演5分前のアナウンスが流れる。


「……来るね」

「ああ。幕が上がる」


 あさひはキャップを深くかぶり、カメラを構えた。


「動画撮影部、本日のメインターゲット――

 舞風演劇部・文化祭ステージ、全編記録開始します!」


「了解!」


「音声、回す」


「サブカメ準備よし」


 うららもスマホを握りしめ、目を輝かせる。


「よーし……青春の修羅場、しっかり見届けちゃうぞ……!」


 そして――

 体育館の照明が、ゆっくりと落ちていく。


 幕が上がる。

 “二つの演劇部”の物語が、ついに観客の前で交差し始めた。

___

劇中劇「ぶつかり合う舞台」


第一幕

(暗転。ざわめきが静まり、体育館の空気が張りつめる)


(一本のスポットライトが舞台中央を射抜く)


アリス

「……これが舞台? 飾りも台本もない、空っぽの箱。」


(制服姿のアリスがゆっくりと歩み出る。その立ち姿はまるで王者)


アリス

「“整ってない舞台”ほど、役者の実力が露わになるものよ。」


(反対側から、ひのりが姿を見せる。紗里・みこ・りんか・まひるが続く)


ひのり

「空っぽじゃないよ。ここには――私たちが立ってる。」


アリス

「本質を誤魔化してるだけ。」


(七海・唯香・音羽がアリス側に並ぶ)


七海

「ひのり。あなたたちの“楽しさ”は、ただの満足で終わってる。」


紗里

「はぁ!? 観客が喜べば充分でしょ!」


唯香

「“楽しいだけ”では届かないわ。舞台は心に残してこそよ。」


みこ

「でも……ひのりちゃんの優しさで救われる人だって、いるの。」


音羽

「私は……壊されて、やっと声を出せた。優しさだけじゃ越えられない壁もある!」


まひる

「優しさは、壊すより強いときだってあるんだよ!」


(観客席ざわめく。「これ演技?」「本気で言ってる?」)


アリス

「所詮はぬるま湯。――見せなさい、あなたたちの“信念”。」


(アリスがひのりの目の前に立つ)


アリス

「私の“技術”を越えられるつもりなら、証明しなさい。」


ひのり

(ゆっくり笑って)

「越えるんじゃないよ、アリス。“混ぜる”んだよ。」


アリス

「……What?」


ひのり

「意地も技術も優しさも、ぜんぶ混ぜて――

 今ここで、私たちの“最強の舞台”を作るんだ!」


(照明が明転。舞台全体が光で満たされる)


ひのり

「第一幕――開幕!!」


(音楽が鳴り、全員が散って構える)


(ピンスポットがひのり側へ移る。影が揺れ、観客ざわつく)


紗里

「……ねぇ。アリスさんさ、昨日の“あれ”何?」


七海

「舞台上で言うことじゃ――」


紗里

「言うよ。“本音の劇”なんでしょ?」


(ひのり達が自然に紗里の隣へ並ぶ)


りんか

「“指導”とか言って音羽ちゃん泣かせたじゃん!

 あんなの追い込みじゃん!」


音羽

「っ……!」


まひる

「唯香ちゃんに“綺麗すぎる”って言ったのも……あれ、傷つけるためだったよね。」


唯香

「……それは……違う……私は……」


みこ

「ひのりちゃん達を“幼稚園のお遊戯”って笑ってたよね……あれ、痛かった。」


(アリスの目が細くなる)


ひのり

「……アリス。」


(舞台の温度が変わる)


ひのり

「私たちの仲間を、傷つけたよね?」


(アリスの眉がわずかに動く)


ひのり

「“技術のためなら壊していい”――

 そんなやり方、舞風には似合わないよ。」


(観客席が静まり返る)


紗里

「アリスさんのやり方、あたしたちには“暴力”にしか見えなかった!」


りんか

「強くするためじゃなくてさ、“怖がらせて支配してる”ってだけじゃん!」


まひる

「優しさを否定しないで……守る強さだってあるのに!」


みこ

「……ひのりちゃんの演技は、人を笑顔にするの。

 それを“弱い”なんて言わないで。」


(ひのりが一歩進む)


ひのり

「アリス。――謝ってよ。」


アリス

「……Pardon?」


ひのり

「みんなに。

 あなたの方法で傷ついたこの子たちに。」


(アリスの視線が揺れる)


ひのり

「それができないなら……

 今日の舞台、私は絶対に負けない。」


アリス

「……なるほど。

 本気で“殴り合う劇”をするつもりなのね。」


(照明が少し落ちる。第二幕への予兆)


(ひのり達5人がアリス達3人に詰め寄った直後。

 空気が冷たく張りつめる。ピンスポットがアリスへ。)


アリス

「……なるほど。そうやって“被害者”の顔をするのね。」


(観客ざわめく)


紗里

「被害者面じゃないし! 本当に辛そうだったんだよ!」


アリス

「辛いから何?

 あなた達、演劇を“遊び”だと思ってるの?」


(アリスが一歩前へ。ひのり達は息を呑む)


アリス

「あなた達の“仲良し演劇”では、舞風はずっとお遊戯のまま。

 観客の記憶にも残らない。」


(りんかが口を開きかけるが、アリスの視線で凍る)


アリス

「私たちは“本物”を目指している。

 甘さに逃げない。覚悟が違うの。」


(七海が静かに続く)


七海

「……ひのり。あなたの“楽しさ”は否定しない。

 でも、それだけじゃ先に進めないの。

 感情の共有だけで満足していたら、成長は止まる。」


(みこの表情が揺れる)


唯香

「舞台は綺麗事じゃないわ。

 時に残酷で、自分すら削る覚悟が必要。」


音羽

(一歩前へ)

「私はアリスさんの指導で殻を破れた。

 怖かったけど……逃げていたままじゃ変われなかった。」


(まひるが小さく息を呑む)


音羽

「優しさだけの空気じゃ、私は一生声が埋もれてた。」


(紗里が歯噛みする)


紗里

「……あんたらのは“指導”じゃなくて“選別”だよ。

 できない奴を切り捨ててるだけじゃん!」


みこ

「……ひのりちゃん達と作ってきた時間、私は本物だと思ってる……。」


まひる

「衣装だって……人が安心して着られるからこそ輝くんだよ……!」


りんか

「楽しさだって武器!

 最後に客を笑顔にできるのはウチらだよ!!」


(アリスが鼻で笑う)


アリス

「吠えるだけなら簡単よ。」


(照明がひのりへ移る)


ひのり

「……ねぇ、アリス。」


(ひのりの目は揺れていない)


ひのり

「あなたの言ってること、全部が間違いとは思わない。

 技術も、覚悟も、大事。」


(ひのり、一歩前へ)


ひのり

「でもね、折れない心は“笑顔”の中でも育つんだよ。」


(アリスの眉がわずかに揺れる)


ひのり

「うちは、うちのやり方で強くなる。

 あなたのルールじゃなくて、“舞風”のルールで。」


(仲間を見る)


紗里

「もちろん!」


りんか

「やってやるよ!」


まひる

「負けない!」


みこ

「……いける。」


(アリスを見る)


ひのり

「さあ――

 こっちの番だよ、アリス。」


(観客席が息を飲む)


(アリスの目が揺れる。ほんの一瞬、弱さが滲む)


七海

(低く)

「……アリス。動揺してる?」


アリス

「してない。」


(声の端が震える)


唯香

「……ひのりの言葉、刺さってるでしょ?」


音羽

(胸元を握りしめ)

「優しさに揺れるの、悪いことじゃない……」


(アリスは聞こえないふりをして前へ出るが、足取りは乱れている)


アリス

「あなた達の言葉に価値があると思ってるの?」


ひのり

「価値は舞台で決めよう。

 ――“言葉”じゃなく、“演劇”で。」


(客席から小さな拍手)


(ひのりの背後で仲間が構えを取る)


紗里

「準備、完璧!」


りんか

「覚悟見せようじゃん!」


まひる

「負けないよ……!」


みこ

「舞風の演劇、見せよう……」


(9人の空気が舞台を満たす)


アリス

「……そんな目で見ないで。

 まるであなた達が“正しい”みたいじゃない……!」


(アリスの声が弱くなる)


七海が手を伸ばしかけるが、アリスは避ける。


アリス

「違う……私は間違ってなんか……!」


(照明がアリス側だけ冷たく落ちていく)


第三幕


(対峙するひのりとアリス。照明が二人の中央に集まる)


ひのり

「アリス。

 あなたは“強さ”だけで舞台を作ろうとしてる。

 でも――舞風は違うよ。」


(ひのり、胸に手を当てる)


ひのり

「私たちは泣いて、笑って、転んで……

 全部ひっくるめて“舞台”を作ってきた。

 壊れて強くなる道だけが正解じゃない。」


(アリスの表情がわずかに揺れる)


ひのり

「仲間と支え合って強くなる道だってある。

 あなたがどれだけ私たちを見下してもいい。

 でも――」


(ひのり、強い瞳で)


ひのり

「あなたの努力まで、誰にも笑わせない。

 ずっと“ひとり”で戦ってきたんだよね?」


(アリスの呼吸が止まる)


アリス

「……Don’t.(言わないで)」


(ひのりが一歩近づく。アリスは反射的に下がる)


ひのり

「ロンドンで……本当は怖かったんだよね?」


アリス

「……!?」


(七海・唯香・音羽が驚く)


ひのり

「誰よりも努力して、必死に舞台にしがみついて……

 でも味方はいなかった。

 だから“完璧”でいなきゃって、強がってた。」


アリス

「Stop it…!

 そんなの……私は……!」


(声が震え、英語が混ざる)


アリス

「Perfectじゃなきゃ存在価値がなかった。

 ミスすれば舞台から落ちる。

 友達だって rivals。

 本音を言えば弱いと思われる……!」


(涙がこぼれる)


アリス

「だから……強く見せるしかなかった……!

 本当は……ずっと……怖かった……!」


(七海が息を呑み、唯香が胸を押さえ、音羽が口を覆う)


ひのり

(そっと手を差し出す)

「アリス。もう強がらなくていいよ。」


(アリスはその手を見つめ、震える)


ひのり

「舞風でくらい……弱くなってもいいんだよ。」


(アリスの膝がわずかに折れ、涙が落ちる)


アリス

「I don’t know how to be weak…

 弱くなるやり方なんて……知らない……!」


ひのり

「じゃあ一緒に覚えよ。

 強さも、弱さも――全部混ぜて。

 それが舞風の演劇だよ。」


(アリスの目が震える。

 七海・唯香・音羽も心が揺れ、ひのりの隣へ歩む)


アリス

「……ひのり……

 どうして……私なんかのために……?」


ひのり

「仲間だからだよ。」


(静寂。舞台に涙の音だけが落ちる)


(ひのりがそっとアリスを抱き寄せる。アリス、肩を震わせる)


紗里

(泣き笑い)

「アリスさん!! やっと本音言ったじゃん!!」


りんか

「今のアリスちゃんの方が好きだぞ!」


まひる

「仲間が増えるって……すごく嬉しいよ……!」


みこ

「……ようこそ、アリスちゃん。」


アリス

「みんな……

 Thank you…

 本当に……ありがとう……!」


(照明があたたかい色で9人全員を包む)


(ひのり、心の声)


ひのり

「――これで全員そろった。

 強さも、優しさも、涙も。

 全部で“舞風学園演劇部”になる。」


(9人が自然と輪になる)


ひのり

「アリス。一緒に――舞風の伝説を作ろう。」


アリス

(涙を浮かべながら)

「……Yes.

 Let’s make our legend.

 ――みんなで。」


(照明がふんわり広がる)


ひのりがアリスの手を取り、前に歩き出す。


ひのり

「アリスちゃん。

 舞風学園演劇部へ――ようこそ。」


アリス

「……こんな光……私……」


ひのり

(にかっと)

「deserve とか関係ないよ。

 みんなで作った舞台なんだから。」


(アリス、涙でひのりを抱きしめる。

 9人が並び、一列に揃う)


ひのり

「本日は――

 私たちの“伝説の第一歩”を見てくれてありがとう!」


(客席、爆発的な拍手)


紗里

「これからも舞風演劇部よろしくー!」


りんか

「忘れんなよーっ!」


まひる

「衣装……あとで直す……うぅ……!」


みこ

「……ありがとう……!」


七海

「……悪くない舞台ね。」


唯香

「次はもっと魅せるわ。」


音羽

「……声、届いたかな……ありがとう……!」


アリス

「Thank you… everyone…!」


(照明が落ち、9人が手をつないで深く礼)


――幕が下りる。


 終演後。

 体育館の照明が戻り、観客がざわつきながら出口へ流れていく。


 動画撮影部の4人は、裏口の壁にもたれながら機材を抱えていた。

 全員、まだ呆然としている。


「あの……今の……えぐくなかったっスか……?」

 うららが震える声で言う。


「……“演技”と“本音”の境目、完全になかったね」

 真帆が胸に手を当てる。


「あれ、リアルで殴り合ってたら止めてたかも」

 あさひがカメラを抱えたまま苦笑する。


「途中……アリスさん、本当に崩れてた」

 りつは静かに波形モニターを閉じた。


「ていうか……これ、文化祭の舞台でいいの?」


「完全にプロの舞台だったよね……」


「でも、ひのりさん達の“あれ”……なんか泣けた……」


 4人とも、言葉を失いながらも興奮が抜けきらない。


「……あの9人、今日で“何か”変わったよね」

 真帆の言葉に、全員がゆっくり頷く。


「アリスさん……あんな顔、初めて見たし」


「ひのりさん……あれはズルいっス……あんな言い方されたら……」


「……これ、ぜったい学校中で話題になるよ」

 あさひはカメラを見つめて、小さく笑った。


「歴史的瞬間、撮れたな」


 うららが拳を握りしめる。


「うち的には……今日の勝者、決まってるっスよ」


「どっち?」


 3人が同時に振り返る。


「“舞風の演劇”って何か、見せてくれた方。」


 うららのその言葉に、誰も否定はしなかった。

 むしろ、胸のどこかがじんと熱くなった。


「……来年も撮るんだよね?」


「もちろん」


「そんなん決まってるっス!」


 4人の声が重なる。


 舞風演劇部の幕が下り、

 動画撮影部の青春もまた、そっと熱を帯びていた。




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