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舞風学園演劇部 第二部 大会への挑戦  作者: 舞風堂
第二章 大会に向けて
11/26

第十一幕 伝説の二度目の夏

 7月15日に無事に台本の提出を終えた舞風演劇部に、ようやくほんの少しの余白が訪れていた。

放課後の多目的室。窓から差し込む陽光がカーテンを揺らし、8人の部員たちが集まっていた。ホワイトボードには「夏休みスケジュール案」と書かれたメモが貼られている。


 顧問の音屋亜希が、手にした資料を軽く持ち上げた。


「さて、皆さん。夏休みのスケジュール、ようやく確定しました。7月末までは通常練習と台本の仕上げ、そして8月からは合宿です」


「きたっ……合宿!!」

 ひのりがぱあっと顔を輝かせて、机から立ち上がる。


「ってことは……! 今年も、あの別荘!?」


 期待いっぱいに唯香へと顔を向けるひのり。すると、唯香は少し申し訳なさそうに微笑んだ。


「ごめんなさい。……あの別荘、今年はちょっと難しいの。練習メニューが本格的になってきてるから、環境的に不向きかもしれないわ」


「えぇ〜〜〜〜っ!?」

 ひのりが思いっきり机に突っ伏す。


「去年の、あの別荘……最高だったのに……! 映画みたいな屋敷、海水浴、BBQ、星空、朝焼け、そして青春……」


「そんなにすごかったんですか……!」

 まひるが感嘆の声を上げる。


「去年の合宿、写真で見ました! めっちゃロケーションよかったですよね」

 音羽がうらやましそうに身を乗り出す。


「なんかもう、サマーバケーションな夏休みじゃん……」

 りんかは両手で頬を押さえて言った。


「あの政治家の構文じゃないんだから」

 七海が思わず笑いながらツッコむ。


「私たち、まだ入ってなかったから……正直、超うらやましい……っ」

 まひるも羨望の目で言う。

 


 唯香は、ふぅと息をつきながら付け加える。


「もちろん、思い出の場所としては大好き。でも今年は、演技に集中する時間が必要なの。だから、設備の整った演劇合宿所を使おうと思ってるの」


「なるほどね……」

 七海が手元のスケジュールに目を通しながら頷く。


「練習用の稽古場とステージ、照明や音響機材もあるから、去年以上に充実した練習ができるはずよ」

 音屋先生も補足する。


「今年は私も帯同して、本格的な指導に入るつもりです。だから、ちょっとハードになるかもね?」


「うぅ〜、本格的だ……」

 音羽がプレッシャーに身をすくめると、


「胃が……すでにキリキリしてきた……」

 まひるがノートをぎゅっと抱えた。


「じゃあ、練習が詰まってるからこそ――!」


 そこで紗里がぱっと手を上げた。


「見晴町の夏祭り、今年も行かない? 去年、すっごい楽しかったじゃん!」


「おおっ、ナイス紗里!!」

 ひのりが一気に復活してガッツポーズ。


「ラムネ、風鈴、縁側、神社、即興劇に手持ち花火……“夏”が全部あったの、あの町だったんだよ!!」


「うわ〜、いいなぁ!」

 りんかが目を輝かせる。


「去年行ってないから、その話めっちゃ羨ましいです」

 音羽が頷き、


「しかも、ちょっとした舞台挨拶やったって聞いてます! 今年もそういうの、できるんですか?」

 まひるも期待を込めて問いかける。


「うん! 今年もできるといいな〜って思ってる!」

 ひのりが笑顔で答え、


「駄菓子屋のおばあちゃんや神社の人たちも、きっとまた歓迎してくれると思う」


 音屋先生は手帳をパラパラとめくりながら、少しだけ考え込んだ。


「……7月末なら、祭りの日に合わせてオフを入れられそうね。台本もその頃には固まってる予定だし、良い“気分転換”になるわ」


「やったあああ!!」

 ひのりが立ち上がり、りんかたち1年組も拍手を送る。


「舞風演劇部、今年の夏もやっぱ最高ですね!」

 りんかが両手を挙げて言う。


「青春って、こういうことなんだなぁ……」

 まひるがぽつりと呟き、


「ふふ、演劇部に入ってよかった」

 音羽がにっこり笑った。


「じゃあ――行くぞ、舞風演劇部!」


 ひのりが机を叩いて勢いよく立ち上がる。


「“伝説の二度目の夏”、始まるよっ!!」


 七月末、夏祭り当日――。

 夕方前の見晴町。私服姿の舞風学園演劇部の8人が、ホームに降り立った。


「……うわ、セミの声がすごいね」

 音羽が少し緊張気味に空を見上げる。


「空気がもう“夏”だよね」

 まひるはうちわを仰ぎながら笑い、りんかはスマホを構えて風景をパシャリ。


「ここが……去年の、あの場所かぁ...あたしいなかったけど」

 りんかが感慨深げに呟くと、ひのりがパッと振り向く。


「そう! ここが伝説の夏の舞台《見晴町》だよ!!」

 胸を張るひのりのテンションに、後輩たちが笑い出す。


「はいはい、落ち着いて」

 七海がいつもの調子でツッコミを入れながら、先頭を歩く。


 商店街の角を曲がり、懐かしい路地を抜けて――

 今年も、あの古びた木造の駄菓子屋「ふるや」が見えてきた。


 風に揺れる「氷」ののれんと、色あせた看板。

 そして店の奥から聞こえてくるうちわの音――


「こんにちはーっ!」

 ひのりが声を張ると、


「……あらまあ、来た来た! 待ってたよ」

 ふるやのおばあちゃんが、奥からゆっくりと現れた。


「うわぁ〜っ!おばあちゃん、今年も元気そうで!」

 紗里が手を振り、みこも「こんにちは……」と照れくさそうに笑う。


「みんな揃ってるねぇ、いやぁ賑やかでいいこと!」

 おばあちゃんが目を細めて嬉しそうに言う。


 そして――

 奥から二人の少女が顔を出した。


「お姉ちゃんたち、来てたーっ!!」

 元気いっぱいの妹が声をあげ、少し背の伸びた姉が後ろから続く。


「見て、背、伸びたんだよ!」

 妹がりんかの前にぴょんと跳ねる。


「もしかして……去年の?!」

 まひるが驚くと、ひのりが頷く。


「そう! 去年、一緒に“魔法使いごっこ”した子たち!」


「えっ、すごっ。ほんとに再会してるんだ……青春じゃん……」

 音羽がぽそっと感動してると、


「私は早乙女りんか。初めましてだよね?」

 りんかがしゃがんで笑いかける。


「うんっ! わたしたちは、ふるやのおばあちゃんの孫姉妹!」


「舞風学園演劇部の、新一年生の成川まひるですっ!衣装作り得意です」


 まひるがぺこりと頭を下げ、


「私は白石音羽。見晴町、来てみたかったんです」

 音羽も続けて自己紹介。


「まあまあまあ、いい後輩ちゃんたちが入ったのねぇ」

 おばあちゃんが手を叩いて喜ぶ。


「元気で、礼儀も正しくて……こりゃまた、にぎやかな夏になるわけだ」


 姉妹が目を輝かせて後輩たちを見つめている。


「演劇、やるの? また見られるの?」

 妹が興奮気味に聞くと、


「うんっ、今年もね、ちょっとしたミニステージがあるかもよ?」

 ひのりがウィンクする。


「お姉ちゃん、また魔法使いになってくれる?」

 妹が嬉しそうに声を弾ませると、


「なるなるっ! むしろ、何でもなるよ私!」


「じゃあ……炎の魔法使い、またやる!」

 妹の宣言に笑いが起こる。


「じゃあ……せっかくだし、私もちょっとだけやってみてもいい?」


「えっ、音羽ちゃんが?」

 ひのりが驚くと、音羽はにっこりと笑った。


「実はこう見えて、いろんな“声”とか“キャラ”を演じるの得意なんだ。七変化、披露しちゃおうかなって!」


「出た!音羽ちゃんの十八番!」

 ひのりが笑い、りんかが「絶対見たいっ!」と食いついた。


「やったぁーっ!!」

 妹たちが拍手をして駆け寄ってくる。


 音羽は小さく息を吸い、すっと姿勢を正した。


「ではまず、王国のお姫さま──」

 優雅に裾を持ち上げ、おしとやかに首をかしげる。「まぁ……あなたが、私の騎士様なのですね?」


「続いて、町のガラの悪い兄ちゃん──」

 ガラリと声が低くなり、口調も荒っぽくなる。「おう、そこのラムネ買い占めてんじゃねーぞ!」


「そして、アニメの悪役令嬢!」

 背筋を伸ばし、芝居がかった高笑い。「おーっほっほっほっ!庶民がこの私に刃向かうなんて100年早いですわよ!」


「わぁー!!」

 妹たちが大興奮で手を叩く。


「ちょっと、音羽……クオリティ高すぎない!?」

 紗里が目を丸くし、ひのりも感心しきり。


「声だけじゃなくて、ちょっとした仕草も変わってる……」

 まひるがぽつりと感心すると、


「音羽ちゃん、やっぱすごいよ……ほんとに“演じてる”」

 唯香も微笑みながら頷いた。


 音羽は照れくさそうに笑って肩をすくめた。


「へへ……楽しくなっちゃって」


「ねえねえ、もっとやってーっ!!」

 妹たちがせがむと、


「うーん……じゃあ、最後に老舗駄菓子屋のおばあちゃん!」


「……あらまあ、よぉ来たねぇ。おまけに金平糖でもつけといたろか?」

 しゃがれた声に、おばあちゃん本人が吹き出した。


「ふふっ、うまいこと真似るねぇ、あたしゃもう引退してもいいかねぇ」

 全員がどっと笑った。


 こうして、再会と新しい出会いが交差する見晴町で、演劇部の「二度目の夏」は、ゆっくりと幕を開けていった。


 駄菓子屋「ふるや」でひとときの再会を楽しんだ後、舞風学園演劇部の8人はひとまず浴衣に着替えるために公民館へと入った。


 駄菓子屋「ふるや」を出た一行は、見晴町公民館の小さな控室へと向かった。ここで一度仕切り直し――着替えを済ませて、浴衣で夏祭りに臨むのだ。


「さてさて、いよいよ着替えタイムだね!」


 ひのりが鞄を持ったまひるの後ろで声を弾ませる。


「まひる、例のやつ……!」


「はいっ。全員分、ちゃんと持ってきましたよ~。母と祖母が、朝から“くれぐれもシワに気をつけて持って行きなさいよ”って」


 まひるが、そっと大きな鞄のチャックを開くと、8着分の鮮やかな浴衣が丁寧に畳まれていた。


「うわ~、本当にきれい……」

 音羽が感嘆の声を漏らす。

 

 「事前に採寸してもらってたから、みんなピッタリだよね」

 唯香が嬉しそうに微笑む。


「柄もそれぞれ違ってるし、どれも舞風演劇部っぽいっていうか……」

 紗里が浴衣を一つ一つ眺めながらつぶやく。


「これは桜模様に金糸があしらってある……ひのりちゃんにぴったり」

 まひるが1着を手に取って言う。


「私のは……水色地に風鈴柄。なんか音羽っぽいって思ったって、おばあちゃんが言ってました」

 まひるが照れくさそうに笑う。


「私は紫陽花と雨粒……あ、これ、みこ先輩のイメージじゃない?」

 りんかが手に取りながら言うと、


「うん……なんか、しっとりしてて、いいね」

 みこが控えめに微笑んだ。


「私のは、ひまわり! 元気印ってことだよね!」

 紗里が腕まくりするように浴衣を掲げると、みんなが笑い声を上げた。


「私の、朝顔だ~……涼しげで可愛い~!」

 まひるが嬉しそうに浴衣を抱きしめる。


「七海先輩のは、藍染めっぽいストライプで……なんかキリッとしてる」

 りんかがうなずくと、


「ふふ、イメージ通りね」

 七海が少し照れたように目を伏せた。


「唯香ちゃんのは……夜空に花火の柄。なんかロマンチック」

 ひのりがぽつりと呟いた。


「あら……まひるちゃんのお母様、おばあさま、さすがね」

 唯香も小さく目を細めた。


「事前に採寸してもらってたから、みんなピッタリだよね」

 唯香が嬉しそうに微笑む。


「柄もそれぞれ違ってるし、どれも舞風演劇部っぽいっていうか……」

 紗里が浴衣を一つ一つ眺めながらつぶやく。


「うちのお母さんとおばあちゃん、こういうの燃えるタイプでして」

 まひるが少し照れながら言うと、


「“部活って、衣装まで含めて舞台なんでしょ?”って張り切ってました」

 まひるが笑いながら肩をすくめると、全員がくすっと笑った。


 そして全員が浴衣を着ると見晴町の夏祭り会場――《天ノ杜神社》へと向かっていた。


 夕暮れが迫る境内には、すでに多くの人が集まり、色とりどりの浴衣と提灯の明かりが揺れていた。太鼓の音が響き、屋台からは焼きそばや綿あめの香りが漂ってくる。


「……昔ながらのお祭りって、いいですね」

 まひるが感慨深げに辺りを見回しながら、小さく微笑んだ。


「ねーっ!こういうのってアニメの世界だけかと思ってたー!」

 りんかがテンション高めに声を上げ、スマホで境内の様子を撮影しながらきょろきょろと周囲を見渡す。


「射的!あれやってみたい!ていうかわたあめも!あと、かき氷も絶対!」

 ひのりはすでに祭りスイッチが入っており、紗里と並んで屋台に一直線。


「また始まった……」

 七海が肩をすくめ、呆れたように呟いた。


「相変わらずね、ほんと」


 後ろからは、音羽とみこが笑いながらついていく。


「みんな元気でいいな……あっ、わたしもりんかちゃんについて行ってきます!」

 音羽が小走りに屋台の方へ駆け出すと、


「私は……ちょっと風鈴の音、聞いてたいかも……」

 みこは神社の縁側に腰掛け、提灯の光を見つめながら、そっと風鈴の音に耳を澄ませた。


 そして――

 見晴町の夜空に、少し早めの第一発目の花火が上がる。


「わあっ!」

 りんかが思わず歓声を上げる。


「え、早くない? まだ7時ちょいすぎだよ?」

 ひのりが慌てて空を見上げる。


「お祭りのはじまりの合図、だってさ」

 紗里が得意げに言い、


「……うん、やっぱりいいな。去年のこと、思い出す」

 唯香がぽつりと呟く。


 神社の境内に響く笑い声と花火の音。

 夏祭りの熱気に包まれる《天ノ杜神社》。

 屋台の灯りが揺れる中、舞風学園演劇部の8人は、境内の一角に設けられた小さな特設ステージへと歩みを進めていた。


 神主のもとに姿を見せると、ひのりが手を振りながら声をかける。


「神主さーん、こんばんはっ!」


「やあやあ、こりゃまた懐かしい顔ぶれじゃな。今年も来てくれて嬉しいわい」

 神主は柔らかな笑みを浮かべて、ひのりたちにゆっくりと近づいてきた。


「去年の夏は、君たちの即興劇に感動したもんじゃよ。……おや、初めて見る顔もおるな?」


 「は、はじめましてっ! 1年の早乙女りんかです!」

 「成川まひるです、よろしくお願いします」

 「白石音羽です……あの、今日はご挨拶できて嬉しいです」

 3人の1年生が緊張しながらも、まっすぐに頭を下げた。


「ほほう、みんな礼儀正しいな。後輩が増えたということは……」

 神主が優しく目を細めると、ひのりが「はいっ!」とステージの方に振り向く。


 そして、スポットライトのように夕闇に照らされる簡易ステージの上へ――

 浴衣姿の8人が並んだ。


 拍手が自然と境内から湧き起こる中、ひのりが一歩前へ出る。


「えっと、皆さんこんばんはーっ! 私たちは――」

 ひのりが舞台全体を見渡してから、手を広げる。


「舞風学園・演劇部ですっ!!」


 りんか、まひる、音羽の3人も、声を合わせてお辞儀をした。


「去年の夏も、ここで素敵な出会いや思い出がありました。

 そして、今年は――新しい仲間が3人も入って、にぎやかになったんです!」


「いまは、9月の演劇大会に向けて、日々練習中です!」

 七海が続けると、音屋先生も会場の端で静かに頷いていた。


「今日は公演じゃなくて、近況報告と簡単なご挨拶すが……」

 唯香が声を整えて前に出る。


「この見晴町で過ごす“もうひとつの夏”が、私たちにとって、またひとつ大切な舞台になっています。

 温かく見守ってくださる皆さんに、心から感謝を込めて――」


 ぺこり、と8人全員が深く頭を下げた。


 その瞬間――


「さりーっ!!」

「さりちゃーん!!」


 舞台の下から、元気な声が飛んだ。

 その方へ目を向けると、紗里の両親と、小学3年生の妹、花乃ちゃん、そして小学1年生になったばかりの弟・陽翔くんが、満面の笑顔で手を振っていた。


「えっ!? ちょ、来てたの!?」

 紗里が驚いて声を上げる。


「せっかく夏祭りって聞いたから、仕事早めに終わらせて来たのよ〜!」

 母親が笑いながら答える。


「花乃も陽翔もずっと“おねーちゃんの劇見たい!”って言ってたんだから」

 父親の言葉に、ユメとリクが照れながらも元気よく手を振った。


 そして――

 みこがそっと隣に立つと、ひときわ大きな拍手と共に、一人の年配女性が前に出てきた。


「おばあちゃん!」

 みこが驚きながらも嬉しそうに声を上げる。


「去年の舞台、よう覚えとるよ……今年もまた来れるとは思わなんだ。みこ、お友達も立派にやっとるねぇ」


「……うん。ありがとう」

 みこが照れくさそうに目を伏せながらも、優しく笑った。


 境内には拍手と温かな歓声、そして風鈴の音――。

 見晴町の夏の宵に、舞風演劇部の“今年の夏”が、静かに刻まれ始める。


神社での挨拶を終え、夏祭りの賑わいが少しずつ夜の静けさに溶けていく頃――。


 舞風演劇部の8人は、ふるやのおばあちゃんからもらった手持ち花火を片手に、神社の裏手にある草地へと足を運んでいた。


 あたりには人気もなく、虫の音と時折聞こえる花火の音が夜の帳を彩っていた。


「……よし、ここなら誰にも邪魔されないねっ!」

 ひのりがぱちんと袋を開くと、色とりどりの花火がごそごそと音を立てた。


「うわー、花火だぁ。夏って感じ」

 りんかが嬉しそうにしゃがみこみ、まひると音羽も顔をほころばせる。


「こういうの、ちょっと憧れてたかも……」

 まひるがそっと呟くと、


「うち、こういう“夜にみんなで集まって遊ぶ”って、あんまりなかったから……めっちゃ青春って感じです」

 音羽が口元を緩めた。


 七海がライターで一本ずつ火をつけていくと、最初の火花がパチパチと静かに弾けた。


「おお〜……やっぱりキレイ……」

 みこがそっと火花を見つめる。


「ひのり先輩、今年もこの時間、用意してくれたんですね」

 まひるがふと振り返ると、ひのりは少し照れたように笑った。


「うん。去年もさ、こうして“ただ遊んでるだけ”って感じがすごくよかったの。

 演劇とか関係なくて……でも、すごく“演劇部”らしい時間だった気がするんだ」


「“演じてない時間”も、大事にしたくなる。そんな感じ?」

 唯香が優しく問いかけると、ひのりは強く頷いた。


「うん。だって、こういう時間があるから、また“本気”で頑張れる気がするんだよ」


 ひときわ強い火花がバッと散り、夜の空気が一瞬だけ染まった。


「……なんか、胸がぎゅーってなってきた」

 りんかが花火の光に照らされた顔でそう言うと、


「うん……ほんとに、今ここにいられてよかった」

 音羽も花火を見つめながら、少しだけ目を細めた。


「来年の夏も、こうやって……全員で、また来たいですね」

 まひるが小さく呟くと、


「絶対来よう。約束ね」

 ひのりが、一本の線香花火を灯しながら言った。


 ぱちっ、ぱちっ……と小さな火玉が揺れて、まるで消えかけの星のように、そっと夜に散っていく。


「この花火みたいに……一瞬一瞬、大事にしていこうね」

 唯香の声に、誰もが頷いた。


 やがて、全員の手持ち花火が終わった頃、夜空に再び大きな打ち上げ花火が咲いた。


 ドンッ――


「わぁ……!」

 全員が一斉に空を仰ぐ。


 その瞬間、誰もが黙って、ただその光景に見入っていた。


 去年とは少し違う。

 でも、確かに“続き”なんだ。

 舞風演劇部の、伝説の二度目の夏。


 火花が散り、花火が咲き、そして笑顔が重なって――


 この夜、8人の心にまたひとつ、忘れられないページが刻まれた。


 続く。





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