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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第二章

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第64話 科学の利器



 「では、ヒナタさん。また――」



 紳士的な態度は崩さぬまま、アオバはヒナタの手の甲に軽く口付け姿を消す。

 その気配が完全に消えたことを確認して、ようやくライは警戒を解いた。

 置かれたままの大型トランクまで歩み寄り手に取れば、ずしりとした重みが伝わってくる。


 

 「とりあえず、全部トランクに詰め込んでもらったんだけど」

 「まぁそれが正解だろうな。銀河製トランクの解錠ができる人間がこの国にいるとは思えないし、銀河共生機関(GCO)の救援部隊が来てもすぐ隠せる。……で? 中身がポータブル(P)ーエネルギーユニットと」

 「念のためパネル型ポータブル電源くらいはいるかなって……」

 「Pーフードマネージャー」

 「うぅ……だってキンキンに冷えたドリンク飲みたいし、温かいの食べたいし、子供たちが夜中『お腹すいた』って起きた時にも保存庫はあったほうが便利かなーって……」



 無駄遣いを叱られる子供のように、ヒナタはおずおずとライを見上げた。

 

 次にいつ補充できるか分からない状況でトランクに詰め込まれたのは、ヒナタの独断と偏見による銀河の文明の利器(ライフモジュール)

 いずれも折りたたみ式や組み立て式のコンパクトなもので、普段使いされているものばかりだ。

 

 護衛アンドロイドとして全権限を解放されたライは、淡々とそれらライフモジュールをセンサースキャンで精査していく。

 


 「残りは照明付持運冷暖房(エアランタン)万能美容三面鏡(パーフェクトミラー)速乾気流(エアドライゲート)……ランダムトイボックスは子供たち用か。毎月違うおもちゃが出てくるからこれはいいとして、あとは服とコスメ類と……菓子はともかく、酒とつまみを持ってくる必要は?」

 「あった!」

 「そうか。じゃあ、前と同じで一週間に二本な」

 「うっそ!? やーだー! せめて週三で!」

 「週一な」

 「うえーん、ママが優しくなーい!」

 「おかしいな。こんなにも健康に気遣って愛してるのに」

 

 

 ごねるように服を引っ張るヒナタを放置し、ライはトランク片手に階段を登っていく。

 些細なやりとりさえひどく久しぶりな気がして、口元にも笑みが浮かんだ。

 


 「……やっぱり、銀河製のものがあると落ち着くね」

 「そうだな。ここでの生活も悪くないが、慣れ親しんだものがあるってのは心理的にも違うしな」

 「武器もいるかって聞かれたけど、ライがいるからライフモジュールだけ選んじゃった」

 「まぁ、この国だったらヒナの物理だけで行けそうだしな」

 「え? 物理の可愛さでなんとかなるって? やだ、褒めてる?」

 「あぁ、そりゃもちろん。かわいいかわいい」

 「……どーしよう、ちっとも嬉しくない……」



 唇を尖らせるヒナタに、ライは笑って空いた手で頭を撫でてやった。

 これ以上ヒナタ一人に背負わせずに済んだのは良かったが、それもすべて、アオバがヒナタを見つけたからできたこと。

 そう思うと、ただ素直に喜ぶことができない。

 

 

 「裏律界(ディスコードゾーン)の、しかも銀河から千光年離れた惑星からヒナを見つけて、くそ高ぇ響律核(レゾナンス・コア)を所有して……相変わらずくそバは意味わかんねぇ男だな」



 ぴたりとヒナタの足が止まる。

 その手はライの服を掴んだまま離さない。


 

 「……ねぇ、ライ。あたし、この国に来た時、そんなに時間経ってないって思ってたの」

 


 思い出すのはこの黎煌国にやってきた夜のこと。

 子供たちと夏休暇を楽しみ、旅先の地球から母星ガイアへと帰ろうとしていた時だった。

 

 地球からガイアまでの距離は月のおよそ三倍――百万キロ。

 だが、各惑星にあるワープステーションの星間ワープを使えば一秒とかからない距離だ。

 

 十九時に地球を出て、宝珠たちに出会ったのが二十時ごろ。

 星間ワープは百光年を百分で移動するから、例え星間事故だったとしても一時間差なら六十光年先の銀河内の他惑星に漂着すると思われた。


 だがあの時、指輪はディスコードゾーンの警告を出したのだ。

 一時的に意識がシャットダウンしていたライも、それに気づいた時には驚愕した。

 


 「あぁ、覚えてる。あれは一時間後じゃなかった。実際は、()()()()()()()()()()()()だった」

 「今回のアオバさんとのデートね、銀河の近くまで行ったのにタイムラグがなかったの。それってつまり……」

 「くそバが持ってるのは、宙間深層(ちゅうかんしんそう)ゲートか」



 そう考えれば彼の行動全てに合点がいった。

 亜空間を移動する星間ワープとは違い、転送技術を応用し、瞬時に広範囲の宇宙まで移動可能になるのが宙間深層ゲートだ。

 しかしそれはまだ一部でしか運用されていないものであり、GCOでさえ使用許可は下りていない。


 つまりアオバは、GCOの職員でありながら、GCO以上の超特権階級を持つということになる。

 それこそレゾナンス・コアを所有してもおかしくないくらいに。

 

 そこまで考えて、ヒナタは思考することをやめた。

 例え聞いたところで秘密主義なアオバが答えることはきっとないだろう。

 


 「いこ、ライ。宝珠様にもっかい謝らなきゃ」



 アオバの存在は特別だが、今以上深く立ち入るべきではない。

 興味を示してしまえば、ヒナタの場合それは執着へと繋がる。それは宝珠に対しても同じことだ。


 知って失うくらいなら、何も知らないままでいたほうがいい。

 ヒナタの側にはライがいる。それだけで十分なはずだ。


 

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