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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第二章

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第57話 宵の宴


 その日は雨季始めにしては珍しく雨がやんだ。

 雨上がり特有の空気に混じり、紗灯(しゃとう)の下には食欲をそそる香りが広がる。


 貝の酒蒸しや薬草の天ぷら。塩豆の香炒りに干しタラの炙りや芋餅と、卓上には所狭しと料理が並んだ。

 

 魚粽・肉粽・甘味粽と三種の粽が一口サイズで並んでいるのは、お酒と食事の両方を楽しみたいヒナタのためのもの。もちろん、ヒナタの好物の塩せんべいだってちゃんと準備されている。

 

 

 「へぇ、お姫様の国の現王は女王なのか」



 優雅な手つきで酒杯を手にした王麟(オウリン)は目を細めた。

 黎煌国しか知らない彼らにとって、ヒナタからもたらされる話はどれも不思議で興味深い。



 「とは言ってもうちは立憲君主制なので、黎煌国のような体制ではないですけどねー」

 「ん? そりゃ、どーいうことだ?」



 干し魚の炙りは、その香ばしい塩味が王麟の持ってきてくれた山桃の酒とよく合った。

 異性の前で酒を嗜むのも、家族や婚約者以外と食事をする姫君というのも黎煌国にはヒナタ以外いないだろうが、ここまで来たらそれはもう無礼講というやつである。

 


 「えぇっとー……銀河では黎煌国のような最終決定権が王にある制度を絶対君主制と呼んでるんです。んで、王はいるけど政治は国民がする、という国家体制を立憲君主制っていうんですよー」

 「それは……王は必要なのかい?」

 「必要ですよ〜もちろん王としての実権は多くありませんけど、その国の象徴というか国民の支えというか」

 「すっごくだいじなんだよね!」

 


 誇らしげに顔を輝かせるルークにヒナタはそっと頭を撫でてやった。

 

 すっかり宝珠や藍飛(ランフェイ)にも懐いた子供たちは、各々、安全圏となる人間の隣にちょこんと座って宴席の仲間入りをしている。

 一皿に子供たちの好きなものを盛り付けたキッズプレートは大好評で、ルークはヒナタと宝珠の間、アステリアは宝珠と藍飛に挟まれ始終ご機嫌だ。

 

 だが、こうして子供が貴族の宴席に混ざるなどやはり普通ではありえないことだろう。



 「こんな幼子でも認識してるのは驚きだね。それだけ王家が身近だということか」

 「そうですねぇ……特にあたしは王家のかたとアカデミーが一緒だったから尚更かなー」

 「「王家の人間と同じ学び舎?!」」

 

 

 立ち上がりそうな勢いで藍飛と飛辰(ヒシン)の声がかぶる。

 黎煌国では、王族には専用の教師が付き、他の人間と教育の場を共にすることはない。

 

 それを抜きにしても、王家の人間と同じ学び舎ということはもしやヒナタは名家の姫なのではないかという視線が一気集まった。

 それに対し、ヒナタは朗らかに手を振る。



 「あ、私はしがない一般庶民ですよー? せいぜい農家の娘、ですかねぇ?」

 「ヒナタ殿が農家の娘と言われても、それはそれで驚きなのだけど」

 「祖父母が農家なので間違ってはいないですよ! うちの国では、王家の方も一般の……まぁ庶民と一緒にアカデミーに通われるんです」

 「……王家の、人間が」

 

 

 王麟秘蔵だという山桃蜜酒は透き通るようなワインレッド色で、蜂蜜のほのかな甘味と山桃の酸味がフルーティーで甘酸っぱい。

 逆に飛辰が持ってきてくれた雑穀清酒は、ほのかな酸味と苦みがあり喉に熱く残る香ばしさがある。どちらにせよ味わい深い美味しい酒だ。

 

 さりげなく酒より食事を寄こそうとする宝珠に甘えつつ、ヒナタも始終ご機嫌だった。

 


 「護衛なんかは勿論つきますけど、その時期にしか学べないこともあるし。だからわりと学生時代は伸びやかな生活を送っているみたいでしたねー」

 「姫さんは、その、王族と話したことあるのか?」

 「私と同学年にお一人いらっしゃったので仲良くさせていただきましたよ。とっても気さくな方で、今でも機会があればお話することもありますし」

 「おたんじょうびプレゼントもくれたもんねっ」


 

 持ち前の人懐っこさでアステリアがにこにこと笑う。

 いつもは李姜たちしかいない屋敷に人が増えて楽しいのか、初めて会う大人がいても饒舌だ。


 

 「……誕生、日?」


 

 不思議そうにする藍飛らにヒナタはあっと思いついた。

 


 「そっか、もしかしてこの国には誕生日はないのかな。新しい年が来たらみんな年齢があがる感じですか?」

 「あぁ。姫さんのところは違うのか?」

 「うちは基本的に生まれた日に年を重ねてお祝いするんです」

 「へぇ……それはまた管理が大変そうに思えるけど」

 「一月生まれと十二月生まれでは約一年の差がでますから。こっちの国じゃ、十二月生まれは一ヶ月経って新年を迎えたら一歳になるってことですよね?」

 「そうだね」

 「それはそれで私から見たら大変そうですね……うちの国、義務教育が十五年あるんで小さいうちの勉強が追いつかなさそう」

 「教育が義務なのか。それは男女問わずかい?」

 「男女問わず、貧富問わず、ですよっ」


 

 ヒナタが語る異文化の話はまだまだ尽きそうにも飽きそうにもない。

 

 だが、この時はまだ、ヒナタさえも気づいていなかった。

 宇宙からの来訪者が、もうすぐそばまでやってきていたことを。


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