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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第二章

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第56話 軍部(5)


 

 「……ヒナタ」

 「んえぇっ!? 私またなにか墓穴掘りました!? あ、でも宝珠様は別格ですよっ!」



 慌てた顔から真剣な顔で訴えてくるヒナタに宝珠はもう何も言わない。

 この時点で、誰の目から見てもヒナタは黎煌国の人間ではないと理解できただろう。

 例え妓女だったとしても、その反応は黎煌国の女としてはありえないからだ。

 

 だがヒナタの落とした爆弾発言は、思わぬ形で波紋を呼ぶ。



 「なぁ冬律官って……実はかなりすごくてやべー人なんじゃ……?」

 「それ俺も思った。だってあんな破天荒な女の舵取れるなんて普通無理だろ」

 「しかも名前呼びって、めちゃくちゃ仲いいってことだよな? どうやったら女とそんなに仲良くなれるんだ? 俺らも冬律官に恋愛のイロハを教えてもらったほうがよくないか?」

 「いやいや、それはさすがに」

 「でもよぉ……」



 黎煌国では十五で成人となり、二十歳までが結婚適齢期になる。

 貴族ならば適齢期になり次第婚約者と結婚することになるが、庶民はそうはいかない。

 家同士で婚約を交わすところもあるが、ほとんどの場合は自力で結婚相手を探さねばならないのだ。



 「婚約者様。恋愛の向き不向きってそんな簡単に分かるもんなんですか?」

 「うぉぉぉい雲悠(ウンユウ)――! 蒸し返すな――!」

 「んー? ある程度はね。やってみる?」

 


 飛辰の制止を無視し、にっこりと笑ったヒナタは雲悠へと手を差し出した。



 「え、手?」

 「うん、握手。この国じゃ女子と握手なんてしないと思うけど、まぁそのへんは気にしないで」



 再度伸ばされた手に雲悠はたじろぐ。ちらりと宝珠のほうを見たが、どうやら彼も咎める気はないらしい。



 (この二人の関係性って、よっく分かんないなぁ〜)



 だが、興味のほうが勝って、雲悠は伸ばされたヒナタの手を軽く握った。


 剣だこもない柔らかな手に思わずどきりと胸が鳴る。雲悠だって年頃の十八なのだ。

 だがそんな彼に対し、ヒナタはにっこりと微笑んだ。



 「はーい、失格」

 「あぁぁぁ!」

 


 崩れ落ちるように頭を抱える雲悠に、適齢期男子の多い修士生や衛士がざわめき立つ。

 「次お前行ってみろよ」「いやお前が……」という声がどこからともなく聞こえてきた。



 「じゃあ、俺もいいですか?」

 「いいよー。はい、握手」



 そう言って手を出してきた明洛(メイラク)の手を握ると、今度はふふっとヒナタが笑う。



 「彼女か、奥さん。いる?」

 「います」

 「だよねーモテそうだもん」



 その答えでざわめきは一層大きくなった。

 手を握っただけで何がわかるんだという興味がすっかり場を支配している。



 「おもしろいね。それで何が分かるんだい?」

 「触れ方とか手加減の仕方で、今までの女性遍歴のちょっとした確認です」

 「へぇ、実に興味深いね。異国の女人は皆できるの?」

 「……さぁ?」



 これ以上は秘密、とばかりにヒナタは人差し指を口元に当て妖艶に微笑んだ。

 思わぬ色香に男たちの目は釘付けになり、それに対し王麟は笑みを深めて宝珠に視線を向ける。

 


 「おまえのお姫様は手強そうだね。宝珠、きみやるじゃない」

 「わーい、褒められてますよ宝珠様っ」

 「……それは褒められてない。そなたは……いや、もういい。このまま大人しくしていろ」

 


 宝珠の言葉にヒナタが小首を傾げる。そのあどけなさが先ほどの妖艶さと対比になり、男たちの目線を奪っていることを理解しているのかと宝珠は小さくため息を漏らした。



 (わざとなのか、そうでないのか……)


 「ふふ、もちろんわざとですよ?」

 「!」



 内心を見透かしたようなヒナタに宝珠も目を丸くする。

 そんな宝珠に、ヒナタは悪戯っぽく笑った。

 


 「大丈夫ですよ、宝珠様。私、宝珠様以外の有象無象には一切興味ないですから」

 「有象無象言われた――」

 「弄ばれた――」

 「というかイチャつくなら他でやってくださーい」

 「嫌がらせだあぁぁぁ」


 

 げんなりする雲悠たちをよそに、振り返ったヒナタが腰に両手を当てて笑う。



 「えーなになに? あなたたち恋人でもほしいの? それならまずは体から作ったらいいよ。雲悠くん、だっけ? はい、足を肩幅に開いてー」

 「へ? こ、こうっすか?」

 「うん。はい、そのまま腰下ろしてー」

 「うぉぉぉ、痛ぇぇぇ!」

 「はい、まだそのまま腰落とす――はーい、その態勢で十秒――」

 「うっそ!? って婚約者様、肩押さないで! 股が、股が死ぬ……!」

 「死なない死なない。上半身は鍛えてるみたいだけど、下半身はまだまだだね。女の子を相手にしたいならまずは支えられるだけの足腰を作るといいわよ。はーい、これをあと三かーい」

 「鬼畜っすか――!?」

 「え? 全身やりたい? もー仕方ないなぁー」

 「うそっす! すんませんでした――!」



 あれよあれよとヒナタと雲悠の周りに人垣ができ、その輪は次第に大きくなった。

 そして、ヒナタが訓練場をあとにする頃にはなぜか舎弟のごとく兵士らが頭を下げてくる。


 

 「姐さん! 訓練ありがとうございましたッ!」

 「次は口説き方を、ぜひ!」

 「おい、お前ら……他所様の婚約者に懐くんじゃねーよ。ってことで宝珠よぉ、定期的に姫さん貸してくんね?」

 「……それは本人と交渉してください」

 「ん? そういえば私って、何のために呼ばれたんですか?」


 「…………おぉ、そうだった」



 思い出したように飛辰が声を漏らす。

 すっかり忘れられていたが、こうしてヒナタの特異性は律衛局全体に周知されることとなったのだ。



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