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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第一章

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第39話 導き


 ヒナタの登場に壇上の気配がすっと動く。

 その瞬間、ざわめいていた空気がピタリと静まった。

 

 空から舞い降りたヒナタに一時騒然としたが、ここには王――黎主・黎宵(レイショウ)がいるのだ。

 本来ならば、何人たりとも軽挙に声を発することは許されない。



 「――そなたが、冬家の婚約者か」



 その声に、ヒナタを含めその場にいる全員が一斉に礼を取った。

 

 ちらりと見た限り四十過ぎだろうか。いや、実際にはもっと若いのかもしれないが、相貌に浮かぶ虚白めいた色濃い疲れが年齢を押し上げているようにも見えた。

 それでもその堂々たる立ち振舞はまさしく王であり、指先を胸の前で合わせ礼を取った姿勢のまま、誰一人として動こうとはしない。


 静寂を裂いたのは、凛としたヒナタの声だ。

 


 「尊き黎煌国・黎主(れいしゅ)の御前に立ち会えましたこと、まことに身に余る光栄にございます。この度の祝祭、雨晴らしの役目を全うし、つつがなく神事が進みますよう務めさせていただきます」


 

 黎宵の問いかけに、ヒナタはあえて肯定も否定もしなかった。

 宝珠の婚約者であることは事実だが、それはいつ終わるとも知れぬ偽りの関係。

 それを一国の王の前で、認めるわけにも否定するわけにもいかない。


 そんなヒナタを黎宵はしばし見下ろしていたが、ついと視線を清院広場全体へと向けた。


 

 「……顔をあげよ」



 その一声に衣擦れが重なり、皆の顔と意識が黎宵へと向く。

 数秒、そんな場を眺めていた黎宵だが、再びヒナタへと視線を戻した。


 どことも知れぬ異国から流れ、四大貴族・冬宝珠と婚約を結んだという正体不明の女。

 髪を売らねば生活もままならぬ、と言われる貧困の証でもある短い髪が、皮肉と言わんばかりに最上級に美しい。そして何よりも、その栗色の瞳が一国の王を前にしても揺らぐことはなかった。

 


 「……珍しく雨がやんだな。そなたの仕業か?」



 黎宵の言葉に、ヒナタは優雅に微笑む。


 

 「今は一時的に雨を止めているだけ。正式な晴れ間乞いはこれからさせて頂きますので、どうかご安心下さいませ」

 「――なるほど。よかろう。二度も赤雲を晴らしたという力、この場で示すがよい。だが、それが叶わぬ時は……そなただけではなく、璃嵐(リラン)や、そなたの婚約者にまでもがその虚偽の目に晒されることをゆめゆめ忘れるな」

 


 針を刺すような黎宵の視線と声色に、鳥の声一つ聞こえないくらいに周囲が静まり返るのが分かった。

 だがヒナタは一瞬きょとんと目を丸くしたのち、どこか蠱惑的な笑みを浮かべる。



 「ご安心下さいませ。璃嵐様、ましてや私の最愛の婚約者様の不利になるようなことはいたしません」



 “最愛の婚約者”

 その言葉に少しだけ場にざわめきが戻り、好奇の目線が宝珠に向けられた。

 面白半分に注がれる眼差しに宝珠は疲れたように小さく息をつくが、布越しではあまり分からないだろう。


 そんな背後のざわめきを心のなかで楽しみつつ、ヒナタは一度璃嵐にも目線を向け、小さく頷いてからそっと瞼を伏せる。



 (公式の場での出来事をなかったことにするのは難しい。私の立場を示すためにも、ちょっと強めに探ってみようかな)



 まるで銀河の星屑のようと称される虹色の瞳は瞼の裏に隠し、ヒナタは短く息を吐きだし調律を紡いだ。

 

 

 「《Lv.4:解放(#〜###♪)》」

 


 それは、この惑星に来てから三度目になるレベル四の《賛歌(さんか)》。


 調律には、強制力を持ちながらも比較的穏やかで扱いやすい賛歌と、使用者さえほぼいない大災害クラスの《呪歌(じゅか)》の二つがある。

 それらは危険度によりレベル分けされるが、賛歌から呪歌へと変わるレベル六とレベル七の狭間が調律士(コードネア)としての限界領域とされていた。


 そして調律は、使うレベルが上がるにつれて()()()()の負荷がコードネアにのしかかる。



 「空が……!」

 「お、おぉ……っ……赤雲が……晴れた……!」



 周囲のどよめきに、ヒナタは虹色の残滓を消すようにゆっくり空を仰いだ。

 

 以前のように一部だけ晴れ間が差すのではない。強めにかけたレベル四の《解放》により、赤雲は弾け溶け、見渡す限り雲一つない赤空が頭上に広がっている。


 だがそれを見て、ヒナタは表情に険しさを滲ませた。



 「《Lv.5:浄化(#〜####♪)》」

 

 

 無意識に紡いだのは、もう一段階上のレベル五の賛歌。

 紡いだ瞬間、ヒナタは違和感の正体に気づく。



 (……なるほど。()()にいたのね)



 騒然とするその場で、ヒナタだけがそっと黎宵に視線を向けた。

 衣の隙間からわずかに見える、手の甲から広がる蔦のような赤い模様。

 それが今、蛇のように黎宵の腕に巻き付き、心臓へ向けてじわりじわりと侵食しているのだ。


 

 (見つけた)


 

 それはあの夜――

 朝廷に消えていった、探し物の“赤”の残滓だ。


 

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