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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第一章

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35/81

第35話 祝福


 離れようとした宝珠の手を、ヒナタは包み込んで自身の額へ軽く押し当てた。



 「何を」

 「――必ず、見つけるから。……ずっと宝珠様を守ってくれてありがとう」


 

 誰に向けた言葉なのか分からない呟きに、宝珠の瞳が揺れる。

 こんなにも至近距離で人と触れ合う機会のなかった宝珠にとって、ヒナタの行動や発言はどれも狼狽(うろた)えるものばかりだ。

 


 「宝珠様」

 「……なんだ」



 距離が、近い。

 まっすぐに見つめるヒナタの視線に耐えられず、思わず宝珠は視線を逸らす。

 


 「もしかして宝珠様は、大きな怪我や病気をされてないんじゃないですか?」

 「……?」



 唐突に切り変わった話題に理解が遅れた。

 だが改めて言われてみれば、今まで宝珠が擦り傷や軽い風邪以上の病や怪我を負ったことは一度もない。

 例え病が流行ろうと、事故に巻き込まれようと――命を狙われようと。

 

 それがまた周囲からは不気味がられたものだが、それをどこか察したようにヒナタは表情を和らげ宝珠から手を離す。



 「宝珠様にとって、その色があまりいい色じゃないことは理解してます。だけどそれは多分……祝福なんです」

 「祝福?」



 呪いでも、災いでもなく?

 言外に聞こえる内なる声を肯定するよう、ヒナタが瞳を細めた。



 「本来なら祝福のものが、何らかの理由で暴走して見た目にまで影響を及ぼした、というのが現時点の調律士(コードネア)としての私の見解です。例えば赤の影響……は、さすがに違うかもしれませんが、でもとにかく!」



 再度ぐっと距離を詰められ、これ以上逃げ場のない宝珠は背もたれに沈む。

 化粧が崩れてるからと騒いでいた人間と同一人物とは思えない距離感だ。


 

 「宝珠様の金色は不吉でもなんでもない、どちらかと言ったらありがたいものですから! あ、でも万が一この国が嫌になったら言ってください! 宝珠様なら絶対銀河で通用しますからね!」

 「……通、用?」



 途中から何かおかしくなった。

 キラキラと輝き出す栗色の瞳に、宝珠は尚も戸惑ったように視線を揺らす。



 「そーだ、それだ! ねぇ宝珠様、あたしたちの惑星(ほし)に来ません!? 名前以外、ぜーんぶ非公開の正体不明の新星モデルとして銀河に売り出れば間違いなく売れ……!」

 《あー……はいはい。落ち着けーヒナ? 完全に“あたし”に戻ってる。せっかく猫被りしてたのに猫はどこに消えたんだ?》

「はっ!」

 


 ライに諭され、意識が正常に戻ったヒナタが脱兎のごとく宝珠から距離を取った。だが、目の前で唖然とする宝珠を見て何もかも遅かったのだと悟る。

 今まで余裕のある大人の女を振舞っていたというのにこれでは全て台無しだ。


 そんな百面相でも始めそうなヒナタを見て、思わず宝珠が笑いを噛み殺した。


 

 「……っ、猫の家出など今さらだろう」

 「うそぉ!? 結構完璧だったと思うんですけどー!?」

 「酒を飲んだ時は?」

 「あ、あれは……っ楽しかったけど、でもまだ余裕のある女……!」

 「ではなかったな」

 《へべれけだったもんなぁ……》

 

 

 宝珠とライに即答され、あわあわと震えるヒナタ。

 驚きの連続ではあったが、今となってはもういつも通りだ。

 

 そんなヒナタたちを見て、驚きに固まっていた藍飛も緊張が解けたように背もたれに身を預けた。


 

 (忌み色ではない……)



 その言葉は、誰よりも宝珠の心に響くと藍飛は知っている。

 口を閉ざしがちな幼なじみではあったが、だからといって周囲の悪意に傷ついていないわけではないのだ。


 本当かどうかは重要じゃない。ヒナタの言葉が宝珠に届いたことが大切だった。



 (偽りの婚約者……だけれど)



 ヒナタの存在は、宝珠にとって想像以上のものになるのかもしれない。

 そう考えたら、この偽りの関係がもう少し長く続くことを願わずにはいられなかった。

 

 

 「もー! 宝珠様もライも二人してひどい! 大体、全部ライのせいでしょー!?」

《はいはい、俺が出てきたからいつものヒナに戻ったんだよなー悪かった悪かった》

 「腹立つー! 一ミリも思ってないくせに!」


 

 地団駄を踏む勢いで悔しげに睨みつけるヒナタと、笑ってそれを宥めるライの距離はまるで恋人のように近い。

 先ほどの宝珠との距離といい、今のライとの距離といい。普段はヒナタなりに周囲との距離を意識して取っているのだと、宝珠にも分かった。


 そんなライは意識を切り替えるよう目の奥に鋭さを宿す。

 


 《それより当面の問題は赤だ。金の残滓は王都を越えて消えた。方角的には、多分、東だな》

 「……東?」

 


 ライのその言葉にハッと反応を見せたのは宝珠と藍飛。

 互いに目線だけでなんとも言えない表情を見せ、空気を察したヒナタが小首を傾げれば、数十秒の沈黙ののちに宝珠が静かに口を開いた。



 「東にあるのは、冬家の領地だ」



 それを聞いてヒナタは事情を察する。

 実家ともいえる土地にいい思い出がないことくらい、今までの話からも容易に想像はつく。

 

 

 「……なるほど。じゃあとりあえず今調べるのは無理そうですね」

 《なら赤雲が先か》

 「だね。――なんせ、朝廷に入るならいいチャンスがあるもの」


 

 そう言ってヒナタはにやりと笑った。

 

 (まつりごと)の中心でもある朝廷にはそう簡単に足を踏み入れることは出来ないが、今のヒナタには大義名分があるのだ。

 

 星解きの巫女から依頼された――雨恵祭での雨晴らしという役目が。

 

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