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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第一章

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23/79

第23話 家族の形


 四つ目の鐘の音が遠くから響く。

 それを聞いたヒナタは、最後の仕上げとばかりに手鏡の中の自分に微笑んだ。



 「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番、強くて可憐でかっこいい、宇宙最強の調律士(コードネア)はだぁれ?」

 《――そりゃもちろん、うちのお姫様一択だな》



 そう指輪から返した()()()に、ヒナタはくすくすと笑う。

 


 「ありがと。まぁ……時間がなかった割には及第点でしょ?」



 今日の蒸し風呂では、奥の手を使ってガイア製のシャンプーとスキンケアで全身を磨き上げた。

 おかげで髪は動くたびに美しく(なび)き、昨晩、念入りに仕込んだパックのおかげで肌の調子も揺るがない。


 眉も完璧、アイラインはブラウンで控えめに、目尻と頬にほんの少しだけ色味を足して最後に淡いオレンジの口紅を引けば、本日の戦闘準備は完了だ。

 

 今日は最高の一日になると自分自身に暗示をかけて、ヒナタはそっと手鏡を閉じた。

 


 「ママが戻るまでいい子で待っててね、二人共。……念のためライを置いていくから」



 寝台の上で遊んでいた子供たちが一瞬手を止め、アステリアが少し不満げな声をあげる。



 「ライとはまだいっしょにあそべないの〜?」

 

 《――ごめんな。ここではまだ遊べないんだ》



 今まで声しか聞こえなかった室内に突如ノイズの粒子が走り、ぼんやりと見慣れた黒髪の青年が形作られていく。その姿を見て、子供たちの表情がぱぁっと輝いた。

 


 「「ライっ!」」



 半透明の姿で現れたライは少し困った笑みを浮かべながらも、子供たちに合わせてその長身をしゃがませる。



 《ママは今からお仕事だ。俺がそばにいるけど、この姿は長くは保てない。……それは二人とも、分かるよな?》



 諭すようなライの声に、嬉しそうに見上げていた子供たちの顔がまるで萎れるようにしょんぼりと俯く。


 

 「……うん、だってここじゃライのエネルギーがたりないから」

 「わかってるよ……だってここ、ガイアじゃないもん」

 《そうだな……だから普段俺がそばにいれない分、二人がママを助けてやってな》



 触れられない手でライはルークとアステリアの頭をそっと撫でた。

 見上げるように子供たちはこくりと頷き、それを見て「いい子だな」とライは真っ赤な瞳を細める。


 

 「んじゃ、行ってくるね」



 そう立ち上がったヒナタは子供たちの柔髪を撫でると、姿勢を戻したライを見上げた。


 ホログラム状態のライは、向こう側が透けるほどに薄い。 

 それでも心配げにライがヒナタの頬を撫でれば、嬉しそうに目尻を緩ませる。

 

 

 《……ヒナ、無理はするなよ》

 「うん」

 《呼んだらすぐ行くから》

 「分かってる」

 《でも物理はほどほどにな》

 「ちょっと、ライまで宝珠様みたいなこと言わないでくれる?」

 


 小さく笑い合う四人の姿は、確かに“家族”そのものだった。周りとは少し違う形だけれど、これがヒナタの家族で、守るべきもの。

 それは全て、今は亡き――婚約者(ロイド)が遺してくれたものだ。



 「ライ、ルーク、リア」



 ふわりとヒナタが微笑む。

 それは、外では見せることのない――家族だけに見せる表情。



 「行ってきます」




 *




 先に御者車で待っていた宝珠は、窓枠に肘を置き、あてもなく外を眺めていた。

 ふいにかすかな話し声が聞こえ、ヒナタが来たのだと悟る。



 (女の支度は時間がかかると聞いていたが、早かったな)



 会談は五の鐘が鳴ってから。あえて四の鐘と言ったのは準備が押しても構わないようにとの考慮だったが、どうやらその必要もなかったらしい。

 ガチャリと戸が開く音に何気なく視線を向けた宝珠は、現れたヒナタを見て思わず息を呑み、そのままの姿勢で固まった。

 

 車に乗り込む瞬間、栗色の短い髪がさらりと揺れる。

 油で艶を出した輝きではない。内側から光を放つようなヒナタの髪は、この国の常識を凌駕するほどに美しい。


 トレードマークの編み込みはそのままに、薄く施された化粧はどの角度から見ても完璧に計算し尽くされていて、そこには凛とした強さがあった。

 

 

 「お待たせしました、宝珠様」

 「……いや、待っては……いないが」



 対面に座ったヒナタの微笑みに思わず言葉が途切れる。そんな宝珠の様子に、ヒナタは楽しげに笑った。



 「とりあえず、宝珠様の婚約者として外に出ても恥ずかしくない程度には武装したつもりですけど、どうですか?」

 「それは……武装、なのか?」

 「武装ですよ。化粧は自分に自信を持って下を向かないためにあるんです。髪の長さ以外ならそれなりにこの国でも戦える見た目にはなったと思うんですけど……」

 「それを自分で言うんだな」

 「あれ? 宝珠様の好みじゃなかったですか?」

 「…………」


 返事を返さない宝珠にヒナタがふふっと軽やかな笑いを漏らす。

 別に返事が欲しかったわけじゃない、ちょっとした息抜き程度の軽口だ。

 だから無言になった室内も、決して居心地の悪いものにはならなかった。


 そうして二人を乗せた御者車は静かに軋みを上げ、坂の下、朝廷を目指してゆるやかに走り出す。

 この先で待つのは、黎煌国宰相――その人だ。


 

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