第21話 薬草スキンケア
「というわけで! 次は化粧水と乳液を作ろうと思いますっ!」
そう胸を張ったヒナタの勢いに押されて、積み木を組み上げていた子供たちは目をぱちくりとさせる。
「それって、ママがいつもぬりぬりしてるやつ?」
「そ! 次は保湿系が欲しくて。ルークもリアも使えるやつを作るね」
「じゃあ、つぎはなにをとってくるの〜?」
「ふふふ、ごめんねリア。今度はお花摘みのお仕事はないの。なんせ次の材料は、もうこのお家にあるから! というわけで二人共。あっちにおやつがあるから場所移動してもらってもいーい?」
「はーい」
「おやつー!」
「でも、その前に……十秒タイムいきまーす! じゅー! きゅー!」
「きゃー!」
いきなり始まったヒナタのカウントダウンで、子供たちははしゃぎながら積み木を元の箱に戻していく。ほとんど投げ入れている状態だが、三歳児の片付けにはノリと勢いが大切なのだ。
そうしておもちゃを片付けて軽膳室へ向かえば、卓の上に準備された皿を見て子供たちから歓声が湧いた。
「なしー!」
「ママ、なしっ!」
「はいはい、梨だねぇ。先に手を拭いて〜」
椅子に座らせてからヒナタが濡れた布を子供たちに手渡せば、今か今かと待ちわびる子供たちは形だけさっと手を拭いて梨に手を伸ばす。
先程まで敷地横の川で冷やされた果実はひんやりと瑞々しく、酸味の多いこの国の果実の中でもトップクラスに甘くて美味しいことを子供たちは知っているのだ。
「つめたーい!」
「おいしーい!」
シャリっという音から飛び出す甘い果汁は、まさに至福の味。顔を綻ばせる子供たちを横目にヒナタが続き間の家事室へと向かえば、梨の皮の片付けをしながら李姜が微笑んだ。
「ふふ、ルーク様もリア様も梨がお好きですね」
「ねー、甘いのはやっぱり好きよね。あ、そっちも準備ありがとう」
「いいえ。でも本当にこれだけでよろしかったのですか?」
「うん、充分」
ヒナタの目の前にあるのは李姜に頼んで作ってもらった薬湯と、蜂蜜と油。
菊花や金銀花などの乾燥薬草を弱火で抽出し冷ました薬湯はそれだけで効能があるのだが、ここに一手間加えたいのだ。
「ヒナタ様がお作りになった薬草液、とても使い勝手がいいと娘とも話していたところなんです。風呂で残ったものは洗剤として使えますし、なにより洗浄力が段違いで……これでは今までの洗濯に戻れそうにありません」
そう言って椅子を引いて座らせてくれた李姜に、ヒナタは顔を綻ばせる。
「ほんと? そう言ってもらえると作ったかいがあるなー。この屋敷って基本的には李姜たち二人で回してるから家事の負担ってばかにならないものね。……しかもいきなり私たち三人が増えたし」
「ふふ、ですがそれは嬉しい変化というものでございます。ヒナタ様たちが来られてから、屋敷は花が咲いたように華やかになりましたから」
「えぇ? それってうるさいだけじゃない? 大丈夫? ……宝珠様って静かな雰囲気が好きそうだけど」
苦笑いしつつヒナタは薬湯を小鉢に移し、そこに少量の蜂蜜を加えてぐるぐると混ぜ合わせる。
薬湯の時点で簡易の化粧水だが、そこに蜂蜜を加えることによって更に効果を高めるのだ。そうして出来たものを手の甲に馴染ませながら、少しずつ微調整していく。
「確かに宝珠様自身は物静かなお方ですが、お子様方の声が聞こえないと、何かあったのかとお尋ねになられることもありますので賑やかなのも悪くないと思われてるはずですよ」
「へぇ……それはちょっと意外。あぁでも宝珠様って面倒見良さそうだもんね」
蜂蜜の配合が済めば次は油だ。
先ほど作った蜂蜜化粧水に二滴ほどの食物油を加えてこれをまた素早く撹拌する。
あまり蜂蜜や油を入れすぎるとベタつきや皮脂のつまりに繋がるので調整が必要だが、こうすることで肌の潤いは保たれるはずだ。
できるだけさっぱりとした使用感になるよう調整していけば、夏用乳液の完成。それを自身の手の甲に薄く伸ばして確認してから、ヒナタは李姜のほうを振り返る。
「ねぇ、李姜。ちょっとこれを手に塗ってもらってもいい?」
「よろしいんですか?」
「うん。多分これで水仕事とかでも手がカサつきにくくなるはずなんだけど……」
そういってヒナタは、耳かき二杯分程度の乳液を李姜の手に乗せた。
油が入っているので少量でも伸びがいい乳液は、ゆっくりと手に馴染ませることで手に薄い膜を張り、その保湿感に李姜が感嘆の声を上げる。
「まぁ不思議。つっぱり感が消えました」
「でしょ? 今は塗りたてだから多少ベタつくと思うけど、しばらくしたら馴染むと思う。またあとで使用感を教えてくれる?」
「かしこまりました。でも、先にヒナタ様がお作りになったものを使ったと娘に知られたら拗ねられてしまいそうです」
今ここにはいない李花を思って二人はクスクスと笑う。
そうしてしばらく後に買い物から戻ってきた李花が予想通りずるい! と声を上げれば、思い出したようにヒナタと李姜は笑いをこぼした。




