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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第一章

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第19話 無自覚なはじまり


 同時刻――

 

 この黎煌国(れいこうこく)では、王である黎主(れいしゅ)と、宰相を筆頭に四部省十二局しぶしょうじゅうにきょくが国の(まつりごと)に関わっている。

 

 民政と経済を司る政部(せいぶ)に軍事と治安を司る軍部(ぐんぶ)

 法と司法を司る法部(ほうぶ)に祭事や福祉を司る祀省(ししょう)


 四つの部省はさらにそれぞれ四つの局に細分化されているのだが、その中でも祭事を扱う祀省は少し特別だった。

 祀省には“星解(ほしと)きの巫女”と呼ばれる巫女がおり、彼女はこの国で唯一、黎主と対等に、時に黎主より強い発言力を持つ。


 それは彼女に課せられた役目ゆえのことだが、それを知る者はほとんどおらず、星解きの巫女も普段は祀省の最奥、清院(せいいん)にいるため人前に出ることはほとんどなかった。


 ――そんなある晩のこと

 

 ざわりと燭台の炎が揺れ、今代星解きの巫女は思わず筆を止め顔を上げた。

 切り揃えられた長く美しい黒髪と意志の強い瞳が虚空を見つめたかと思うと、彼女は勢いよく立ち上がり衣を翻す。


 人がいないのをいいことに、星解きの巫女は颯爽とした足さばきで静まり返った夜の清院を歩き、外への扉を開け放つ。


 

 「璃嵐(リラン)様! 空が! 赤雲が晴れております!」

 「……あぁ、分かっておる」



 慈官(じかん)の声に、抑揚を抑えた声で璃嵐は空を見上げた。

 この黎煌国を覆う赤雲は、風が吹いても嵐の後でも晴れることはない。

 決して晴れず、動かず。常に血のように赤い空で()を訴え続けている。


 いや……もしかしたら、ただ、探し続けているだけなのかもしれない。

 数百年前に交わした――遠き日の約束を。



 「吉と出るか、凶と出るか……じゃな」


 

 二十五年前。

 あの時に何があったかは定かではないが、まさか冬家にあのような子供が生まれるなど、誰も想像し得なかった。

 身ごもった張本人、冬鈴月(トウリンユエ)さえも。


 一度ぐっと唇を結んだ璃嵐は、集まってきた慈官に指示を出す。

 

 

 「急ぎ、黎主に通達を。清院の警備は最低限でよい。赤雲が晴れた範囲で異常がないか調べよ」

 「ははっ!」

 

 

 璃嵐の声に応えた彼らは、神官とは思えぬ統率力でそれぞれの目的地へと向かう。

 やがて清院に静けさが戻り、璃嵐が一人になった時にはもう、夜空は、檻のような赤雲に覆われてしまっていた。


 

 

 *



 

 「ヒナタ様! ヒナタ様がお作りになった薬草液は素晴らしいですわ!」



 昼餉を持って部屋にやってきた李花(リファ)の第一声に、本の読み聞かせをしていたヒナタはにやりと笑う。

 

 

 「試してみて良かったでしょ?」

 「えぇ、最初は二度も髪を流すのは手間ではないかと思ったのですが、この仕上がりを見たらもう何も言えませんわね!」



 そう興奮げに話す李花の今日の髪は、軽やかでどこか艶めいている。

 発端は、昨日ヒナタが作ったシャボンソープだ。

 元々この国は蒸し風呂文化で、最後に薬湯で髪や体を洗い流すのが主流になっているのだが、どうしても洗いきれず、髪もきしみやすい。

 

 艶を出すために油を使ったりするらしいのだが、それでは根本的な解決にはならないとヒナタが目をつけたのが、宝珠邸の庭に自生していた――多年草で洗浄力も高い、サボンソウだった。


 これを煮込んで抽出して薬草液を作り、さらに今まで使っていた薬湯に少しの酢を足せば、あっという間に新感覚のシャンプーとリンスの完成だ。

 

 ちなみにこのヒナタ特製のシャボンソープ。日持ちこそあまりしないが、シャンプー以外にも洗濯や食器洗いに使えるという万能仕様になっている。


 

 「ごはんー!」

 「ママ、ごはんたべるよっ」

 「はーい。ママ、本を片付けるから先に座ってて」

 

 

 そそくさと椅子によじ登った子供たちの前に並べられた今日の昼餉は、塩漬けの青菜の粽と、葉で包んで蒸し焼きにした川魚。

 子供たちが来てから増えたという甘味は、果実をくず粉で固め葛練(くずねり)にし、甘葛(あまづら)をかけたものだ。

 

 

 「あれは作る手間はかかるけど手順自体は簡単だし、薬草摘みなら子供たちも遊びながらできるからねー」

 「うんっリア、おはなわかるよー」

 「すごいですわリア様。では、また取ってきてくださいますか?」

 「いいよ! じゃあリアがいっぱいとってきてあげる!」

 「ダメだよ、リア。おはなは、すぐにおおきくならないんだからいっぱいはダメ」

 「まぁ、ルーク様は物知りですのね。そうですわね、一気に取ったらお庭のお花がなくなってしまいますから、昨日と同じ、片手で掴める分だけお願いしてもいいですか?」

 

 

 仕事を任されたアステリアは得意げな顔で笑ったが、すぐにルークにたしなめられる。

 だが、上手にお願いをした李花のおかげで、アステリアもルークに噛みつくことなく素直に返事をした。


 そんな李花を見ていたヒナタがふむ、と考える。



 (もしかしてこれは、意外と需要あったり?)



 昨日改めて、藍飛にはついていかないようにと宝珠から釘を差されてしまったので、屋敷内でできることといえばシャボンソープのような小さな生活改善だけ。

 

 だけど、限られたこの生活の中でも――工夫次第では、存外おもしろくなるのかもしれない。

 そう気付いたヒナタは、どこか楽しげな様子だった。

 

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