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コードネア・クロニクル  作者: 熾音
第二章

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第99話 三者三様のポジション


 アオバが来る。

 そうなってはヒナタが寝てはいられるわけがなかった。


 あの超絶美貌と並ぶなど、並大抵の準備では心もとない。

 それなのに護衛Lynx(リンクス)は強引にヒナタをベッドに押し込む。



 「寝とけ」

 「いーやー!」

 「五秒で寝ろ。無理やり寝かせるぞ」

 「ひぇ……真顔こわ」



 そう震えれば、目元を隠すようにライの手で覆われる。

 真っ暗になった視界はじんわりと温かく、寝不足の体を優しく包み込んだ。

 

 この部屋には防音処置を施してあるから、室内の音が漏れることはない。子供たちの夜泣きが宝珠や李姜たちに届くことはないだろう。

 それはつまり、寝不足の原因はヒナタとライしか知らないということだ。



 「……ライがいてくれて、良かった……」



 もしもこの場にライがいなかったら、果たしてヒナタは自分を保てていただろうか。

 そんな不安ごと溶かすように、ちゅっと額に口づけられる。



 「ずっとそばにいるから心配するな。一生、最後まで離れてやんねぇから。……しょうがねーから、くそバが来たら起こしてやる。だからそれまで寝てろ」

 「せめて三十分前に起こしてよぅ……」

 「考えておく」



 めそめそと弱々しく訴えるヒナタに小さく笑えば、しばらくして細い寝息が聞こえてきた。

 ゆっくりとライが手を離せば、ヒナタはすっかり夢の住人だ。



 「……はぁ、情けねぇ」



 ため息と一緒にライはヒナタの頬を撫でる。

 たった一人の大切な女にさえ、ライは全てを預けてもらえない。


 ライにはライ、アオバにはアオバと、ヒナタは甘える居場所をいつも分けていた。

 それはきっと、“もう二度と失いたくない”という心が本能的に拠り所を分散させているからだ。


 誰かを愛してまた失ったら。

 その悲しみに、ヒナタはもう二度と耐えられない。


 だからライは、どうかと願わずにはいられなかった。

 甘えたで強がりで、とても泣き虫なこの子が、昔のようにまた無邪気に笑えるようにと。




 *



 

 「……これはどういう状況だ」


 

 時刻は六の鐘が少し前に鳴った十六時頃。夜を迎える空が深い赤を帯び始めた夕刻時だ。

 

 朝廷から帰宅した宝珠が目にしたのは、いつも以上にテンションの高い子供たちと見知った珍客の姿だった。


 

 「おや、宝珠さん。おかえりなさい」

 「おかえりなさーい!」

 「おかえりなさい、ほうじゅさまっ」



 キラキラと輝く子供たちの表情。それは、今まで宝珠が見てきた中でもダントツの笑顔だった。

 だが子供たちの中心にいる人物を見て、わずかに宝珠が表情を陰らせる。



 「アオバ殿……といったか」

 「はい。前回は突然の来訪、誠に申し訳ありませんでした。今回はきちんと玄関からお邪魔させていただきました」

 「ねー! アオバせんせい、つづきー!」

 「リアっ、あんまりおおきなこえをだすと、ママがおきちゃうよ」



 長椅子に座ったアオバの膝にアステリア、左側にルーク。そしてその右側ですやすやと安心しきった寝顔を見せる存在に宝珠は静かに目線を落とした。


 アオバの膝を枕にして、ジャケットを毛布代わりに体にかけられぐっすりと眠るヒナタ。

 今日の朝、寝不足を察してヒナタを寝かせるよう家人に申し付けたが、それはこういう展開を予想してのことではないと宝珠はため息を漏らす。

 

 そんな宝珠の背後から申し訳なさそうな声がした。



 「すみません、宝珠様。あいつ、朝にいきなり連絡してきたと思ったら有無を言わせずやってきまして……」

 「……ライ」



 盆片手に見たこともない菓子を並べたライは宝珠の横を通り過ぎ、卓上にそれを置く。

 その瞬間、子供たちから歓声が上がった。



 「ケーキだ――!」

 「パティスリー・ボーノのケーキですよ。ふたりともお好きでしょう?」

 「すきー!」

 「ありがとう、せんせいっ!」

 「ふふ、どういたしまして。先に選んでいいですよ」



 並べられた色とりどりの小ぶりなケーキに子供たちの目がらんらんと輝く。

 どうしようと悩む二人を前に、ヒナタが小さく身じろぎし、アオバの指先が愛おしげにヒナタの髪に触れた。



 「起きますか? ヒナタさん。ケーキがありますよ」

 「んー……?」

 「ふふ……まだ眠そうですが、もう夕方です。宝珠さんも帰ってこられましたよ」

 「へぁあぁ!?」



 がばっと起き上がったヒナタの肩からアオバのジャケットが滑り落ちる。

 宝珠が帰ってきたという情報に、寝起きを気にする暇もなくヒナタの目が宝珠の目と交差した。

 

 宝珠の姿を見て、ヒナタが止まる。

 そして一瞬息を飲んだかと思えば、第一声……



 「う、浮気じゃないですよ――!?」



 と全力で叫んだ。

 

 その思わぬ魂の叫びにライが勢い余って吹き出し、アオバが顔を逸らして「失礼」といいつつ肩を震わせる。

 当の宝珠に至っては、深い深いため息をついて額を押さえた。

 


 「え……あれ? ちが、う……? あれ?」

 「くく……見事に寝ぼけてんなぁ、ヒナ」



 笑いを押さえながら、ライが跳ねたヒナタの髪を手櫛で整えてやればヒナタは困惑したようにライを見上げた。



(えっと、アオバさんが来て……色々持ってきてくれたからそれを子供たちと食べてたらすんごく眠くなって……それから膝枕してもらって……?)



 宝珠がいない間、わりと好き勝手にアオバに甘えたヒナタだが、さすがに良心の呵責というものはある。

 偽りの関係とはいえ、この黎煌国でのヒナタは宝珠の婚約者で、しかもここは宝珠の屋敷だ。

 

 だから浮気ではないという叫びは、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 おずおずとライから宝珠へと視線を向ければ、その金色の瞳がどこか哀れみを含んだように細められ、ヒナタは身震いした。


 どうやらこれは、またしてもお説教案件らしい。

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